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第三章  【王国史】

3-196 エルフの責任

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『――グオオオオオオォッ!?』



モイスは吠えて、この渦から逃れようとする。




「悪いけど、あんたはアタシのペットになるのよ!!!」





必死にもがくモイスの姿を見ながら高笑いするのは、自分が負ったダメージがさほどのモノではないということの表られなのだろうか。

女性は半身を氷漬けにされながら、楽しそうに鑑賞している。




モイスは、黒い渦に吸い込まれる身体を何度もねじりながら抵抗をする。
しかし、その飲み込んでいく速度からは考えられない程の吸引力に驚愕した。



どうあがいても逃げ出せないと感じたモイスは、左の羽を反対の右手で持つ。




『……ヌオォオオォオオオオッ!!!』



――ズブッ!!!!





モイスは自分で左の羽を身体から引きちぎり、ゆっくりと飲み込まれる黒渦から身体を切り離した。


ちぎれた場所からは、蒼色の液体が流れ出る。




そんな様子を見て、女性は一つ舌打ちをする。



モイスがもう一度息を吸い込み、口元からは冷気で空気が凍っていく。





――ブォォツッ!!




「あぁ、もぅ!うっとおしいったらぁ!?」









凍って動かなくなった反対の手を前に出し、黒い壁を作りだしブレスに備えた。



襲いかかる氷の息は、黒い壁に阻まれる。
が、それも長くは続きそうになさそうだった。








「くっそ、うぜええなぁ!!!」









動く方の脚で足元を蹴り、扇状に襲い掛かるブレスの軌道上から外れる。

モイスも、その方向に顔を向けて追従する。







回避するように、女性はグルグルと回転し迫りくる凍気を避ける。
息が切れブレスの攻撃が止み、そのタイミングを見計らい女性は黒い槍を作り出し大きな的に向かって投げつける。




この槍から、一番最初に受けた矢と同じ危険な臭いを感じたモイスは回避行動をとる。

だが初動が遅れてしまったために、完全に避け切ることは出来なかった。
槍は残った右側の羽の薄膜を貫通していく。


その場所に痛みは生じないが、貫通した穴の縁の黒いシミが徐々に周囲を浸食始める。



モイスはその場所に指を向けて、周囲をクルっと空に円を描く。
その場所だけを別の時空に飛ばし、身体から切り離した。





そのタイミングで、モイスの身体から何かを持っていかれるような感覚が襲う。



時空が闇の力によって、浸食され穴が開いている。

そこから女性は逃げだし、姿を消していた。




左側の羽を吸収し終えた黒い渦も、獲物を飲み込み満足したかのようにその姿を消していた。




モイスはこの時空の中に、自分の存在以外を感じなくなったことを確かめて小さな爬虫類の姿になる。

この姿であれば、体積が小さい分気配も探られにくくなり見つかる確率が少なくなる。







『ついに、闇の使い手が生まれたか……』









モイスは、時空の結界を強め戦いで負った傷を癒すため眠りについた。

















『……というわけで、エルフに襲われたことよりもその後の方が問題ではあったな』



「ということは、最初の襲撃もその女性の”入れ知恵”があったってことですか?」






ハルナの問いに、モイスは”恐らく”と一言だけ答えた。







「っていうか、そんな時代からヴァスティーユっていたのね?」



「モイスティアで会ったという、”ヴェスティーユ”はその後に生まれたでしょうか……」





『うむ、それについは判らんがな。何にせよあの時から魔の者が活動し始めたのは確かだな。モレドーネの池が汚染された時も、あの者たちの闇だから消すことができたのだ……既にそれは解析済みだったからな』





「モイス様……」



ナンブルは、会話が途切れたことをきっかけに最終的に確認したかったことを聞く。





「では、我々は特に処罰を受けるということは……」




気にしているのは、初代の村長がモイスに対して攻撃したことについてだった。




『それは、この話をする前にも言った通りだ……ワシはお前たちにその件について何かの罰を与えることはしないと断言しよう……反対に人間たちと協力をし、魔の者たちからこの山を守って欲しい』






「そ、それは必ず!命に代えましても!!」



『うむ……頼んだぞ。ワシができることがあれば、その時は力を貸そうぞ』




ナンブルはモイスのその言葉に、最大限の感謝の念を込めて片膝をついて礼をする。






「申し訳ありません……モイス様。我々についてもお力添えいただけるのでしょうか?」






モイスは高い目線から、発言者であるサナの顔を見下ろす。


その表情はドワーフが犯した過ちに対する怯えと、同じグラキース山に生息する種族の長の一員としてエルフと同じように大きなる力の協力を賜りたい使命感の顔付となっている。

その答えは、心配を払拭されるに十分な答えだった。



『……もちろんだとも、ドワーフの娘よ。そなた達も心配せずともよい……これからはぜひこの地で協力し合い、守り、そして繁栄していってほしい』





「……!?あ、ありがとうございます!」






「水の大竜神”モイス”様……」




次にモイスへ声を掛けたのは、ステイビルだった。



モイスは長い首を動かし、ステイビルの方へゆっくりと顔を向けて次の言葉を待った。







「今回の騒動は、我が東の王国の”王選”と何か関係性があるのでしょうか?」












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