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第三章  【王国史】

3-258 東の王国62

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「――あ、そうだ。もしよければ、エイミとセイラも一緒に行ってはくれまいか?」


「え!?わ、私たちもですか??」



ウェイラブの気持ちとしては、この者たちの母親がどのような人物か見て欲しいこともある。
それとは別に、”万が一”スミカとの間に何か起きた場合は、第三者がいれば落ち着くことも出来るだろうという判断だった。




「ノービス……どうだ?」


「あぁ、私は構わないと思うが……どうなんだ、お前たち?」




話を振られた、エイミとセイラが困惑している。
今までの話からすれば、離れ離れになっていた親子の再会となる。
しかしながら、他人の自分たちがそんなところに行ってもいいのだろうかという不安が頭をよぎる。



「私からもお願いしたいのですが……?」

「正直……どんな顔をして会ったらいいのかわからなくって」



そう告げたのは、エンテリアとブランビートだった。

マリアリスも同じような気持ではあった。
弟たちと父親については、本来の関係とは異なっていたが近くで過ごしていたためその人間性には問題がないことは理解している。


母親に関しては今聞いた以外の情報が全く情報がないため、マリアリスにも判断が難しいと考えていた。
そのため何が起きるか分からず、ウェイラブと同じく第三者がいてくれた方が冷静に物事を見渡せるのではないかと判断した。
それに、あの洞窟での精霊の力があれば道中やそれ以外で何か発生してもこの二人は頼りになるだろう。


「私からもお願いいたします……エイミさま、セイラさま」



向こうの家の全員からお願いされた二人は、本当にいいのかという疑問を残したまま同行することを承諾した。





その夜、マリアリスとエンテリアとブランビートは、三人でゆっくりとした時間を過ごした。
やや会話もぎこちない感じはしたが、時間がその氷を溶かしていくことになるだろう。
ウェイラブも、心の奥に刺さっていた棘が一つとれてすっきりとしていた。




朝が来て、エイミたちはスミカが住む集落へと向かう。
移動はマリアリスの手によって、馬車で移動することになった。

徒歩であれば一日かかるところを、馬車であれば途中で馬の休憩を入れても夕方前には到着できる。


移動中、エイミたちの村で起きた出来事の詳細などを話しつつ、ゆっくりと馬車を進めていった



空が赤く染まり始めた頃、馬車は数件の家の屋根から煙が昇る風景を目にした。






「あ!もしかして、あそこじゃない?」


「そうかも!やっと着いたわねー……もうお尻が限界よ」



「申し訳ありません……私たちの事情にお付き合い頂き」


「え!?いや、そんなつもりじゃないんです!!」





ブランビートが、申し訳なさそうにセイラに詫びる。
セイラはその言葉に、自分の迂闊さを恥じた。



「止まれ……そこの馬車、止まれ!!」




正面から二人の男が向かってくる、手には小さな盾替わりの木の板と先を削ってとがらせた長い棒を手にしている。

その声に応じて、手綱を握っていたエンテリアは馬車の速度を落とし、立ち塞がる男たちの前で停止させた。



一人の男は、馬車の周りをまわり警戒をする。
もう一人の男は、エンテリアに話しかけてきた。



「見たところ行商人でもないようですが……何かこちらにご用がおありですか?」



荷物も積んでいるわけではなく、幌の中にはただ一人の男と三人の女性が座っている。
こんな辺境の地に、用事があるとは思えない。
エンテリアに話しかけた男は、警戒して返答を待つ。




「我々は、この先にあるウェイラブが治めている村からやってまいりました。こちらにはある方にお会いするために参った次第です」






この集落は、ウェイラブと関係が深い。
だが、そんな有名な人物の名前を出すなど誰でも出来ることだ。

男たちはこの集落を守るために、容易に相手の言葉を信じるわけには行かない。


教わった話では、ここで相手が安全と確証を得るまでは多少失礼であっても疑うことは仕方がない。
相手も事情さえ分ってくれれば、こちらの対応が問題ないことは理解してくれる。
今までもそうやって、この集落の安全を守ってきたのだった。




「……誰に会いに来たか聞いてもいいか?」




ここで相手が答えられない場合は、今までの言葉も嘘であった可能性が高い。
その時は、戦闘になるか諦めて逃げていくかのどちらかだ。

男はじっと相手の言葉を待つ……
が、その返答は今までに経験したことのない答えだった。



「こちらに”スミカ”という方がいらっしゃると聞いております。我々は、スミカ様に会いに来ました」






この集落にスミカがいることは、極秘事項とされている。
他所の者が、その名を口にする者は今までいなかった。



(これは、何かある……)



自分では判断できないと感じ、もう一人の男に戻って確認するように依頼した。



この場に残った男はエンテリアにしばらく待つように伝え、エンテリアもそれを承諾した。


数分後、辺りは太陽の光が山の影に隠れ暗くなっていた。
集落の方からは、二つのシルエットが辛うじて見える。


二つの影が近付いてくると、一人は先ほど戻っていったもう一人の男の姿が見えた。
その後ろには、女性らしき姿が見えた。



薄暗く、その表情ははっきりと見えないが少し微笑んでいるようにも見えた。
そして、その女性は声をかけてきた。




「――いらっしゃい、エンテリア」







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