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第三章  【王国史】

3-132 入り口の罠

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ナルメルはログホルムで出した蔦を各人の腰に巻くように指示した。






「エルフの村は入り口をわからなくするために、周囲を幻覚の魔法で囲っています。この蔦で引っ張っていきますのでそれに付いてきてください」





そうして、ナルメルは森の茂みの中に入っていった。





はじめに、ナルメルが入っていく。
入るとその姿は見えなくなったが、腰に巻いた蔦は引っ張られていく。

次にアルベルト、ステイビル、エレーナ、ソフィーネと続き、ハルナも茂みの中に入っていった。






――!?







足を踏み入れた途端、周りの空気が変わったことを肌で感じる。

それは今までの湿り気を多く含んだものではなく、張り詰めたようなどこか冷たさを感じる空気に変わっていた。
最初に知らされていたように前を進む者の姿は見えず、物音さえも聞こえない。






「エレーナ……?」






ハルナは恐る恐る声を出してみる。
返事は返ってこないどころか、自分の声が頭の中で鳴っているようにしか聞こえなかった。


だが、腰につけた蔦は真っ直ぐに伸び、時々曲がりながらもハルナの身体を誘導する。






(もし、この蔦が切れてしまったら……)






考えたくもなかった思いが頭の中に浮かび、背筋が凍る思いをする。
ハルナは、腰の前に伸びる蔦をギュッと握りしめた。





そんな無音と孤独な恐怖に耐える時間が続いていたが、それもようやく終わりを迎える。


張り詰めていた蔦が少し緩み始め、身体ではなく手で牽引してくれるような感触が腰に伝わる。
そして、無音の世界でハルナの顔に風が吹いた。






「ハルナ……大丈夫だった!?」







僅か十分程度の無音の世界だったが、蔦で繋がっていても孤独と無音の恐怖に押しつぶされそうになっていた。

エレーナの声が、その恐怖と孤独を洗い流してくれた。






「こ……怖かった」

「私もよ……あんなに無音が恐ろしいものとは思わなかったわ」






ハルナの腰の蔦をナルメルが取り、後ろにいるブンデルとサナを誘導する。




そして、ブンデルが茂みの中から姿を見せる。
それからすぐに、サナもその姿を見せた。





「こんな仕掛け……あったかなぁ」






ブンデルはあの世界が平気だったようだが、別なところに関心があるようだ。








「これは、ブンデルさんが村を出た後に仕掛けられたものです。幻覚と方向を狂わせ、サイレントによって完全に孤立させる罠です。この森の中では何箇所かに同じ罠が仕掛けられており、間違った入口やルートを通ると落とし穴に落ちることもあります。ですから、道を知っていないと通れないのです。それとこの茂みには人数制限があり、一人ずつでないと入れないんです。ですから、蔦で縛って入るようにしたのです




「では、ナルメル殿と一緒じゃなかったら……」


「一生この茂みの中で過ごしていたことになってたでしょうね」








ソフィーネがあっさりと、想像したくもない恐ろしいk耐えを告げる。


実際にノイエルを救出しなければナルメルとも出会うことがなく、ブンデルはこの仕掛けを知らなかったため、最初の状態でエルフの村に向かっていればハルナたちも”そう”なっていた。



ハルナは自分の腕を抱いて、恐怖に一つ身震いする。





「ナルメルさん……有難うございます」


「ん?……なにがですか?」





ナルメルは、ハルナの小さな声に反応し道を進んで行く。







しかし、何か雰囲気がいつもと違うことに気付く。






(もしかして、もう眠りの力を使った!?)





ナルメルは、歩くペースが加速し小走りの状態になって先を急ぐ。







「な……ナルメルさん!どうしたんですか!?」






エレーナの声にも答えず、一人で先に進んで行く。
ハルナたちもナルメルを見失わない様に、急いでその後を追いかけていった。






ナルメルはようやく人影を見つけて、その者に近寄っていく。




「マルス……マルス!」




その人影は、ナルメルの呼びかけに気付き振り返った。





「ナルメル!無事だったのか?……それよりどうして戻ってきた??」





ナルメルに呼び止められたマルスという男性のエルフは、ナルメルの知り合いだった。
村ではナルメルに協力的な人物で、ナルメルの幼馴染でもあった。


ナルメルが一人で、ノイエルを育てていることをこのマルスが協力していた。
今回のナルメルが村を出るときの手助けをし、その間ノイエルの面倒も見ていた。





「ノイエルが……私のことを探して、村を出たのよ。そして人間に捕まってね、丁度良い人間がいて助けてもらったからよかったのだけど」



「やっぱりか……いなくなっていたから気にはなっていたんだ。だが、大げさに捜索するとバレてしまうからな……危険な目に会わせてすまなかった」




「ううん、いいのよ。あの子にはお爺様のところに行くように言ってあったんだけど……あの子が勝手にしたことだから……それより、村はどうしたの?何か雰囲気が違うんだけど」




「そのことなんだけど……」






「ナルメルさーん!」



遠くからナルメルの姿を見つけて、エレーナが大声で呼びかけた。
しかしマルスが”侵入者”に気付き、背中の弓を抜いて押し寄せる人間に構える。





「待って……あの人たちは!?」




ナルメルがその言葉が言い終わる前に、マルスは走ってくる人間に向けて矢を数本同時に放った。












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