451 / 1,278
第三章 【王国史】
3-283 ハルナの上限
しおりを挟む「え!?……それって……私……これ以上、強くなれない……ってこと?」
ハルナは、サナの仮説の話を聞いて愕然とした。
まだ、あのヴァスティーユとの戦いも終わっていないし、ダークエルフの件も片付いていない。
あの二人が、組んでいるのか、それぞれ別な存在かもわからない。
それらに対応するには、もっと強くならなければならないとハルナは感じていた。
それに、自分はこの世界とは違う場所から来た存在。
エレーナがいうには、“自分は何か特別な力を持っているのではないか”という。
とすれば、これからの戦いで自分の特別な力で守っていかなければならないと思っていた。
その自分がこれ以上、能力的に成長できないとなると……この世界のことが何もわからないハルナは、自分の価値がなくなってしまうのではないかと足の力が抜けていく。
「ま、待って!?まだ……そう決まったわけじゃないのよ、ね?ハルナ、落ち着いて」
エレーナはハルナの近くに寄り、両肩を支えてハルナを庇った。
「ハルナさん……既に相当お強いと思うんですが……」
そう告げたのは、エレーナの後ろにいたアルベルトだった。
そのフォローに似た言葉に、エレーナもウンウンと頷いて”もっと褒めてあげて!”と目が訴えている。
だが、ハルナ自身はまだ絶望の淵から這い上がれていなかった。
「ハルナさんはこの世界にこられて、数年も経っていません。ですが、この世界にこられてからすぐに精霊とも契約をされ、厳しい精霊使いの施設でもそんなに苦労もなく修了されていると聞いております。そうであれば、ハルナさんが今お持ちの能力はかなり高いものをお持ちではないかと推測します」
エレーナはハルナの肩の上に置いていた手を離し、腕を組んで何か思い当たることがあり、記憶を掘り起こしていた。
「確かに……そうね。初めて見た”あの”竜巻も、普通じゃ……それも初めて契約した者には使えない力よ」
その言葉を引き継いでアルベルトが、さらにハルナに考えを伝える。
「ただ、ハルナさんが自分は”そこまでの力がない”と思われているのであれば、それはまた別の要因だと思うのです」
「別の……要因?」
「そうです……これは剣技の話なのですが、いくら腕力があって一撃だけが強烈でも、それはその者の剣の強さとは言えないのです。力と技術、それに経験が備わった者こそ、よい剣士であると考えています」
「ちょっと!?アルは、ハルナが”そう”だってこと言いたいの?」
ハルナが”力”だけの精霊使いではないことを、一緒に旅をしてきたエレーナは知っている。
そんなハルナがそういう精霊使いだと言われている気がして、エレーナはアルベルトに突っかかっていった。
「……待ってください、エレーナさん。多分彼が言いたいことは、ハルナさんの技術が劣っていると言いたいのではないのではないですか?」
荒ぶるエレーナに対し、落ち着くように声を掛けくれたて人物はナンブルだった。
「ナンブルさん……」
エレーナはナンブルに声を掛けられたことによって、冷静さを取り戻しアルベルトが伝えたかったことが頭の中で理解し始めた。
「あの……なんだかすみません、私が変なこと……言わなければ……こんなことには」
ブンデルの後ろでは、サナが申し訳なさそうにエレーナに謝罪をした。
「いえ……私が悪いんですね……こんなことで落ち込んでちゃいけないんです。……エレーナも、ごめんね。変な心配かけさせちゃって」
「ハルナ……」
「――ぐっ!?」
エレーナは、少し元気を取り戻したハルナに飛びついて強く抱き締めた。
それは、アルベルトの勘違いを誤魔化しているようにも見えたが、エレーナが自分のことを心配してくれているからこそと我慢した。
「それで、ハルナさんはモイス様の加護は受けることができないってことですか?」
「そう、ブンデルさんの言う通り……ハルナはモイス様の加護を受けることはできないのでしょうか!?」
『うーん……そのことなんだが、正直判らんのだ。なにせ初めてのことだからな、ワシがこの世界に誕生してから初めての現象だ。もしも、そこのドワーフの娘の想定した通りならば、これは世界の摂理なのじゃろう……ワシにもどうすることもできんわい』
モイスの絶望的な返答に、ステイビルは足の力が抜けて倒れ込みそうになるのを必死に堪える。
だが、その絶望を乗り越えたとしても、その先にこの絶望を打開する案は何も思いつかない。
そもそも、王選のルールがそういうことを想定していなかった時点で、問題があるような気がした。
しかし、それに対して文句をつけることは神々に対して文句をつけるという行為で不遜な態度と取られてしまうだろう。
ステイビルには決して、そんなことを口にすることはできなかった。
そんな息が詰まりそうになる中、ハルナの声が響き渡る。
「モイスさん。他の大竜神様たちの加護は、モイスさんと異なる加護が得られるんですか?」
『う……うむ。詳しいことは教えられぬが……そいうことじゃのぉ』
「だとすれば、これって他の大精霊様とかでも起きる可能性ってあるんですか?」
『む!?それは……わからんな』
実はモイスも、サナの考えが一番可能性が高いと感じている。
そういう者が現れた場合、与える加護がない……それはすなわち、モイスと近い能力を持っている人物であるとも言える。
(ハルナ……この者は確かラファエルと)
モイスの思考を、ハルナの声が妨げた。
「そこで、お願いがあるのですが……」
『ん……な、なんだ?』
モイスはハルナの”お願い”に嫌なものを感じ、背中の羽を一度だけ羽ばたかせた。
「モイスさんが、このことを王に説明していただけませんか?」
0
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる