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第三章  【王国史】

3-150 ナンブルとナイール4

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ナイールは次第に容体が回復し、もう普通に身体が動かせるまでに回復していた。


ナンブルは時間が取れるときは、ナイールのところへ小忠実に足を運んだ。




研究の話、同じ研究機関の仲間の話、家族の話など様々な話題でナイールの退屈を助けようとしていた。
ナイールはそんなナンブルが心配になり、隠し事をする仲でもないので率直に疑問をぶつけた。




”こんな頻繁に自分のところばかりきて、平気なのか?”



……と。







ナイールは未だに、この部屋から出してもらえることは許されていない。
そのため、体力、魔力や精神が元のような状態に戻ってきた今では、活動的な性格なナイールにとって苦痛だった。


気の置けないナンブルがきてくれることは、ナイールにとって有意義な時間で、その時間が待ち遠しく思える程だった。





ナンブルはナイールからの質問に、正直に言える範囲で答える。





「あぁ。実は、ナイールのことを頼まれているんだ……」






ナンブルは”誰から”とは言わなかったが、自分のことを気軽に頼める関係なんて交友関係の中でそんなに多くはない。
それは身内からのものであると、ナイールは結論付けた。





「だがな、頼まれただけじゃないんだ……早くいつものナイールに戻って欲しくてな……うん」






ナンブルは自分の頬を人差し指で掻きながら、目線をナイールから逸らしながら話した。






「ありがとう、ナンブル。やっぱりあなたは、私の味方……ね」










”味方……”



そう言われたナンブルは、頭の中でその言葉を繰り返し噛め、その締め余韻に浸る。







「う、うーん……!!」






ナイールは資料の束を机の上に置き、両腕を上にあげて椅子の上で身体を逸らして伸ばす。

そして肺に貯め込んだ息を吐き、机上を空になった両手で叩いて立ち上がった。





「――ねぇ、ナンブル。外に出ようよ!」






その言葉に、ナンブルは目を丸くする。







「おいおい、部屋から出てはダメなんだろ?」


「いいのよ、これでもずっと大人しく我慢してたんだからね!」






ナイールは、この状況をずっと堪えてたという。
だが、その原因となったのは自分の行動だろ?と思うがナンブルはナイールの心の傷に振れそうな気がしたのでグッと言葉を飲み込んだ。






「はい……ほら、行くわよ!」






ナイールは知っていた。
ブンデルがいる間は、扉に施錠されていないことを。




ナイールは眩しい笑顔で、ナンブルの袖を引っ張って外に連れ出す。
その笑顔に負けて、ナンブルはされるがままに連れ出されていった。


ナンブルとナイールは幼い頃、かくれんぼのような遊びを一緒に遊んでいたことを思い出した。
いつの間にかナンブルもその気になり、この状況を共に楽しんでいた。




幸いにその間に誰にもすれ違うことはなく、中庭に出ることができる扉まで来た。







――カチャ




ナイールは扉を開け、久々に何も自分と外気を遮ることのない場所に出ることができた。
長い髪が風に揺れて、ナンブルの好きな香りがの嗅覚を刺激した。







「ふぅ……やっぱりエルフは、森の中が落ち着くわね……」






今までは部屋の窓から見るだけだった、人工的ではなく自生していた木々をそのまま生かして造った中庭の自然を堪能する。





ナイールは目をつぶりながら、少し湿気のあるひんやりとした風を顔の皮膚で感じている。
何百年と生きてきて当たり前のように存在していたこの風を、解放された今はまるで新しい間隔で肌に感じ取っている。



ナンブルはナイールが風と気持ちよく戯れる美しい姿を、永遠に残しておきたい……いや、自分のものにしたいと心の中で思い始めたその時。




「――あ」







ナイールが、何かに気付いたような声を出す。





「どうした、ナイール?何か問題でも……」





その目は何かを見ているわけではなく、開いたまま一点を見つめる。







「魔法……新しい……降りてきた」


「なに!?……それは、どんな」



「しっ!……ちょっと待って……」









焦るナンブルの言葉をナイールは制し、目をつぶって頭の中だけに聞こえる降りてきた言葉を小さな声で復唱する。
ナイールはその場にしゃがみ、地面に落ちていた尖った石を拾って手にした。



エルフの文字で、頭に浮かんだ文字を書き殴っていく。
どうやら新しく習得した魔法の術式を書き出していた。



その書き出された術式を、ナンブルは懐から紙を出して写し取る。
知識レベルもナイールと同じだったため、難なく理解し書き写していった。




そしてナイールは最後の式を書き出し、役目を終えた手にしていた石を地面に落とした。
ナンブルもその術式をみて、ナイールが新たに取得した魔法がどういう術であるか理解した。






「こ……これは!?」



「そう……なんで、私のところに来たのかしら。あなたが習得するものだと思っていたんだけど」





ナイールもナンブルも、信じられない顔で見合わせる。

だが、現実に取得したのはナンブルではない。
目の前にいる、ナイールだった。




とにかく、二人は新しく取得した魔法を試してみることにした。








建物から離れ、中庭の森を進んでいく。

ナンブルはナイールに確認すると、魔力の量は問題がなかった。








「……”ログホルム”」





ナンブルは、魔法を使い草の塊で標的を作り出した。

ナイールは距離を置いて、その塊と対峙した。








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