上 下
293 / 1,278
第三章  【王国史】

3-125 逃走

しおりを挟む








「いいわよ、かかってらっしゃい」


「なめんなぁクソがぁぁぁ!!!」





ランジェは素早い動きで踏み込み、ソフィーネとの距離を一気に縮めた。


殴りかかると同時に、逆手で持った短剣で切りつける。




ソフィーネはその攻撃を外に交わした、ギリギリで交わしたことにより前髪が少しだけ剣に触れ切り落とされる。
相手の手首をつかみ、伸展し切った肘に手を当てて肘を決めようとする。




ランジェも瞬時tに対応し、肘を曲げ身体を右側にひねり左手の示指と中指で相手の両眼を潰しにかかる。
ソフィーネは肘にを当てていた左手を話し、掌底で相手の突き手を打ち上げ軌道を逸らす。


掴んだ相手の手首を引っ張り体制をよろけさせて、両腕が不自由になってがら空きになった相手の腹部にカウンターで膝を入れる。






「――がっ……はぅっ!!!!」





ランジェは瞬時に腹部に力を入れその衝撃に備えたが、ソフィーネは確実に急所を狙ってきており堪えきれずに声が漏れ出てしまう。
痛みと苦しみで気を失いそうな意識を必死に堪えて繋ぎ止めた。
そこはさすがに、訓練された元諜報員といったところだろう。


だが、堪えることに全力を注いでいるため脚に力が入らずに片膝を付いてしまった。


ランジェの視界には、次の攻撃が目に入ってくる。




ソフィーネは、しゃがみこんだランジェの下顎を狙って蹴り上げてきた。

とっさに身を後ろに転がし、ソフィーネの足先の軌道から何とか逃れることが出来た。





そのまま数回回転し、ソフィーネとの距離を取る。


ランジェはすぐに前を向き、次の攻撃に対して警戒する姿勢を取る。
が、ソフィーネはこのチャンスに攻撃をしてこなかった。




前を見ると、ソフィーネは腕を組んでランジェのことを何も言わずに見下ろしていた。






「やめ……」




ランジェは笑う膝を手で抑えつけながら、立ち上がる。
ふら付きながらもその目はソフィーネにしっかりと向けており、その色は怒りで真っ赤に染まり充血していた。

絞り出した震える声で、ソフィーネに命令する。





「その見下した目で、私を見るのは止めろ!!あぁ、あの忌々しい姉妹の目付きと一緒じゃないか。やっぱりお前は私と組むことなんかできない、ここで消してやる!!」




ランジェは我を忘れて、短剣を振り回す。
そんな攻撃が、ソフィーネに届くはずがなかった。




「あなたはあの二人に何を教わってきたのかしらね?”私たち”にそんな出鱈目な攻撃が当たると思ってるの?戦いのときはどんな時も冷静にって何度も添わってきたでしょ?……あ、出来ないから逃げ出してきたんだのもしかして?」





「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」





ランジェにソフィーネの声は、既に届いていなかった。

しかも無意味に振り回すだけなので、体力も激しく浪費していた。




ソフィーネもこれ以上は煽る必要はないと判断し、この涼しくも心地よくもないうっとおしい風を止めること決意した。





「はぁっ……はぁっ……」





「もうそろそろ、あなたの踊りも飽きてきたから終わりにさせてもらうわね」





ソフィーネはありきたりに、手の指の関節をポキポキと鳴らしながらランジェに近付いて行く。
その目は諜報員特有の、感情を持たない冷徹に任務をこなす機械のような目をしていた。


ランジェはその目に、恐ろしい訓練の日々であの姉妹に痛めつけられた記憶が恐怖と共に蘇る。





ソフィーネは、ランジェが落とした短剣を手に取る。






「あ……いや……助け……」






――ドン!





どこかで爆発音がし、地震のような揺れが起こる。







隙を見てランジェは、腰のポケットから灰と刺激物を混ぜた小さな袋を手に取り床に投げつけた。

その途端に今いる場所は真っ白に染まり、視界が奪われていく。


これは、諜報員の小道具として緊急用に使うものだった。





ソフィーネはすぐにこの煙を吸い込まない様に、布で口元を押さえ目は薄目で状況を見逃さないようにする。





(ガコン……)





この場所のどこからか、何かを外した音が聞こえた。




(隠し通路か……?)





ソフィーネは目の中に刺激物が付着しない様に気を付けながら、舞い上がる粉の動きを見つめる。


すると、空気がこの場所から出ていく流れを見つけた。
その場所に近付き、足の裏でその周囲を探る。


すると、人が一人通り抜けられそうな穴が開いているのをみつけた。


ソフィーネは。手に持っていた短剣を穴の中に落とした。






キー……ン




音からして、そんなに高くもなく罠のようなものもないと判断した。


ソフィーネは床に座り、脚を入れて下の穴に入り込んだ。



入ると四つん這いの状態で進んで行くことが出来るくらいの高さの穴だった。




そして進んで行くと、ある別な部屋に繋がっていた。






「……?」




何か奥から話し声が聞こえる。
どうやら、誰かと会話をしている様子だった。








「……だ、お前は!?」



「私はね、いい香りがしたから辿ってきたの。そしたらここから出ている香りだったの……それだけよ?」





「嘘をつけ!うちの商品を狙ってきたのだろう?……あぁ、今日はなんて日だ!?」






一人は先ほどまで相手をしていた、ランジェだが、もう一人は聞いたことのあるような声だった。



ソフィーネはゆっくりとその声の主を確認した。
すると、そこには信じられない人物が姿を見せていた。






(あれは……ヴァスティーユ!?)






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...