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第四章  【ソイランド】

4-68 ブンデルとサナ6

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屋敷の外に出る、三人に張り詰めた空気が漂う。
東の空はまだ星の光がはっきりと見えているが、登る太陽がそれら夜の世界を喰らいつくそうと待ち構えている雰囲気が伺える。



メイの手には、屋敷の勝手口に置かれていた”非常用”と書かれた箱の中から取り出した二つのハンドベルの取っ手が握られている。
メイドになって、幾度となく練習をしてきた緊急時を知らせるベルのリズム
両手に持ったハンドベルは、高い音と低い音の二つの組み合わせで状況を他のメイドに知らせる。
そのため、受け取る側が正しく判断が可能なようにメイド達はハンドベルの鳴らし方を練習している。


その先には、ブンデルが魔法の準備をしている。
ブンデルの前には複数の魔法の術式が浮かび上がっている。
メイの隣にいるサナはブンデルが行っている魔法の操作に目を丸くする。

ブンデルが行っているのは魔法の重ね掛けというもので、魔法使いとしての技量と保持している魔力の器の大きさがある程度ないと実現できない。
発動しようとしている魔法は、マジックアローとライトニングの掛け合わせ……さらに言えばそれを同時に三つも制御している。
サナはそれをもし自分ができるとするなら、既にこの状態で魔力が尽きて気を失ってしまうだろうと考えた。
それ程、ブンデルが行おうとしている魔法の発現は、高度な技術を要する魔法だった。



準備を終えたブンデルは、メイに合図を送り始まりの合図を依頼する。


その合図にメイは一つ頷いて、ハンドベルを鳴らした。


「カラーン、コロン、カラーン!……」


ハンドベルの音がチェリー家の敷地内に響き渡る。

始めに鳴らしたリズムをもう一度鳴らす、まだ姿を現さない。
そして三回目が鳴り響き、最後のベルの余韻が空気の中に消えていく。
本来ならば、同じ間隔でもう一度鳴らすべきハンドベルは、それ以降鳴らされることはなかった。




――バン!!


ベルの余韻が完全に消えた直後、三人のメイドが部屋から飛び出してきた。
その姿は既に作業用の服に着替えており、抗戦に必要な装備も既に準備されているとブンデルは判断した。


「まあ、関係ない話だけどな……いけ、『マジックアロー』!」


用意された術式からは雷を帯びた魔法の矢が発射される、それは弦を引き絞りようやく出番が来たと言わんばかりに目標物に向かっていく。




「――げぇっ!!」

「――ぎゃぁ!!」




ブンデルが放った魔法の矢は、意識を持っているかのように方向を微修正し目標に命中した。
被弾したメイドは、矢の威力と矢に含まれた電撃によって身体を貫かれ声をあげてその場に倒れ込んだ。
だが、その声は二人しか聞こえてこなかった。

残った一人は、片膝を付いてその痛みに耐えている。



「マズい……仕留めきれなかったか!?」


その声と共にブンデルの膝は折れて、そのまま地面に倒れ込んだ。


無理をして操った魔法のツケが、今になって出てきてしまった。
参考人として殺さないようにと、 矢と電撃の威力は抑え気味にコントロールしていた。
そのうちの一つは、抵抗されてしまう程の威力となってしまった。


薄れていく意識の中、ブンデルは抵抗したメイドが身体の自由を取り戻していく様子が見えた。


「さ……サナ!……逃げ……ろ!」



サナもその様子を見て、ひとり残ってしまったことは認識している。
それと同時に腰に下げていたメイスを両手に持って、相手の攻撃に備えようとしていた。


「ば……何を……てる……逃……ろ……早く」



サナの耳には届かない声でつぶやくような言葉を最後に、ブンデルの意識は闇の中に飲み込まれていった。




人間には魔法を扱うことはできないが、魔法の防御力が高い者もいる。
亜人や魔物の襲撃を受けて、魔法を使われたときにある物だけが助かったという話もよく耳にする。
そういう者は、魔法に対する防御力が普通の者たちより優れているという証だった。



片膝を付いて電撃に耐え終わったメイドは、二度三度頭を振り正気を取り戻す。

そして、周りを見ると”自分の仲間”のメイド以外は警告のベルで外に出ていないことを理解した。
自分以外の二人は、先ほどの魔法によって意識を失っているのか死んでいるのかはわからないが、動ける様子ではない。


さらに視線を変えるればそこには倒れ込んだエルフと、少し離れたところにドワーフと同じメイドのメイが立っているのが視界に入った。



「メイ……まさか……貴様!!!」



メイドは後ろに付けていたダガーを抜いて、メイとサナに向かって構えを見せた。










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