上 下
574 / 1,278
第四章  【ソイランド】

4-120 ソフィーネ8

しおりを挟む








闇の中に姿を隠すように、ソフィーネは森の中を進んでいく。
獣などに襲われる心配もあるが、今までも夜の中の森を歩きまわりそれを避ける方法は知っている。


王国に行くための道に出るには、この森を通り山を越えるルートが一番早い。
右手に見えていた月の位置も頭の上まで昇り、時間が経っていることを示していた。


――?


ソフィーネは、嫌な感じがして後ろを振り向く。
今日は空気が澄んでおり、遠くまで見渡せる良い夜だ。

振り向くと自分の村の方から黒い煙が立ち上り、その下には広い範囲で赤く燃えている明かりが見えた。



ソフィーネは急いで、歩いてきた道を戻る。
かなりの時間が経っていたのは慎重にゆっくりと歩いていたから。
だから、走れば今までかけてきた時間の半分以下で村に戻ることができるだろう。
森の危険を気にすることなく、ソフィーネは全力で走っていく。
獲物を狙っていた動物たちは、ソフィーネの勢いに怯えて逃げていく。



ソフィーネは息を切らしながら、村の入り口に立ち辺りを見回す。
そこには既に殺戮を終え、襲った者たちや逃げ惑う人々の姿はそこにはなく、絶命している見知った者たちが無残にも地面に横たわっている。

ソフィーネは、ほんの数時間前に出てきた村の状況が変わっていることに対しショックを受けている。
だが、進む足取りは走ってきた疲れや精神的な動揺も見せずにしっかりとした足取りで村の中を進む。
下火になってはいるが、家が焼けた熱がソフィーネの頬をじりじりと照らす。

自分の家には火が放たれていない事に気付き、足をそちらの方へと向けて歩く。
開いたままのドアに足を踏み入れる、そこにうつ伏せになった男が絶命している。
ソフィーネは足を使って遺体を反対側に返すと、それは右肩口から斜めに切りつけられていた父親だった。


家の奥へと視線を移すと、家の奥に続く引きずられたような血でできた痕跡が見える。
進んで行くと、そこには背中に何か所か刺し傷を負って力尽きた女性の姿が見える。
女性は、ソフィーネのベットの上で倒れ込むようにし、その手には一通の手紙を握っている。
それは、王国から送られてきた手紙だった。

きっと、この騒ぎが起きた時、ソフィーネを逃がそうとしたのだろう。
だがそこには姿はなく、荷物も無くなってたことからこの場にはいないと判断したのだろうか。
血で汚れたその顔は、安心した安らかな表情だった。


ソフィーネは悔む、母親に嘘をついてしまったことを。
どこにも行かないと告げたが、別れの挨拶もできずに家を出てしまったことを。
けれども、ソフィーネの目に涙はない。
生みの親としての感謝の気持ちはあるが、これまでの家族の状況を考えればこの状況を”運がなかった”の一言で片づけられる程の関係性だった。
さらに言えば、これ以上この村でおかしな父親に振り回されることがなくなったことに安心する方が心の中を占めていた。


戻ってくることが遅くなったこと黙って出て行ってしまった最後の嘘を詫びて、ソフィーネは母親をベットの上に載せた。






再び家の外に出ていくと、向かいの家の裏に人影が見えた。
隠れて様子を伺うと、小柄な男が何か身体を動かしている。
その手元を見ると、小さな女の子がその男によって玩具にされていた。

その子は、ソフィーネと別れる際に必死に泣くのを我慢してソフィーネを送り出してくれた子だった。


「ねぇ……そこで何してんの?」


ソフィーネは、姿を見せて男の背後から声を掛ける。
すると男は身体をブルっと震わせたのは、突然声を掛けられたからではなくコトが果てたためだった。

ソフィーネは汚いものを見るような目を男に向ける、玩具にしていた子は既に絶命していた。
そんな子供に更に追い打ちをかけるような男に、ソフィーネは殺意しか抱かなかった。


「……おいネーちゃん。ちょうどいいところで声かけて邪魔しやがって!」


そう言いながら身体を引き抜き、汚いものをズボン中に仕舞い腰ひもを結ぶ。
男は目を細め今までこの村に入ってから見たことのない女性に対して思い当たるところがあった。



「まさかお前……ソフィーネっていうやつか?」



ソフィーネはその言葉に答えを返さず、死姦をしていた男を見抜く。
だが、男はそんなソフィーネの怒りをモノともせず、さらに言葉をつなぐ。



「あぁ、そうか。お前のこと探してたんだぜ?あの男……お前のオヤジがよ、お前を売り渡そうとみんなで探したんだけどよ……いないもんだから、こんな風になっちまってよ」


男は両手を広げ、さもこの状況はソフィーネが悪いといわんばかりの態度をとる。
その態度にソフィーネは、我慢の限界がくる。
次の瞬間、男の右手を昨日まで研ぎあげたナイフが突き刺さり、遅れて今までに感じたことのない痛みが、男の脳に襲い掛かる。


「ぅぎゃあああああぁぁああっ!!!」



男は手を抑え、地面に座り込む。
突き刺さったナイフを抜く勇気もなく蹲っていたが、ソフィーネが獲物を狙うように男に近づいていく。

「ま……待って!?」


男は足りない言葉でソフィーネに止まるようにお願いするも、その願いは聞き届けられることはない。
後ろを振り向き、男は自慢の敏捷性を生かし森に向かって逃げるために駆け抜ける。



――ドス

「かっ……はぇっ!」


男の喉からは、刃物の先が突き出ている。
喉からはヒューヒューと空気が漏れる音が、自分の耳にも聞こえてくる。
何か話そうにも声帯もイカれ、呼吸もままならない状態では何も言葉を発することはできない。

男は血が流れていく味を喉の奥で味わいながら、気が遠くなりその場に倒れ込んだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...