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第三章  【王国史】

3-175 ナンブルとナイールのいま

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「お兄…様……」




ナルメルは泣きそうな声を必死に我慢をして、目の前にいるエルフの男性のことをそう呼んだ





その途端、この場にいた全員の視線がつい先ほどであったエルフに集中した。







「「えぇ!?」」







ハルナとエレーナは、相変わらず息の合った反応を見せる。


しかし、それも仕方がないこと。
ずっと長い間……エルフの時間で長い時間のため、ハルナたち人間にとっては気の遠くなるほどの長い時間、突然消えたまま行方が分からなくなっていたのだから。







「元気だったか……ナルメル」




ナルメルの兄……ナンブルは久しぶりに、少し齢を重ねた妹に声を掛けた。








呼ばれたナルメルは、フラフラとした足取りでナンブルの元へ近寄っていく。

ハルナは感動の対面になると、既に目の下に涙が溜まり零れ落ちそうになっていた。





――が、ナルメルはハルナが予想していない行動に出た。






座っているナンブルの胸元を両手で掴み、ぐっと上に引き寄せる。







「あ……アナタたちがいなくなって、私たちがどんな目にあってたか!あんな手紙一枚じゃなにも分からないじゃないの!?どれだけ……どれだけ心配していたことか!!!わかってるの!!ねぇ!!!わかってるのっ!!!!」









ナルメルは泣きながらナンブルの身体を揺らし、溢れて止まらない今までの想いを全て目の前の男にぶつけている。



エレーナがナルメルを止めにかかろうとしたが、またしてもアルベルトに止められた。




ナルメルの訴えはまだまだ続く、その内容は怨言から今まで出来事を順に並べていくようになる。
ナルメルは今までの苦労を、ナンブルに知ってほしかったのd。


ナンブルも詫びの言葉さえも言わず、ただ自分の妹の目を見てその言葉を受け止めている。



ようやく長い時間をかけた言葉は、終わりを迎える。
ナルメルの顔は、涙で酷い顔になっていた。



ナンブルは、ナルメルの涙をそっと指で拭ってあげた。
ナルメルもその行為を、拒否するわけでもなく黙って受け入れている。



再び、ナンブルはナルメルの顔を改めて見つめる。







「……った……無事……で……よかっ……!!!」







言いたいことを言えたナルメルは、兄の身体を抱きしめて大声で泣き始めた。




ナンブルもそれに応え、優しく妹の身体を抱いた。






「苦労を掛けてすまなかったな……」





ナンブルは一言だけ、鳴き声の中で妹につぶやきそのまま再会できた喜びを噛み締めた。





その騒ぎを聞きつけ、ゾンデルもこの部屋に入ってくる。
ゾンデルもナンブルの姿を見て、一瞬固まってしまう。


だが自慢の息子の無事な顔を見て、”おかえり”とだけ声を掛けた。













その夜、一同が集まってナンブルはあの夜のことを説明した。




ナイールが生死をさまよったこと。
ある存在の力を借りて、ナイロンの生命力を少し譲りうけナイールが蘇生したこと。
蘇生後の生命力はナイールの身体に稀薄であったため、ある存在の元で過ごしその力で安定させる必要があった。

そして、そのことはあの時点では口外してはいけないと言われていたことも話した。




「だから、私たちにも言えなかった……そういうこと?」






ナルメルの質問に、ナンブルは頷いた。





「でも、それって”今”私たちに話しましたよね?それは大丈夫なんですか?」




エレーナが、気付いたことを口にした。





「それについては、もう問題ありません。……実は私もこの事実を聞いたのは、つい最近のことなのです」





現在、ナイールはここから歩いて一ヶ月ほどかかる離れた洞窟に住んでいる。
洞窟といっても、そんなに住みにくい場所ではないようだ。


ナンブルはその近くに小屋を建て、ナイールのことを見守ってきた。





――あれから数百年の時が経過した






今では、洞窟から離れた場所でも問題なく活動できるまで回復しているという。





「あの……一つ聞いてもよろしいですか?」




ハルナが、恐る恐る手を挙げる。




「どうぞ、何なりとお聞きください。わかる範囲でお答えいたしますので」






ナンブルは聞いていた通り、よくできる人物なのだろう。

緊張するハルナを気遣い、優しく言葉を返してくれた。
そのやさしさに気持ちが落ち着いたのか、ハルナは頭の中でずっと引っ掛かっていたことを聞いた。





「その、先ほどからお話に出てきている”存在”って、いったい何なのですか?」



エレーナも、ハルナの言葉に同意しうんうんと頷いていた。
同じ疑問を持っていたようだった。





「……っと、失礼しました。つい、今までの癖で」




そしてナンブルは、ハルナとエレーナの顔を交互に見る。




「あなた方はご存じかもしれませんね……精霊使いのようですし」





「ということは……精霊……いや、大精霊様!?」





エレーナが、ナンブルからのヒントを元に自分のたどり着いた答えを述べる。






「その通りです……その方は水の大精霊”ガブリエル”様でした」





ゾンデルたちエルフは妖精と関わることはあるが、精霊とは関係が深くはない。
だが、自然や森を大切にするエルフにとってその存在は決して軽くはない。
更に、その最上位の存在である大精霊ともなれば、大竜神と並び信仰を捧げる対象となる。






「ということは……ナイールさんは今、大精霊様のお近くにいらっしゃるってこと!?」




事の大きさに感情と思考が追いつかず、気持ちが破裂しそうなナルメルだった。






「うむ……そういうことだな」





ナンブルは妹の感情を考慮しつつも、事実を告げた。





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