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第四章 【ソイランド】
4-110 考察
しおりを挟むその瞬間、メイヤは自分の首に細いワイヤ―状の紐が輪の状態で掛けられているのに気付いた。
メイヤは慌てることなく、その輪が閉まり切る前に短剣を首の間に入れる。
使っていた紐は、軽さと強度のバランスを保つためか金属製ではないものが使われていた。
そのおかげもあり、締め付けられると同時にナイフの刃で切断され、メイヤは再び自由になる。
先ほどの死体も、この方法でやられたのだと気付きこの場所には暗殺に長けたものが潜んでいるのだと判断した。
しかしなぜ、この町に潜んでいた者たちが狙われたのか?
狙ったものは、ここの組織と関係ないものか?王国の手が伸びてきたことを考えて証拠隠滅のために殺害したのか?
それとも、もしかして……
一瞬にして様々な可能性がメイヤの頭の中を駆け巡る。
だがそれよりも、ハルナとメリルのことを最優先で意識の中に浮上させた。
まずは安全な状況を確保するために、自分を襲ってきた相手を始末することが先決であるとメイヤは判断する。
紐は上から下げられてきたことから、狙った敵は屋根の上にいると考えた。
ここまで自分のナイフが首を救ってから一秒も経っていない。
建物の壁に置いてある樽の上に一足で登り、飛び乗る跳力と合わせて足をかけた膝を伸ばして飛び上がる。
不安定な樽の上で、下の踏み台を倒すことなくメイヤは完璧な跳躍を見せる。
屋根の上に敵が待ち受けていることも考慮して、メイヤは上半身だけ屋根よりも上に出した。
その時目にしたのは、反対側から逃げようとする人影。
メイヤは、裾に隠し持っていたナイフを一本取り投げつける。
ナイフは相手に命中したが、飛び降りた際に巻き上がるマントのような布を破り通り抜けていった。
仕留められなかったことを確認したメイヤは、埃が床に落ちた時のような重さでそっと樽の蓋の上に着地する。
耳を澄ませ、敵が逃走している方向を確認する。
が、相手も相当な技術を持っているようで、逃げる際の物音は一切聞き取れなかった。
(ほんと、厄介な相手だわ……)
メイヤは一度、隠れた敵を追いかけることを諦めた。
それよりも先に、ハルナとメリルと合流しようと考え、周囲に注意を払いながら他の建物に入っていく。
できれば、先ほど交えた敵と思わしき人物からうまく逃げていて無事であって欲しいと願いながら。
二人の存在が消える間、全く音がしなかった。
先ほどの死体を見れば、相当腕の立つものがやった仕業であることはわかっている。
いくらハルナとメリルが精霊使いだとしても、メイヤたちのような諜報員であれば隙を付けば無音で息の根を止めることも可能だろう。
メイヤが考える状況では、それは相手が一人の時で相手に気付かれずに近寄ることができた場合が前提だ。
あの二人が敵を見つけた場合、あのような短い時間で二人同時に気付かれずに襲い掛かることは難しいだろう。
(まさか……二人いる?)
相手の戦力がどのくらい用意されているかわからない状況で、飛び込んできたのは間違いだったかもしれないと初めて悔やんだ。
本当はソフィーネが拘束を自ら解いて、この町を既に制圧していることも考えていた。
ソフィーネには単独でも、そのくらいの実力がある。並みの者たちには決して負けることはない程の実力が。
(あの子も相当実力をつけてきたから……そろそろ本気を出さないと相手が務まらないわ)
メイヤは隣の建物を目指して歩いていく、周囲を警戒しつつ二人が消えた痕跡も探しながら。
別の建物も先ほどと同じような構造をしており、もともとは住居用の建物だと判断した。
部屋の中は全く同じ構造だったが、放置されている死体は同じ死因と思われるが入口に近い場所で絶命していた。
そして、こちらの遺体にも抵抗した跡が見当たらない。
この町に入ってから、先ほど遭遇したもの以外の人の接触がないということは、残りの建物の中も同じような状況となっていると判断することは想像に難しくなかった。
そして、背後から小さな塊がメイヤの耳元を掠り飛んでいく。
当てる気がないことを感じ、メイヤはそれを避けなかった。
塊は壁に当たると砕け、キラキラと空気の中に消えていった。
「動かないで……そのまま武器を手離して、両手を上げてください」
メイヤはその声に従い、手に握っていた短剣を手足元に投げて両手を頭の上に上げた。
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