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第三章 【王国史】
3-127 預かったネックレス
しおりを挟む外の気配が落ち着いたことを感じたのか、絡まって出来上がっていた緑の草の塊は徐々に解けていく。
解けた蔦などは、力を無くして地面に落ちていく。
随分と厚さを成していた、中心部が見えるまで相当な時間を要している。
その間ハルナたちは、その様子をただただ見守っていた。
そして、いよいよドームのような塊が小さくなり、その塊を作った張本人が姿を見せた。
「うわぁ……」
その何とも言えない絵に描いたような人物に、思わずハルナは言葉を漏らす。
そこに姿を現したのは、ブンデルよりも年を取っているがハルナから見てもとても美しいエルフの女性が姿を現した。
「あ、あの……」
ハルナは恐る恐る、鉄格子の向こうのエルフに話しかけた。
だがエルフからは何の応答もなく、その様子は息をしていない様子だった。
ハルナは、エレーナと顔を向き合わせ、言葉を発することなくアイコンタクトで確認してもう一度声をかけてみるように促された。
「あ、あのぉ……ノイエルちゃんのことわかりますか?」
エルフはゆっくりと目を開けて、こちらに少し蒼白い顔をこちらに向ける。
「ノイ……エル……」
声と言い難い空気だけのかすれた音だが、確かに口元はノイエルの名前を発音してにした。
「そうです、ノイエルちゃんです!あなたは、ノイエルちゃんのお母様ではないのですか?」
ハルナのその問いかけに、エルフは少し目線を逸らし再びハルナの顔を見た。
「……いい……え……違い……ます」
「「――え?」」
予想外の返答に、ハルナもエレーナも驚いて声を出す。
「ちょっと待ってください!ここで捕らえられていたエルフはノイエルちゃんのお母様って聞いていたんですけど……本当に違うんですか?」
エレーナは相手が嘘を言っていると直感的に感じ、少し声を荒げて鉄格子越しに女性に向かっていく。
そんなエレーナの肩に手をやり、アルベルトはエレーナを制した。
「おい、エレン……よせ。いまは救出することの方が大切だ」
そう言ってアルベルトは二本の針金をカバンから取り出し、鍵穴の前にしゃがんだ。
そのまま鍵穴に針金針金を入れて、何かを探っている。
……カチャ……キィ
鍵が開き、さび付いた格子のヒンジ部分の音が鳴る。
ブンデルとサナが牢屋の中に入り、エルフの女性を抱えて外に運んだ。
長い時間草の塊の中にいる間、自分の意思で生命活動の下げることが出来るようで、その状態だと何も口に入れなくても長い時間平気だということは後で知った話になる。
「さぁ、とりあえずここを出よう。ここの空気はあまり好きじゃない……」
ステイビルのその言葉にきっかけに、ここを抜け出す準備にかかった。
ブンデルとサナがエルフの補助を、ソフィーネとアルベルトがランジェを連れて来た道を帰っていく。
無事に表に出てきた、ハルナたちは隠してあった馬車の近くまで移動した。
そこには、エレーナとアルベルトが助けた警備兵が数名残って馬車を護ってくれていた。
無事にたどり着いた村からの折り返しと出会い、ランジェの身柄を引き渡した。
その後、ランジェは警備兵に引き渡され東の王国の重罪人が隔離される洞窟を利用した牢獄に投獄された。
最終的には、気がおかしくなってしまいこの組織について何も聞き出すことが出来なかった。
そして、救出されたエルフはハルナたちの馬車に乗って村に向かっていく。
徐々に囚われていたエルフの身体の状態が回復し、飲み物を口に含むようになった。
村に戻る道中で、いったん火を起こし夜を過ごすことにした。
「ブンデルさんはこの方をご存じないのですか?」
「うーん……小さいころから一人で過ごしていたから、家族がいるのかも分からないんだ。ずっと訓練所の中で生活をしていたから、村の人たちとの交流もそんなになかったんですよ」
「ご、ごめんなさい……」
ハルナは、ブンデルに質問した内容がブンデルの古傷に触れるようなものであったと感じ素直に謝罪した。
「それで、そろそろ話してはもらえませんか?あなたはなぜ、あの者たちに捕らえられてしまっていたのかを」
ステイビルは先ほどからこのエルフの女性が、どのような経緯でとらえられていたのかを聞いているがその答えは返ってくることがなかった。
ノイエルに聞いた”ナルメル”の名前を出しても動じることはなく、エルフの女性はただ知らないの一点張りだった。
そこでハルナは、一つのアクセサリーを手にした。
「あの……これ、ご存じですか?」
「そ……それは!?」
エルフの女性は初めて、動揺した姿を見せた。
「これ……ノイエルちゃんから預かったものなんです。お母さんを……ナルメルさんを助け出すって伝えたら、これを渡してくれたんです」
ハルナは、そのネックレスを女性の前に差し出した。
すると、女性はゆっくりと手を伸ばして葉の部分を両手に乗せた。
ハルナは紐の部分を離し、すべてをエルフの女性に預けた。
「ノイエル……」
女性は、その葉を優しく両手で包み込み自分の胸に引き寄せた。
「ナルメルさん……あなたは、ノイエルちゃんお母さん……なんでしょ?」
「……はい。ノイエルは……私の娘……大切な娘です」
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