上 下
332 / 1,278
第三章  【王国史】

3-164 隠された術式

しおりを挟む














「これは……術式!?」






手紙の後ろに感じた魔力、どうやら文字のような記号であることがブンデルには感じ取れた。




「術式……ですか?」





サナは、ナンブルが見つめる手紙を見ても何も感じ取れなかった。




「……サナは、これが判らないのかい?」






その質問に対して、サナは正直にただの古い紙にしか見えないことを伝えた。







サナもドワーフの町では魔法に関する知識は習得しているし、”ヒール”も習得している。



以前魔法の知識を語り合った時も、お互いの認識に差は感じられなかった。
だが今は、その術式はブンデルだけしか感じられていない。



術式をみても、さほど難解なものとは思えない……




ナンブルは自分にしか見えないという問題は一旦置いて、その術式を読み解いていく。


そして、その見えない術式をサナにもわかりやすいように、ブンデルは別の紙に書き起こしていく。




サナは書き起こされた術式を見れば、そこに書かれている内容は理解できていた。







……そして、全ての術式が書き写された。




その瞬間、ブンデルの頭の中に怒涛のように術式が流れ込んでくる。





「……うっ!」




「ブンデルさん!?」





サナは割れそうになる頭を抱え込んで、蹲り椅子から崩れ落ちそうになるブンデルを横から抱きかかえる。

そのまま少気を失ったブンデルを、近くのベットまで運んでいく。




そして部屋を出て、ハルナたちに声をかけ助けを求めた。






部屋にはハルナたちの他、ナルメルとゾンデルも様子を見に来てくれた。




ナルメルがブンデルの様子を見てくれて、命には問題がないと教えてくれた。



そして、サナはなぜこのような状況になったのかステイビルに聞かれ事の顛末を語した。





そして、そのことに一番驚いたのは、ナルメルとゾンデルだった。







「手紙に……そんなことが書いてあっただと!?」




ゾンデルは、古い手紙とブンデルが書き出した術式をみて声をあげあt。


エレーナは、破れてしまいそうな古い手紙をそっと持ち上げ裏返しにしてみたり明かりに透かして見るが、書き出したような術式は見えなかった。
それは、ナルメルたちも同じことだった。





(何か我が子にだけわかるように何か仕掛けられていたのか……)





ゾンデルはもはやブンデルがナイロンであることは疑ってはいないが、この子の将来につて考えるとどのような生き方を選択するのが良いか悩みどころだった。

しかし、それはゾンデルの杞憂だろう。


ゾンデルが心配などしなくても、ブンデルはこれまで一人で生きてこれた、
家族や人を信頼することも知っておいて欲しかったが、ドワーフの娘とも仲が良さそうだから心配することもなさそうだ。






そうは思うが、少し状況が変わってしまったのではないかとゾンデルは心配する。



この魔法は一体、あの二人が何のために残したものなのか。

そしてこの魔法は一体何の魔法なのか。

このことが、この子にとって悪い方向に進んでしまったのではないか。





ゾンデルの頭の中でで、悪い考えがぐるぐると巡っていく。

そのループを破ったのはブンデルだった。






「……う……うーん」




頭が痛いのか、ブンデルは毛布から手を出し眉間に皺をよせて、こめかみのあたりに手を当てる。







「ブンデルさん……大丈夫ですか?」



まだ目の開かないブンデルに、サナは静かに声を掛けた。

その声に反応したブンデルは、ゆっくりと意識が戻り自分の名前を呼ぶ声の主の姿を確認しようとした。
ゆっくりと開く視界の中に、安心でするサナの顔が映し出された。




「サナ……ん!?」



視界が広がるにつれ、サナ以外の情報も入ってくる。



ナルメル、ブンデル……それに顔を横に向けるとハルナやステイビルたちの姿も見えてきた。




ブンデルは急いで上半身を起こしたが、その時に一度だけ頭の中に痛みと重苦しい吐き気に襲われ必死に抑え込んだ。
その様子を見ていたサナは、ブンデルの背中に手を回しその身体を支える。





「皆さん……どうして……」


と途中まで口にしたが、自分が途中で倒れてしまったことを思い出した。
サナが、連絡をして皆を呼んできたのだろうと理解した。









「ブンデルさん、大丈夫ですか?」


「はい、ご心配おかけしました……もう大丈夫そうです」





ナルメルからの問いに答えたブンデルは、テーブルの上に置いてあった紙がゾンデルの手の中にあることを確認した。
そして、ブンデルからその話題をゾンデルに振った。




「ゾンデルさん……その手紙は一体何なのですか?」






「これは、見ての通り私の家族だった者たちからの手紙だ。私たちもそれ以外の認識はない……逆に何か判ったことがあれば教えて欲しいのだが?」



ゾンデルがこの手紙をブンデルに渡したのは、何か思い出してくれないか期待していた。
その期待も、ほんのわずかな奇跡のような確率だと思っていた。

なにしろ、赤子は生まれたばかりの状態だった。
何かを覚えているはずもない。






『――だが、あの優秀な二人の子供なら何か奇跡が起こるのでは?』





ゾンデルの自分勝手な思い込みから、現状に変化が見え始めている。
今まで藁を無掴む思いで探していた二人とその子供の情報、それに何らかの糸口となる可能性が目の前にある。



諦めかけていた期待感から、ゾンデルの心拍数は急激に早くなっていく。



「私からもお願いします……何か判ったことがあれば教えて頂けないでしょうか?」



ナルメルも弱っているブンデルに申し訳ないと思いつつも、頭を下げてお願いする。




そんな二人の気持ちに、ブンデルは目を閉じて気持ちを落ち着かされる。
そして何度かゆっくりと息を吸って、吐き出していた息を言葉に変えた。





「……今、夢を見てたんです」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...