496 / 1,278
第四章 【ソイランド】
4-42 僅かな違い
しおりを挟むその時見グラムはていた、魔物が”なぜか”ユウタだけを外して攻撃していることを。
当時に起きた襲撃時に感じた気になる点をいくつかユウタに確認していった。
だが、全ての質問に対してユウタの言葉は――”何も知らない”だけだった。
本当に知らないのかどうかは、グラムにはすぐに分かった。
この手のごまかしには、独特の言葉の色がある。
その色は何らかの事情により、ユウタが何かを隠していることがあるということが伺えた。
グラムはこの場所に入ってくるときに、厨房のような場所だけはきちんと整理されているのが見えた。
(自分の仕事に関わる場所を大切にするものが、悪いことを進んで行うことは考えられない……)
この建物に入った時から、グラムはユウタのことを信頼していた。
それに、ブロードだけでなく今ここにいるチェイルにも調理を教えているようにも見える。
そんなユウタが本当に悪いことを考えているとは、多くの物から信頼され人材を育ててきたグラムの目には見えなかった。
どのような質問に対してもまともに返ってこないユウタにグラムは、最後に一つだけ嘘をつかずに答えて欲しいとお願いした。
その気迫に押され、ユウタは正しく答えることを約束する。
その言葉で今までの嘘がバレてしまったと思わなかったのは、ユウタは自分の暢気な性格に救われていた。
出された貴重な飲み物を口に含み、時間を開けてグラムはユウタに最後の質問する。
「あの魔物は、町の警備兵の誰かからの差し金だったのか――」と。
その問いに関して、ユウタは安心して否定をすることができた。
その答えを聞いて安心したグラムは、ユウタに力を貸して欲しいと伝えるが、ユウタはそれを断った。
グラムはユウタが魔物と関係性を持っている可能性が高いと考え、町を救うためには魔物の力も借りることも考えていた……この身を魔物に売り渡したとしても。
「……そして私は、グラムさんに協力を申し出ました。私も……この町を変えていきたいと思っていたんです」
そういうと、チェイルは横を向いてハルナに抱かれた落ち着いたクリアの寝顔を見つめる。
「ふむ……そういうことか。で、いまグラム殿はどちらに?お……お一人だけなのか?」
ステイビルからの質問にチェイルは視線を前に戻し、ステイビルの質問に応じた。
「はい……グラムさんはいま、お一人でいらっしゃいます。ですが、すぐにご案内することは難しいです。最近、変な奴らが増えてきてグラムさんを狙っているのです」
「狙われている?……グラム殿が?……いったい誰に?」
ステイビルは、矢継ぎ早に質問を重ねていく。
その怒涛のような質問に、チェイルは戸惑いの表情で声の出ない口だけが動いている。
「……ステイビルさん」
ハルナは腕の中のクリエを起こさないような優しく語り掛ける声に、ステイビルは正気を取り戻す。
「す……スマン。申し訳なかった、チェイル」
「い、いえ。大丈夫です……」
「……それで、変な奴というのは?」
「はい……いまグラムさんが身を隠しているところに、今までこの周辺では見たことのない人物の姿を見るようになってます」
「だが、それは何というか……その”新しい”住人なのではないのか?」
ここには様々な人が、様々な事情でこの場所に流れ込んでくる。
ここから出ていくも、入ってくるのも自由な場所だ。
弱肉強食の世界ではあるが無駄な争い事はしないし、基本的にはお互いの縄張りを荒らしたりしないという暗黙のルールがある。
チェイルが言うにはそこの場所は、誰も入ってこれないようにグラムが怪しまれない程度な間隔で既に住人を配置していた。
だが最近、いつも似たような人物がこの周囲を何かを探るように、その周囲を徘徊しているのを見かけているらしい。
「うむ……それだけか?何か他に気付いたことはないのか?」
ステイビルの中では、もう一つ何か決定的な証拠が欲しい……そう感じていた
「……あります。その人物の格好が、この住人とは明らかに違うのです」
(何かこの場所に住まう者たちが身に付けている印でもあるか?)
ステイビルは、自分たちの変装もそれによって見破られていた可能性があることを反省した。
「違う……明らかに?」
ステイビルはその答えを恐る恐る問いかけた。
「それは……”服装”と”臭い”です」
ステイビルは、チェイルの話を納得した。
自分たちも薄汚れたローブを纏って身を隠しているが、いくらその中が汚れていると言っても、この住人たち程汚れているわけではない。
臭いに関しても、エレーナが水の精霊使いのため飲食用も含め、気にすることなく身を清潔を保つために水が使える。
ここの住人……この町の住人は通年を通し、水が不足している。
町の中で暮らす人々は体臭を消す香などがよく使われているが、この廃墟の住人にはそんな高価なものは手に入らない。
よって、個々の住人には独特の体臭を放つ者が多い。
チェイルはその者には、それらを感じないとステイビルに伝えた。
「なるほどな……チェイル。すごいぞ」
チェイルは、褒められて驚いた。
これだけ凄い人たちと旅をしているリーダー的存在に褒められたことは、光栄なことではないかとチェイルは感じた。
「よし、まずはグラム殿にどうすれば安全に会えるか……そこからだな」
ステイビルの言葉に、ハルナたちは頷いた。
0
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました
第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった
服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです
レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
隣の古道具屋さん
雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。
幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。
そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。
修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
地球にダンジョンが生まれた日---突然失われた日常 出会った人とチートと力を合わせて生き残る!
ポチ
ファンタジー
その日、地球にダンジョンが生まれた
ラノベの世界の出来事、と思っていたのに。いつか来るだろう地震に敏感になってはいたがファンタジー世界が現実になるなんて・・・
どうやって生き残っていけば良い?
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
他人の人生押し付けられたけど自由に生きます
鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』
開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。
よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。
※注意事項※
幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる