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第四章  【ソイランド】

4-9 エレーナの父

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湯上り後の熱気が抜け、エレーナはシワのない綺麗なベットのシーツの上で寝転んでウトウトとしている。
長旅の緊張感が疲労となり、エレーナとハルナの二人の感覚に上がってきていた。

部屋の中では、フーカとヴィーネがフワフワと浮かんでいる。
ハルナとエレーナンの緊張感に応じて緩んでいる様子だった。



――コンコン

エレーナはベットの上で上半身を飛び起こし、急いで乱れた髪を整えて扉をノックした相手に反応した。


「――はい、どうぞ!!」



……カチャ


扉を開けて入ってきた人物は、予想通りマイヤだった。



「……エレーナ様、アーテリア様がお戻りになられました」

アーテリアが自室で待っていると聞き、別な部屋で休憩をしているステイビルたちに声をかけてアーテリアの元に向かった。




「あ、お父様!?」



「エレーナ……元気にしていたか?」


「エストリオ様、ご無沙汰しております」


「ステイビル王子も……ご無事で何よりです」


「エレーナ……ハルナさんも無事で何よりでした」



「お母様はどこかに行ってたみたいだけど……どにこ行ってたの?」


「そのことは、私から話そう」


エストリオは、アーテリアとある村の外れの施設に出向いていた。
そこはレヴュアから得た情報で、闇のギルドのアジトがある場所だった。
エストリオはその場所に向かった。

その面子は総指揮官としてエストリオ、警備兵を一分隊、中級程度の諜報員を数名、精霊使いも数名という人員でアジト襲撃に挑んだ。
精霊使いは、経験を積んだ者として、育成施設のトレーナーの精霊使いを動員した。
本来ならば、王宮精霊使いクラスの人材を導入したかったのだが、王都から呼び寄せれば人選、理由書、移動を考えればさらに数日の時間がかかると判断した。
よって、エストリオが持てる最大の戦力で襲撃を仕掛けるため、アーテリアに精霊使いの指揮を依頼した。
アーテリア自身は現在精霊の力を扱うことはできないが、その時々において精霊の力の活用法で最善の判断を行うためにはアーテリアが必要だった。


ラヴィーネの町から一日以上移動し、その場所に到着する。
ランジェの情報通りに、アジトはそこに存在した。


アジト襲撃は、着した翌未明に行われた。
混乱に乗じ、アジトの制圧は思ったより簡単に行われた。
……いや、簡単すぎたという感覚だった。

抵抗はあったが、思った程の勢力ではなかった。
統率の取れていない抵抗は、いとも簡単に制圧できた。



――結果、エストリオはこのアジトは”捨てられ”たものと判断した。




遺留品などからは証拠となるものは見つからず、捕まった者たちも下っ端過ぎて誰の何のための施設かもよく分かっていない者たちばかりだった。

当然、それが”嘘”であることも考えられるため警備兵と諜報員によってこれから聞き取りが始まる。
更に、事態が悪い方向に動いた。

だが、町に戻ってくるとランジェは、死んでいたという。
腹部を内側から”何か”が飛び出したように穴が開いていたという。


ランジェは最後に、自分の血で情報を残していた。
”――ガラヌコア”と。



ガラヌコアとは、土の町ソイランドから離れたところにある。
その場所は干からびた大地が広がり草木が生えないため、ほとんど生物や植物が生息していない地域だった。
そのため、人が近寄ることもないため隠れるには適した場所といえるかもしれない。



「まずは、ソイランドに向かうべきか……」



そのステイビルの発言に驚いたのは、エストリオだった。




「ステイビル王子!……あなた達はまずやるべきことがあるのでは?」


「確かに、王選の途中ではあります。ですが、闇の者たちに随分と邪魔をされているのです。旅を共にしてくれているエレーナやハルナたちも、既に何度か交戦しております。これはもう、避けられない戦いではないでしょうか?相手の本当の目的が何なのか、まだはっきりとわかっておりませんが王国が狙われているのであれば、ここで食い止めることも必要なことだと思います」



「し……しかし!?」

「……いいじゃありませんか」




二人の間に割って入ってきたのは、アーテリアだった。




「結局はソイランドにこの先行くことにもなるんでしょうし、”全ての経験は決して無駄ではない”……でしょ?」


「そ、それは……そうだが」



エストリオは、アーテリアの持ち出した言葉に戸惑いを見せる。
この言葉は今までエレーナやアルベルトだけでなく、若い諜報員にも言い聞かせてきた言葉だった。
失敗を恐れず、何事にも前向きの取り組み自分のものにしていく……そうして”自分”という人間が創り上げられて行くものだと何度も話し伝えてきた。



「それに、まだ絞り切れてないけど狙われている可能性が高いのだし、早めに手を打っておく必要性はあるんじゃないかしら。それは誰かがやらなければならないことだし、それなりの力と経験をもっていないと太刀打ちできない……であれば、今の状況ではこのメンバーが最善だと思うの」



『よく判断した、アーテリア!ワシもお主の意見に賛成する……それにワシもついているからなぁ!』



アーテリアとエストリオはこの場にいない声を探すと、精霊が出てくるようにハルナの髪の毛の後ろから一匹のヤモリが姿を見せた。









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