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第四章  【ソイランド】

4-144 チェリー家の屋敷で2

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ここは、ステイビルに用意されたチェリー家の屋敷の中の一室。


いまより三十分ほど前まで、一緒に旅を続けている者たちだけで集まり今後の行動について話し合いが行われていた。
その話し合いも全員一致で行動予定が決定し、その後数分間に食事のおいしさや町の感想など談話が行われた。
その時間も終わり、それぞれが用意された部屋の中に戻り、今日の疲れを癒すために眠りについていった。

エレーナはまだ飲み足りなかったらしく、ハルナを呼んでもう少し夜の時間を楽しむと言っていた。
ブンデルとサナは、そのまま二人に用意された部屋に戻り眠りにつくことにした。


そうして騒がしかった部屋の中に、静かな時間が流れていく。
ステイビルは机の上で両手を組み、今日起きた出来事を頭の中で思い出していた。
あの時、モイスが連れ出してくれなかったら……サヤがあの能力を使いこなせていたら……
様々な不安に対して、思考を巡らせ状況を整理する。
もし同じような状況になった場合、相手との交渉方法や取引の進め方など、今回失敗したと思われる内容を考慮しプランをいくつも練り上げている。
その中に正解があるとも限らない、だが用意しないのは自分を含め仲間の命に関わること。
選択の分岐点を何度も戻っては選択し、様々な状況を検討していった。


――コン……コン


のんびりとした間隔で扉が叩かれ、それに対しステイビルは入室を許可する。


「失礼いたします……」


声と同時に開いた扉の先には、この屋敷に勤めているメイドの一人……メイが立っていた。
その後ろには、夕食のときなどメイド見習いのため付いて回っていたクリアの姿はなく、代わりにメリルの姿がそこにあった。


メイがメリルを部屋の中に通した後、周囲に人の気配がないことを確認して、一礼をして扉をゆっくりと閉じた。
メイの気配は遠ざかっていき、完全に消えていった。




「ステイビル王子……お疲れのところを誠に申し訳ありません」


「メリル……そんなところに立っていないで、こちらに来て座ったらどうだ?」


「ありがとうございます……王子」


メリルはステイビルに礼を告げて、部屋の奥に入っていく。
そしてそのままテーブルに座り、ステイビルもメリルの正面に座る。


二人の間に静かな時間が流れて、そのことにステイビルが耐えられなくなり先に声をかけた。



「メリル……無事で何よりだった……辛かっただろう」

「いいえ……といいたいところですが。怖かったです、あの男に何かされるのではないかと……ですが、あの日の王子の言葉をずっと繰り返しながら耐えてまいりました」


ステイビルもそのことは忘れてはいない……いまでも、自分が言った約束は覚えている。

「ですが……王子もいまは、重要な役目の途中。それに、私ごときがかなえられるような希望ではありません……ですが、あの時の言葉が、閉じ込められていた時の私を助けてくださいました。そのお礼をお伝えした……く……」


メリルの目からは、堪えきれなかった感情が溢れ出し、涙となって流れ落ちる。


「あれ……すみません……王子……涙が……そんなつもりでは」


「いいんだ……メリル……怖かっただろう」


立ち上がったステイビルは、そういってメリルの傍によってその身体を抱きしめた。


「う……うぅ……こわ……かった……一人で……ずっと……!」



メリルはステイビルの身体を抱きしめ、その胸の中で思い切り泣いた。
今までずっと我慢をしていたメリルの後ろ頭を撫でながら、ステイビルは何も言わずにただただメリルの感情を受け止めた。
ソイランドに来ることが遅れ、メリルの救出が遅れてしまったことにステイビルは自分を責めた。
治安が悪いとは聞いていたが、ソイランドの町の大臣となったチェリー家がこのような状況になっているとは思ってもみなかった。
しかし、それは言い訳にはならない。
メリルをこんな危険な目に会わせてしまったことに、ステイビルは自分を責めると同時にべラルドに対し怒りの感情が沸き上がる。

だが、個人的な感情でこの一連の問題を片付けていいわけではないと、頭の中の別な場所で自分自身に語り掛ける。

とにかく、今はただメリルの感情をそのまま受け止めることだけにした。














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