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第四章 【ソイランド】
4-21 否定
しおりを挟む「私……」
ハルナが何かを言おうとしたが、ユウタはその内容が自分にとっては良くない内容と感じとりその言葉を塞ぐ。
「すぐにとは……いや、一晩だけ待つよ。もし、一緒に逃げてくれる気があるなら明日の日が落ちるまでに、ここに来て欲しい。もし来なかったときは……」
「もし……来なかった……時は?」
「そのときは、もうこの世に未練はないよ……最後にハルナさんに会えたんだ」
「それって……」
ユウタはにっこりとハルナに微笑む、やはりどこか昔の面影が残る表情だ。
丁度タイミングよく、チェイルが入って部屋に入ってきた。
時間が掛かり、エレーナが心配しているという。
「それじゃ、待ってるからね……ハルナさん」
そういって、ユウタはハルナの姿を扉の向こうに見送った。
「ふふふ……あんたも悪い男だね」
ユウタに小柄な女性が声を掛け、背後から優しく首元から抱きしめる。
女性はやや膨らみかけている胸を、ユウタの背中に押し付けて男の欲望を刺激しようとした。
「やめてくれ……そんな気分じゃないんだ」
ユウタは抱きつかれた手を解くことはせず、言葉だけでその行為を拒否する。
「なに格好つけてんの?ハルナが本当のアンタのこと知ったら……どう思うだろうねぇ?」
「う……」
女性はユウタの汚れた身体を嫌がりもせず、下腹部を意地悪にまさぐる。
何とか必死に抵抗しようとするが、身体の反応は正直だった。
「と……とにかく、お前たちの言う通りにしたんだ。ちゃんと他の町の中で暮らせるようにしてくれるんだろうな!」
「もちろんさ……お母様にもお願いしておいてやるからさ。あと少し、頼んだよ『お・と・う・さ・ま』」
「で、どうだったの?本人だった?」
「え?……あ、うん!本人だった……と、思うけど」
「どうしたの?うれしくないの?探していた同郷の人だったんでしょ?」
「どうした?……あの中で、何かあったのか?」
ステイビルの心配した声に、ハルナは正直に答えた。
ユウタに起きた今までの出来事と、明日の日没までに来ない場合は自身の命を絶つということも。
「ハルナの同じ世界の人に対して……申し訳ないと思うけど、どう考えても……罠っぽくない?それ」
「うん……でも、あの人はユウタさん本人のような気がするし、何の罠かも思い当たるところもないのよ」
「あるとすれば、いま追っている組織の罠でしょうね」
ソフィーネが各自の前にお茶を配りながら、考えられることを告げた。
エレーナもアルベルトも、その考えの可能性もあると頷いて見せた。
ハルナたちは栄えた町の方へ戻り、宿屋を手配して身体を休める。
正体は隠したまま、旅人ということで宿には記帳している。
モイスに当時の状況を聞いても、魔物気配はするがどこにいるかまではあの状態では探すことはできなかったという。
だが、チェイルと同じ種類の臭いの付いた魔の匂いをユウタから感じ取っていた。
そこからも、ユウタが何らかの理由で魔物と接触している可能性は高いとこの場は結論付けられた。
ブンデルは、ユウタのことは見捨てて本来の目的のために動いた方がいいと告げた。
一瞬冷たいとも考えたが、その意見ももっともだった。
本来の目的は、王選ではあるが徐々に活発化している魔物と闇のギルドの解明も重要である。
やることが多い中で、どうしようもないことに時間を割くことはできない。
「……それに、そいつは昔の自分と同じニオイがして……何だか……その、嫌な気分になるんだ」
「ブンデルさん……」
サナが、ブンデルの肩に手を置いて心の痛みに寄り添う。
ハルナからユウタの話を聞いていると、何かから逃げようとしている堕落していた情けない昔の自分を思い出してしまっていた。
ユウタからも同じように、”楽をして何かから逃げようとしている……”そういう感じがうけてとれた。
「だが、ブンデルの言う通りかもしれないな。我々はいま、”そんな”人間に構っている余裕はないのだ……」
「しかし……モイス様のおっしゃる”魔物の気配”も気になりますね」
サナが、ハルナの気持ちを汲んでユウタのことも考慮するルートを提案する。
「ハルナ……お前はどうしたい?お前の考えを聞かせてもらおうか」
「私は……ユウタさんを……助けてあげたい」
その言葉にショックを受けたのは、ステイビルだった。
そして、言いたくない一番言いたくはなかった言葉を確認する。
「その、ユウタっていう男……ハルナのこと……ス……す、好きなのではないのか!?」
何の気もない感情で伝えるはずの言葉の部分で吃ってしまい、ステイビルの心拍数はやや高くなったのを自分の身体の中で感じる。
「え?……それはないでしょ!?」
ハルナは、ステイビルの言葉を否定した。
その感情は、気付いているものを抑え込んだようなものではなく本気の否定だった。
ステイビルはその言葉に、なんとなくほっと息が抜けていってしまった。
エレーナ、アルベルトやソフィーネは、ステイビルの感情に気付き可哀想な視線を送る。
その視線に気付いたステイビルは、”ゴホン”と一つ咳ばらいをし耳を真っ赤に染めた。
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