401 / 1,278
第三章 【王国史】
3-233 東の王国37
しおりを挟む翌日の早朝、四人は村を出た。
エイミとセイラは、村長が行くのかと思っていたが、委任状を渡されて二人に行かせることにした。
村長の決定に抵抗したが、”そろそろお前たちも村のために働きなさい!”と言われ、その言葉に従うことになった。
「……わたし達だってちゃんと村のことを考えてるっていうのよ!!」
「……そうよ!言われたことだってやってるし、村から上がってくるお父様に言えないことも相談の窓口としてもやってるのに!!」
二人はエンテリアたちの村へ向かい、村を出た森の中に入ったとたんに今までの鬱憤を晴らし始めた。
中には村の運営に関係のない、プライベートな内容まで耳にした。
エンテリアもブランビートも、自分たちが聞いていいのか判らない二人の愚痴に近い内容をいつまでも否定することなく二人に付き合った。
第三者から見れば二人の愚痴も、しっかりとした家族の愛情が感じられるようなものばかりだった。
”親の心子知らず”の言葉が当てはまるかどうかは判らないが、自分たちの家とは違う愛情を端々に感じ先日の夜のもてなしてくれた二人の両親の暖かさの根底にあるものをみた。
道中、そんな話をしながら進んで行く。
そして、日が落ちる前に目的の村に到着することができた。
入り口には木の板と杭で作られた壁があり、左右に門番が槍を持って立っている。
「エンテリア様!ブランビート様!」
その姿見つけた村の入り口に立っていた者が、ブランビートたちに声を掛ける。
その者たちに近付いて行き報告をする、その間二人いた警備の一人はずっと後ろにいる女性の姿に警戒する。
視線に気付いていたブランビートは、エンテリアが簡単な報告を終えると後ろの女性を紹介した。
「こちらは先ほど伝えた隣の村で協力をしてくれた女性です。今回その村の代表として、同行していただいております」
「そうですか……判りました。お通り下さい」
不審そうな目で見られながら、エイミとセイラは門番の二人の間をブランビートの後ろを追って通り抜けていく。
そこには村だが、ある規則に従って配置された建物が並んでいる。
建物は通り抜けた壁からは少し離れた場所にあり、その配置は魔物などが襲ってきた場合の対策であると思われる。
「ふぇー……」
「す、すごい……」
思わずそんな声が漏れてしまい、初めて見る新しい場所に二人は歩みを止めてしまった。
女性たちが驚く姿をみて、エンテリアもブランビートも心の中でガッツポーズをする。
自慢の村に驚いてくれたことが、何よりもうれしかった。
エイミたちの村はのどかでゆったりした感じも、二人のエンテリアたちは気に入っていた。
自分の村はその反対で、規律正しく整った機能性重視の村ともいえるみだった。
村長の家はその村の中心部にあり、見通すことがこの場所から見通すことができる。
四人は村長の家に向かって歩いて行く、途中すれ違う男性の幾人かはエンテリアたちの姿を見ると頭を下げて通り過ぎるのを待っていた。
その光景に、エイミは驚きよりも息苦しさを感じてしまう程だった。
(村が違うと……こうも違うのね)
――!!!
そんな感想を持ちながら村を見渡して歩いていると、エイミの前を歩くエンテリアの歩みが止まりその背中にぶつかった。
「ごめんなさい、よそ見してて気付いていませんでした!?」
「い……いえ、大丈夫です!?」
動揺するエンテリアは、背中に柔らかいモノが当たるのを感じた。
その”正体”を推測し、エイミと向かい合った時にその”正体”に目線がいかない様に必死に視線をエイミの鼻に固定した。
すると、その後ろから扉が開く音がした。
「おかえりなさいませ、エンテリア様、ブランビート様……村長がお待ちです」
綺麗な服を着た、美しい女性が二人の男性を出迎える。
エイミとセイラは、その美しさと自分の村にはいない人材に驚きの色が隠せない。
「それでは、まず我々は村長に報告をしてきます。後でお呼びしますので、お二人は部屋でお待ちください……お二人をお願いします」
「……畏まりました。どうぞこちらへ」
美しい女性は、エイミとセイラを誘導し客室へ案内する。
「あのぉ……すみません」
廊下を歩いている途中、セイラは前を行く女性に話しかける。
「何でしょう?」
「ご家族の方なのですか?妹さんがいらっしゃるとお伺いしてましたが……」
セイラは、ブランビートたちが村に来るきっかけとなった妹の話を思い出した。
目の前の美しい女性がそうだとすると……セイラは”自分では太刀打ちできないのではと”。
いや、妹だからそういう対象ではないのは判っていたが、何ともやりきれない気持ちになり思わず質問してしまった。
「わたしは、この家のお手伝いとして働いておりますメイドです。レビュア様はいらっしゃいますが、今はご病気で療養中でございます」
「そ……そうですか」
その言葉の中に、何かとげとげしいもの……冷たすぎる感情がセイラのホッとした心にチクチクと突き刺さった。
そして、エイミたちは客室に通され出されたお茶を口にする。
立派な部屋の中で、自分たちがエンテリアとブランビートに出した食事が恥ずかしくなった。
――コンコン
恥ずかしいことをさらに思い出す前に、ドアがノックされ先ほどのメイドが入ってきた。
「村長がお会いしたいとのことです……ご案内いたしますのでこちらへ」
0
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる