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第四章 【ソイランド】
4-15 メイヤのひととき
しおりを挟むハルナたちがモイスティアに到着した数日前……
メイヤは王国を後にしようとしていた。
ハルナたちラヴィーネに滞在しているため、報告も兼ねてメイヤはラヴィーネに戻ることにした。
「やっぱり私も付いて行った方が……」
おどおどした態度で、マーホンが馬上のメイヤに告げる。
「……いえ。マーホン様はあなた様にもやるべきことがあるはず……それにその仕事があの村の人たちを早く救うことにもなるのですから」
メイヤとマーホンは昨晩、今後のことについて話し合いを行った。
その中で、マーホンはしきりに『自分が勝手な行動をとってしまい、王国やハルナに危険を呼び込んでしまいそうな事態』を起してしまいそうになった自分を責めていた。
だが、メイヤはそんなマーホンを否定する。
その行動は、商人という立場の役目からは逸脱をしているが、王国やステイビルやハルナたちのことを思えば理解できない話ではない。
今までマーホンもハルナたちの傍で過ごしてきたこともあり、マーホンにも国を守ろうとする気落ちが芽生えてきたこと感じていると説明した。
今回の決断も、ステイビルたちがいないタイミングで起きたことであり、相談する時間もないまま相手から迫られていた。
自分の身を護るのであれば、相手から持ち掛けられたものを断ればよかった。
そうなったところで、誰もマーホンを咎めることはないだろう。
自分たちの仲間が傷付くのを嫌うのは、今までのステイビルたちを見ればわかることだ。
それに、今回はソイランドという先に繋がる情報まで手に入れることができたし、何よりもマーホンが無事であった。
メイヤはそういってマーホンを説得し、これ以上気に病むことはないと伝えた。
本当はハルナたちのためにも危険な行動は慎んでもらいたい気持ちはあったが、マーホンの気持ちを考えれば仲間外れと思われるような言葉は避け、これからも協力してもらった方がいいとメイヤは判断した。
メイヤの言葉でマーホンの目に、力強さが戻る。
(まずは自分のやるべきことをやろう……)
その姿を見てメイヤも安心して、ラヴィーネに向かうことができた。
そしてその晩、メイヤはラヴィーネに到着しアーテリアに今までの出来事を報告する。
「そうなの!?そんなことが起きていたなんて……だけど、ステイビル王子たちは二日前にモイスティアに向かったわよ」
「ならば、これより私もモイスティアに向かいます」
「ちょっと、お待ちなさい!メイヤ……あなたずっと移動してきたんでしょ?そんな状態じゃ危険よ、無理しないで」
「そうよ、メイヤ。少し落ち着きなさい……どうせなら、明日ソイランドに直接向かったらどう?」
「そうよ……それがいいわ。もしかしたら、エレーナ達もソイランドに向かっているかもしれないし。あなたもそこで情報収集するのでしょ?だからこそ、ちゃんと準備をしてから出発しなさい……これは命令よ?」
「は……はい」
「それじゃ、落ち着いたらあの子たちの今の情報も伝えておくから……一度汗を流して着替えてらっしゃい」
アーテリアは、メイヤに対しやさしさのこもった命令を与える。
メイヤは少しだけ焦っていた気持ちに、暖かいものが流れ込むのを感じていた。
マイヤが用意してくれていたお湯に浸かり、身体の汚れと一緒にいままで急き立てられてた感情が汗となって流れ落ちていく。
その後メイヤは支度を整えて、アーテリアの執務室へ向かっていく。
髪の毛が揺れるたび、お湯の中に入れてくれていた柑橘類の皮を日干しにした入浴剤の香がほんのり漂う。
――コンコン
メイヤは扉を叩くと、扉は内側から勝手に開いた。
マイヤが、扉の近くで待機していて中に入るように促した。
「メイヤ、食事……まだでしょ?先にエレーナが返ってきた時の状況をお話しするわ、その間食事を採りながら聞いていなさい」
「あ……でも」
断ろうとした瞬間、マイヤから刺さるような気配を感じて、これは拒否することはできないと感じた。
「申し訳ございません……頂きます」
「どうぞ!」
その返事に満足したのか、アーテリアはにっこりと笑ってみせた。
その笑顔はもし、自分に母親がいたならばこういう幸せな時があったのかという思いがメイヤの中に浮かぶ。
が、その考えは一瞬にしてかき消される。
(優しい母親は……自分の小さな子供を捨てないわね)
捨てたはずの甘ったれた思いを抱いた自分に対し、メイヤは冷たく笑った。
メイヤはまず、用意されていたお風呂上がりの冷たい飲み物を口に含み、それから小皿に入ったサラダに手を付けた。
アーテリアは、メイヤが食事を始めたことを確認をしてから、ステイビルたちがラヴィーネに来た時のことを話し始めた。
「――!?ゴホッゴホッ!!」
ハルナがモイスを連れ出していることに、メイヤは驚いて喉に食事が呼吸器の方へ入りかけた。
その話をしたアーテリアは、悪戯が成功した様な意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「……でも、やっぱり驚くわよねー。ねぇ?」
アーテリアはマイヤに意見を求めたが、何も言わずにニコッと笑うだけだった。
「ハルナ……あの娘も、ほんと不思議な子よね……何か持ってるのよね。協力してあげてね……マイヤ、メイヤ」
「「はい!」」
二人の返事に満足したアーテリアは、ニッコリと二人に対して優しく微笑んだ。
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