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第三章  【王国史】

3-269 東の王国73

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『……こうしてお前たちは、魔物に立ち向かうために加護を与え、その力を付けていってもらったのだ』


モイスから今までの経緯を聞き、この場にいる全員が事の大きさに言葉を失っていた。



(魔物……戦う?……私たちが!?)



エイミの頭の中で”面倒だ”とか”逃げ出したい”とか様々な思いが頭の中を巡っていく。
だが、先ほどの初代の話を思い出し、それに続いてやつれたレビュアとサミュの姿を思い出してしまう。
”もしも自分の母親や父親がトライアのような魔物に襲われてしまったら……”
そんなことを考えると、このままではいけないという思いもある。
そんな気持ちを察してか、モイスはエイミに話しかけた。




『……精霊使いの娘よ、そんなに思い悩むことはないぞ。これは強制ではないのだ……だが、お主たちには他の者が持たない力がある。それをこの者たちのためにお前たちの種族のために……貸してはくれぬか?』





「エイミさん……セイラさん……」



エンテリアとブランビートは、エイミたちのことを見る。
エイミはセイラの姿に目をやると、セイラも迷っていた表情を浮かべていた。

セイラも頭の中で、様々な思いを浮かべていたのだろう。
その表情はつい先程……今も困惑した表情を浮かべているのはところはまるで自分と一緒だった。



きっとエンテリアとブランビートの二人は、自分とセイラの不安を察して声を掛けてくれたのだと悟った。

本当は協力して欲しいのだろう……味方が多ければ多いほど魔物に立ち向かう時には有利になる。
それは、トライアとの一戦で証明されている。




「……」



しかし、自分がどのように役に立つのか、どうすればこの力を生かしていけるのか。
そのイメージが全く湧いてこない。



「エイミさん……」



隣にいたマリアリスも、悩んでいるエイミたちを心配していた。

この一週間あまりの時間で仲が良くなり、ウェイラブの弟の子であっても、マリアリスは他人のような位置付けと考える。
そのため、どのようなことが起こるか分からないことに”協力して欲しい”などと、マリアリスの口からは軽々しく言えるものではなかった。





断りづらい選択なだけに、エイミは答えを出しかねている。

そこに――




遠くから廊下を走ってくる音が聞こえる。
足の音からして、一人でこちらに向かっているようだった。


マリアリスもそれに気付いていた様子で、警戒し扉の前でその姿を待つ。
そして、走る音は扉の前で止まった。

次の瞬間、ノックもなしに扉はすごい勢いで開かれた。





「マリアリスさん!!――うわっ、何ですかこれ!?」


部屋に入ってきた人物はマリアリスの名を呼ぶが、部屋が光に埋め尽くされている状況を見て驚きの声をあげた。


その人物は、集落で見たスミカの協力者の商人――エフェドーラだった。



「エフェドーラさん、どうされたのですか?」



名前を呼ばれたマリアリスが、驚きで固まったエフェドーラに声を掛ける。



「……え?これ……あ、そうだ!」


エフェドーラはここに来た用事を思い出し、マリアリスの両腕を掴んだ。




「スミカ様が……スミカ様の意識が……!!!」



「お……お母様が……どうされたのですか?」




マリアリスは、スミカの名を聞き落ち着こうとしているが、頭の中には最悪な状況がいくつか浮かび冷静さをギリギリのところで保っている。


「スミカ様の意識が、無くなられたのです!」


エンテリア、ブランビート、マリアリスに重い石が身体にのし掛かった様な衝撃を感じる。
予測していた部類の中でも、最悪に近い結果だった。

エフェドーラの報告によると、集落を出発する昨日の夜に急に胸を押さえて苦しみ、そのまま横に倒れてから意識がないとのことだった。


「……いまは、ウェイラブ様がお側で様子をみておられます。私にマリアリス様方をお呼びする様に依頼され、馬で駆けてきた時代です」



「薬草……飲まれていたのではないですか?」



セイラは、スミカの症状が急変した理由を探そうとする。
エンテリアとブランビートは、顔を見合わせてどのように対処すべきか相談をしている。


「はい……あの日から薬草師の方に言われた通り、薬草は飲まれておりました。ですが、日に日にその効果は……」




その言葉からも、エフェドーラがスミカの先を案じていることが伝わってくる。
なんとか最後の時までに再会できた子供たちを合わせてあげたいという一心で、危険な夜の闇の中を馬を飛ばして走ってきた。


であれば、もう迷っている時間はない。
マリアリスは、すぐに母親の元へ向かう準備に入ろうとした。

エンテリアとブランビートは、村での仕事がある。
母親に息子の言葉を伝えてあげるのが、今の最善の対応だろう。

そう思い、母親に伝えたい言葉を二人に聞こうとした。




「……モイス様」


エイミが突然、この場に存在を感じながらもエフェドーラがこの部屋に来てからはその存在が薄れているモイスに声を掛けた。



『ん?……どうした、精霊使いの者よ』



「……私も魔物の件で、協力します。ですから、一つお願いがあるのですが」








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