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第三章 【王国史】
3-240 東の王国44
しおりを挟む「どうしても返してくれないというなら、実力で返していただきますね」
エイミに近寄った男は、一旦距離を置いて自分の仲間の元に戻っていった。
「……何が起きたんだ?」
スキンヘッドの男が、戻ってきた男に声を掛ける。
その男はこの集団の二番目の地位を持つ男で、命令したことを確実に実行する信頼ができる右腕だった。
そんな男が命令したことに何もせずに、逃げるように戻ってきた。
”これは何かある”と踏んで、確認したのだった。
「それが頭……あいつの肩に手をやろうとしたら、何かの”見えない力”で弾かれたんでさぁ」
スキンヘッドの男もそんなに頭が悪いわけではない、この時代の一般知識には寡聞であるが頭の回転は速い。
部下の情報と今現れた不思議な生き物をを見て、関係性に気付き仮説を立てる。
男は近付いてはいけないと判断し、弓を持つ男に合図をする。
合図をされ男は、クロスボウに矢をつがえエイミに狙いを定める。
狙いを定めたエイミを見ると、普通ならば怖がるが命乞いをするはずだったが、この場に似合わない可愛らしい怒った顔でこちらを見ている。
スキンヘッドの男は片手を上げ、発射のタイミングを支持する。
狙った女性も肩の上の小さな生き物も、何もしてこないと感じてそのまま手を下ろした。
それと同時にクロスボウの矢は、エイミの胸をめがけて射出された。
――ビュゥッ!!
矢羽が空気を切り裂く音か突風が吹いた音か、それともその両方か。
風が擦れる音を、一度だけこの場にいた者が耳にした。
そして、まっすぐに伸びていた矢はエイミの後ろの木の家の壁に突き刺さる。
「……なに、お前たち、何者だ?魔物かナニかか!?」
男は、今までも森の中でそういう類の生き物を見たことがある。
人では決して操ることのできない力、これはそういう類の力を持った者だと判断した。
こういう時は逃げるか戦うか……
スキンヘッドの男は、この場では前者を選択した。
相手の力がわからず、魔物だとしても知能が高いということは長く生きてきた可能性がある魔物だ。
そういう相手は、相手をしても敵わないし、逃げるときにでも被害が大きいこともあった。
「……お前ら、逃げるぞ!!」
男たちは、一人一人バラバラな方向に向かって逃げ始めた。
「あ!、ウリちゃん、あの人たち止めて!」
エイミに呼ばれた土の精霊は、姿を見せエイミの頼みを実行した。
「うぉっ!?」
逃げ出そうとした男たちの目の前に大きな壁が現れて次々にぶつかっていく。
ただ、スキンヘッドの男は驚異的な反応を見せ、うまく躱して見せて更なる逃亡を図る。
「私に任せて」
そういうと、セイラは男の足もとを凍らせた。
足が前へ出すことを許されなくなった男は、その場に倒れ込んでしまった。
更にセイラは、身体を氷で縛り付け男の身体の自由を奪った。
「ぅわぁっ!?」
その様子を見ていた男たちは、唖然とし逃げる意欲を失ってしまっていた。
セイラは、その隙に全ての男たちの足を地面に氷で固定させ逃げ出せない様にした。
「な……何なんだ、お前たちは!?やはり、人の皮をかぶった魔物……!?」
スキンヘッドの男は、固定されていない首をひねりゆっくりと近づいてくるエイミたちの姿を見ようとした。
「失礼ね!人を化け物みたいな感じで言わないで!!」
「そうよ!これでも気に入ってた能力なんだから、そういわれると傷付いちゃうじゃないのよ!!」
自分たちを褒められたと思った精霊たちは、二人の周りを嬉しそうに飛び回る。
奪われたリボンは、逃げることに失敗した際に手放していたため、エイミは近寄りリボンを取り返した。
取り返したリボンを一通り眺めるが、破れていたところはない。
しかし、地面と男の手の脂によって汚れてしまっていた。
「あーあ……汚しちゃった」
「どうしよう……」
エイミとセイラは今起きた出来事よりも、マリアリスに貸してもらったリボンの方が気になっていた。
そして遠くからカチャカチャと音を鳴らしながら、数名の人が近寄ってくる。
その者たちは、町を守るため巡回していた警備兵たちだった。
「おい、お前たち!そこで何をしている!!」
二人の腰から剣を下げた警備兵が、この場にやってきて今まで見たことのない状況に唖然としている。
男たちはセイラによって解放されそのまま、応援を呼んだ警備兵に連行されていった。
そして事の顛末を聞かれ、この場にいた理由から発見された状態までの流れを二人別々に聴取された。
その内容が相違がないことを確認し、二人の拘束を解いた。
「……で、それがそのリボンですか。ちょっと拝見しても?」
「はい……どうぞ」
恐る恐る腕に巻いていたリボンを外し、警備兵に手渡した。
そして、リボンに付いている石に気付き、聴取した情報との整合性を確認した。
「それでは……本当に道に迷っただけなんですね」
「はい……そうです。それとお腹が……」
エイミはお腹を押さえて、目が回りそうになるのを必死に我慢する。
その言葉に警備兵は、エイミとセイラは村長の家まで案内した。
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