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第三章  【王国史】

3-139 大竜神のスキル

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フウカを包んだハルナの手の中から、別のエネルギーが吹き出す。
ハルナはフウカの状態が暴走したのではと、恐怖を感じて必死にその圧を両手で抑え込もうとした。




だがその力には抗うことが出来ず、包んでいた両手が内側から噴き出した圧に弾き飛ばされ、両手を広げた状態になる。







(――フーちゃぁぁぁん!!!!!)







ハルナは真っ白な光の中で叫んでも、声は出なかった。
自分の声帯にはなにか震えるような感覚は伝わっているが、聴覚には音の振動は伝わってこなかった。



吹き飛ばされたエネルギーの圧がいつ、自分の身に襲いかかってくるのかハルナは身体に力を入れて待っていた。
ハルナは、この世界に入ってきたときにあの爆風を体感している。






あれは、一瞬の出来事だった。

みこそはなかったが、自分の身体が焼ける臭いは二度と体験したくはない感覚だった。









――ん?





いつまで経っても、恐れている衝撃が伝わってこない。




落ち着くと、白い空間は時が止まったままのようにも思える。
吹き飛ばされたためと思っていたが、足や身体にはどこにも地面に接地している感触もない。











『ハルナよ……』




今まで自分の声しかしなかった頭の中に、ハルナ以外の声が聞こえる。







「え?……だれ、誰ですか!?」






『この声を忘れたのか?ワシじゃよ……モイスだ』



「モイスさん!こ、ここは?フーちゃんはどうなって……」






ハルナは、独りだけの世界で知り合いとも呼べる存在を見つけた。
その嬉しさから、矢継ぎ早にモイスに質問を投げかけた。



『……おいおい。ワシと話せるのは嬉しいのだろうが、少し落ち着くがいいぞ……ハルナよ』







その言葉に、ハッと我に返り自分が焦っていたことに気付く。
だが、悪い予感は解消できていないが先程よりかは気持ちにほんの僅かな余裕ができ、気持ちを下げることに成功した。





『ふむ、少しは落ち着いたようだな。改めて、お主の質問に答えるとしよう……ここは、ワシが作った時空の中だ。お主が恐れているような”状態”ではない、安心するがいい』




ハルナはその言葉から、あることを思い出した。





「その時空って……まさかあの時の!?」






王都で祠に入り、リリィと競ったあのことを思い出した。





「……思い出したようだな。そう、あの力を使ってお前を別な空間に移動させたのだ」






その空間の中はモイスが自由に操ることができ、今回は緊急措置として移動先の時空は設定されておらず、ただハルナを避難させただけだった。







「フーちゃんは……どうなったんですか?エレーナたちは!?」



『おいおい、焦るな焦るな。いまそちらに行こうとしているのだ……少しの間、待つがいい』







ハルナはそう言われ、この空間で次の変化を待つ。

真っ白な世界の中、意識だけで存在しているような感覚に見舞われていた。
この感覚は水の中とも違い、”何もない”ところに浮いているような感覚だ。
いったことはないが、宇宙の無重力がこのような感じではないかと考えに辿り着いた。


それと同時、この空間に変化が訪れる。
とはいえ、意識でしか感じられないためその変化を視覚的に感じることはできなかった。






『……待たせたな、ハルナよ』




この変化は、モイスだった。
先程までは声だけが頭に響いていたが、今回はその存在がはっきりと意識の中で認識することが出来た。




「モイスさん?……どこにいるんですか?いま、目の前が真っ白で何も見えないんです」





『おぉ、そうか。もう少しだけ待つがいい、この空間を見えるようにしてやろう』




そういうと、この空間に不規則な揺らぎが生まれだした。
その揺らぎの中に、虹の光が差し始める。


するとハルナの意識の中に色が生まれ、形が判るようになった。

だが、この空間が真っ白であることには変わりはなく、虹色の風のような流体の揺らぎが見えているだけだった。






「あれ?」




ハルナはこんなところに虫のような生き物がいること見つけた。



「これは……ヤモリ?」




『うむ……ヤモリとやらが判らぬが、失礼なことを言われた気がしてならんわい』



「え!?まさか…モイスさん!?」





モイスは身体をくねらせてハルナに近寄ってきた。







「え?本当に……モイスさん?」






ハルナもこの空間の中で、意識だけの存在から身体を作り上げることができた。




「そうじゃよ、それ以外に何に見えるのだ?」




ヤモリ……と口に仕掛けたが、ハルナは言葉をぐっと飲みこんだ。






「だって以前あの祠で会った時は、もっと大きくってゲーム中に出てくるようなカッコいい感じで……これが本当の姿なんですか?」



「本当かと言われれば、そうでもないし、そうでもある。もともと形にはこだわってないからな……ただ遭遇する者によってはあの姿の方が威嚇できるのはたしかなのだ。この姿はこの姿で、便利なのじゃよ。見つかりにくいし、体力もそんなに使わなくてよいしなぁ……おっとそれよりも、お主の精霊の件もあったな」




この空間はモイスが造り出した、あの場所にいたところとは別の時空だった。
モイスが近くにいる場合はその場で発動が可能だが、遠隔の場合は何かモイスと繋がっているものを媒介して発動しなければならなかった。









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