上 下
500 / 1,278
第四章  【ソイランド】

4-46 手紙

しおりを挟む





グラムは町を出ることもできないため、これ以上メリルの消息を追うことができなかった。
グラム自身、この町の中で廃墟の中に閉じ込められ、行動を封じられているようなものだった。
だが、グラムはできる限りの行動を取り、情報を集め、仲間を増やし、来るべき日に備え続けていた。


チェイルもグラムの協力者の一人となる。


グラムは、ブロードからユウタの居場所を聞き面会をした。
その話を聞いていたチェイルは、グラムの力になりたいといった。


チェイルには一人の兄がいた。
親がいないため、兄弟二人で生活をしていた。
だが、兄はある日チェイルの元に帰ってこなくなる……魔物襲撃事件によって。

チェイルの兄は、新米警備兵としてグラムの下で働いていた。
あの日の襲撃で、半数近い命を落とした部下の中にチェイルの兄がいた。
魔物の大群には、新米警備兵では成す術もなく魔物たちの餌食となってしまっていた。




その話を聞いたグラムは、チェイルに戦闘の技術を教えることにした。
今までは盗みや廃棄物を漁るだけの生活をこの町の住民らしく、この子たちの将来のためにとグラムもできる限りのことを伝えようと決めた。

しかもチェイルは、自分の妹ではない小さな女の子も守っているという。
”いつかこの町の体制が変った時には、この子たちにも良い未来を創ってあげたい……”
グラムはそう誓い、折れかかった心を奮い立たせた。




その話を聞いたハルナは、チェイルの顔を見る。
視線を送られたチェイルは、耳を真っ赤にし下にうつむく。
チェイルもクリアのことを、自分の妹のように感じていた。

チェイルも自分の兄から受けた愛情を、そのままクリアに注ぐとそう決めていた。



サナは、自分の腕の中で安らかな寝顔のクリアの前髪をそっとかき分けた。
いままでの苦労が報われる日が来るように、精霊の加護が受けれるようにと小さな子供に祈りを捧げた。
その隣で、ブンデルも同じく森の神に守られるようにと祈りをささげている。


その様子を見たステイビルが、ソフィーネに声を掛ける。


「……ソフィーネ」


「畏まりました。外で待つメイヤに、町の外の状況を調べさせてきます」


ソフィーネの言葉にステイビルは頷いて見せた、何も言わなくてもステイビルの気持ちは伝わっていた。



「それで……グラム。いま周りには、どのくらいの味方がいるのだ?」


「はい。現在、十数名の仲間がこの廃墟の中で身を潜めております。その者たちは警備兵で、あの襲撃事件をも生き延びた者たちです」



その中に裏切り者はいないか問い質そうとしたが、今ここで行うべき作業では無いと判断し、その言葉を飲み込んだ。



「まずは、メイヤに探らせてみるか……」


ステイビルは、知っている。
メイヤ程の諜報員でも、ソイランド周辺の情報を持っていないことはかなりの力によって情報が隠蔽されている可能性が高い。
そんな中にメイヤ一人で捜索させるには気が引けるが、数人で行動するよりは一人で動いた方が身軽であることも確かだった。
だが、今の状況はかなりステイビルたちにとっては不利な状態である。
この大きな壁に亀裂を入れて、崩壊させるにはどのような手が必要か……ステイビルは頭の中を巡らせる。
しかし、どう考えても抵抗する戦力が少なすぎた。


そんな中、ステイビルはある存在を思い出した。
その存在は、いつも一緒で似ているようで別な存在……もう一人の自分。




「グラム殿……キャスメルもこの町に立ち寄ったとパイン殿から聞いている。何か知っているか?」


「キャスメル様が!?……いえ、私は何も存じ上げておりませ」


その言葉に被せるように、チェイルが思い出したように話を割り込ませた。



「あぁ、そう言えばグラムさんに尋ねてきた方がいました。……ですが、その時は見張られており、グラムさんと連絡が取れない状態でしたので……それで……あの」



今まで用事が思い出せなかったことを恥じたのか、チェイルは焦って言葉を繋げようとする。
ステイビルが落ち着かせるように、ゆったりとした声でチェイルに話しかけた。



「落ち着くんだ……チェイル。それで、グラム殿に誰から用事があったんだ?」



ステイビルの一言で正気を取り戻したチェイルは、預かっていた物を腰に付けたバックから取り出す。
その手に取り出したものは、蝋で固められた封がしてある一通の封筒だった。

封筒を手綿われたグラムは、その外見を見る。
チェイルの汚れた手の痕が、綺麗な封筒の様々なところに見受けられる。
だが、中身には何の問題もないため、気にはならなかった。


ステイビルは封筒を開けるために、腰に付けたダガーを抜き持ち手を向けてグラムに渡した。
グラムはステイビルに礼を言って、ダガーを手に取る。
取っ手には王国の金貨がはめ込まれ、その円の中には大精霊の姿が描かれている。


グラムは切っ先を使って封筒を開封する。
中から四つ折りに畳まれた用紙を取り出し、開かれないようにと折りたたんだ辺に付けられていた蝋を爪で削り取り中を開く。




「……」



グラムは目を横に滑らせ、文字を追っていく。
読み終えた、手紙をステイビルに差し出た。





「ステイビル様……ロースト家の”カルディ様”からです」








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...