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第三章 【王国史】
3-129 再会
しおりを挟む翌日の移動中、ナルメルは一晩である程度体力が戻ってきた。
ブンデルは気になっていたことを確認した。
「あの囚われていた時にまとっていた草は……あれはまさか、ログホルムなのか?」
「えぇ、そうです。もしかしてあなたも……?」
「えぇ。私も習得しています」
ナルメルは少し、考えてブンデルに問いただした。
「……あなた、”お名前”は?」
「え?……はい、ブンデルと言います」
「ブンデルさんね……」
ナルメルは手を差し出し、ブンデルに握手を求める。
いまさらと驚きつつも、ブンデルはナルメルの差し出した手を握る。
その感触は、不思議とブンデルの気持ちを落ち着かせた。
その気持ちを不思議に思い、ブンデルはずっと握ったままの手を見つめている。
「あの……ブンデルさん?」
その状態を心配し、声を掛けたのは隣にいたサナだった。
その声かけに、ブンデルの中で止まっていた時間が動き出す。
「あ!……すみません」
「いえ、いいんですよ」
思わずブンデルはナルメルに謝罪したが、優しい微笑みで返した。
――ドキッ
手に振れた優しい暖かい感触……親が子供を見つめるような優しい笑顔。
ブンデルは、その心地よさに吸い込まれていっていた。
そんなブンデルを、悲しそうな目で見るのがサナだった。
その視線に気付き、誤魔化すように一つ咳払いをする。
そんな様子を見て、ナルメルはクスっと笑いが漏れた。
そんなことがありつつも馬車は進んで行き、いよいよグラキース山が見慣れた大きさの場所まで到達した。
「おかえりなさいませ、ステイビル様!その様子では、無事にノイエルの母親も救出できたようですな」
「あぁ、問題ない。ノイエルはどこだ?母親の無事を確認したいだろう」
「はは、いま娘のチュリーと水遊びをしておったところです。今すぐ連れてまいりましょう」
「いや、こちらからそちらに向かおう。あとの荷物を頼めるか?」
ステイビルは馬車から降り、アルベルト達が降ろしている荷物を村人で運んでもらうようにお願いした。
「畏まりました。あとはお任せください!」
「ナルメル殿、こちらへ。ノイエルのところまで案内しましょう」
ナルメルは、丁度馬車から降りたところでステイビルに声を掛けられハルナとエレーナと共にステイビルの後を追っていく。
井戸の水は定期的に精霊使いがその中の水を足していたが、今では上流で土の精霊使いが大きなタンクを作り水の精霊使いがその中に水を貯め徐々に水を流すようにしていた。
以前に比べて、勿体ないと思えるくらいの水が使えるようになっていた。
その様子を見て、ナルメルは羨ましそうに見つめる。
久々に聞く流水の音に、懐かしさで胸いっぱいになった気持ちが目から零れ落ちそうになっていた。
「ナルメルさん。ほら、あそこでちゅりーちゃんと遊んでいますよ……どうぞ行ってあげてください」
「ハルナさん……みなさん。本当にありがとうございます」
ナルメルは片膝を付き胸に手を当てて、ハルナたちに感謝の気持ちを伝えた。
「ほらほら、早くいってあげて!」
今度はエレーナが、鼻の先を真っ赤にしながらナルメルをノイエルの傍に行くように急かした。
ナルメルはゆっくりと、自分の子供の傍に向かい歩を進めていった。
その姿にまず、チュリーが気付いてノイエルに後ろを向くように声を掛けた。
ノイエルはゆっくりと振り返り、その見慣れた姿を目にする。
「……ノイエル」
「お……母……さん!」
ノイエルは母親の姿を見つけ、その傍まで駆けていこうとした。
しかし、水に足を取られて思いっきり前に倒れてしまった。
その身体を持ち上げて助けてくれたのは、待ち焦がれていた大好きな母親の両手だった。
二人は、お互いの存在を声をかけ呼び合った。
ノイエルの小さな手は、母親の首に手を回して必死に抱き締め返した。
「ノイエル……いい子にしてた?」
「うん!いい子にしてたよ!」
自信満々で応えるノイエルに、ナルメルは厳しい表情で話しかける。
「どうしてここにいるの?村で……お爺様のところに行きなさいって言ってたでしょ?」
「えっと……それは……」
怒られると悟ったノイエルは、見つめられている母親の視線から目を逸らす。
「あの、それは……」
ハルナが助けようとした時、後ろからハルナの肩を掴んで行動を止められた。
振り返ると、マーホンが黙って見届けるように無言でハルナに合図を送っていた。
「でも、ありがとうね。ノイエル……あなたのおかげで、お母さん助けてもらえたの」
そう言ってナルメルは、懐から葉の付いたネックレスを出しノイエルの首に掛けた。
「あなたがあの人間たちに、助けてくれるようにお願いしてくれたんでしょ?」
母親に怒られて泣きそうな目で、ノイエルは再びナルメルと目を合わせる。
「だけど、もうこんな危ないことはしないで頂戴ね。お母さん、もしあなたの身に何かあったらと思うと……」
そう言って再びナルメルは、再び我が子を腕の中で抱きしめた。
「はい、もうしません……だから、お母さんも私を置いてどこかに行かないで……お願いだから」
「うん……わかった。約束する、あなたをもう一人にはさせない」
マーホンはハルナの肩に置いていた手を離し、後ろを振り向いてお茶の用意が出来ていることを伝え屋敷に戻ってくるように伝えた。
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