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第四章 【ソイランド】
4-34 分断
しおりを挟む「アルベルト!!戻ってくれ、すぐにだ!!」
「あわわわわ!?ま、待ってくれー!」
「ブンデルさん!!」
一番遅れてきたブンデルは、出されたハルナの手を掴み走り始めた馬車に引き上げられた。
「どうしたんですか!?」
「いや、悪い予感……というか、嵌められた気がしてな」
「どういうことですか、それ?」
ハルナはステイビルの考えが気になったのか、ブンデルの手は握られたままステイビルに問いかける。
ブンデルも悪い気がしなく、自分から手を離すことはしなかった。
が、エレーナの”いつまで手を握ってるのよ、あんた達”という言葉に二人とも我に返り、お互い詫びながら手を離し、それと同時に二人の頭の中にはサナの顔が浮かんでいた。
「……うむ。あの火事は我々の戦力を分断させる狙いがあったのではないかと考えたのだ」
「分断……ですか?」
「そうだ。まず、連れ去った男たちを連れては外に出ないだろう?そこに見張りを置いておく必要がある。そうなれば、奪還されることを阻止するとならば一人や二人というわけにはいかない。そうすれば我々の戦力をほぼ半分ずつにする必要性がある」
「そこまで考えて……」
「相手にも知恵者がいる可能性はあるな……だが、”あの二人”がいる限りそうそうこちらが不利になるることは少ないだろう」
ステイビルは王国の中でも信頼の高い、諜報員二人の顔を思い浮かべる。
どんな危険な任務でも、彼女たちは少人数でこなす力を持っている。
敵の数が増えたとしても、それはさほど問題はない。
それに、あの捕まえた男たちが仮に口封じされたとしても、それを見た後なら不利と判断しあの二人は自分たちの安全をとる行動に変更するだろう。
とにかく、あの二人に任せておけば何ら問題はないと判断し置いてきたのだ。
そのステイビルの判断は、正しかったことが証明される。
宿に戻ると、残してきた者は全員無事だった。
だが、ステイビルが考えていたように、何者からか襲撃を受けていた。
応戦している間に、人質の全てを失ってしまうことになったが。
ステイビルたちが火事の現場に向かった後、意識が戻った一人から聞き取りを行っている途中だった。
そこで聞き出したのは、捕らえたブンデルたちは町の外に連れ出されガラヌコアの途中にある中継地点として利用している小屋に運ぶ予定だったという。
そこで窓の外から黒いローブに身を包んで顔を隠した者たちが数人、突然襲ってきたという。
一人はメイヤに対して襲い掛かり、その後ろからは影から出て来たかのようにもう一人現れ、尋問していた男の喉を剣で刺した。
メイヤはそれを横目で見ながら、最初に現れた男の剣を両手に持ったダガーで応戦する。
更にその男の背中の影からもう一人現れ、二人掛かりでメイヤの足を止めていた。
先ほど人質の止めを刺した者は他の部屋……人質を隠しておいた部屋に向かっていった。
メイヤはその者たちの後を追おうとしたが、相手の攻撃によってその場に止められていた。
攻撃のレベルは大した攻撃ではないが、何の目的か分析している途中で二人目が現れたため、やることが増えてメイヤは身の安全を優先させることにした。
相手の攻撃を交わしている最中、メイヤは後ろに飛び距離を取る。
そして、ダガーを一つ腰に仕舞い、腰に付けたバックから石の付いたロープを取り出した。
ダガーを仕舞ったメイヤを見て、ここがチャンスと二人は同時にメイヤに飛び掛かる。
一人は上段からの振り下ろし、もう一人は剣先をメイヤに向けて突き刺す。
((もらった――!!))
声には出さなかったが、二人は頭の中で同じことを思い勝利を確信した。
だが仕留めたと思った目標物は、既にその場に姿はなかった。
二人は渾身の力を込めて攻撃したため、切りつけたはずの感触ではなく床や壁の硬い石膏の感触が手に伝わり柄を握る手が痺れる。
それと同時に、突き刺した者の足元が何かに絡まれ動きの自由を失い、前方に倒れ込んだ。
剣を振り下ろした者は、倒れ込んだ仲間を助けることもせず後ろにいると感じたメイヤへ振り向くと同時に剣を切り払う。
その時、倒れ込んだ人物の首はその剣の軌道上にあり首から上が躊躇なく切り飛ばされた。
しかし、振り払った剣に伝わる感触も最初にはねた自分の仲間の者だけとなった。
振り払った態勢でがら空きになった胸に、メイヤの掌底が撃ち込まれる。
男は呼吸を止められ、その痛みと苦しみから口の中に酸っぱいものが込み上げてくる。
苦しみでうずくまる人物のフードを取ってその顔を確認しようとしたメイヤの手に目がけて、ナイフが一本飛んできた。
メイヤはそれを避けたが、着ていた袖口が切れてしまった。
ナイフは首をはねられた男に刺さるが、既に痛みは感じていないだろう。
その間にうずくまっていた男は回復し、首をはねた者の身体を掴んで入ってきた窓に走った。
ナイフを投げた男は、転がっていた男の首を掴むと小さな包みを床に投げつけた。
包みは破裂し、粉が部屋中に舞い上がる。
メイヤは話を聞いていた為、すぐに口と鼻を自分の袖で塞ぎこの場から離れた。
「……そして、戻ってきた時には誰もいなかったということだな」
「はい、ステイビル様。人質は全員口封じをされておりました」
これだけの騒ぎが起きたことをこの町の警備兵に伝え、この件は驚くほどあっさりと片付けられた。
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