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第三章  【王国史】

3-123 囮

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「……ほんとアンタたちって、毎回同じ行動パターンなのね。こっちが罠じゃないかって疑うくらいよ?」




警備兵は、姿を見せた人物から目を離さずにいる。

まだその姿を見せた人物が、敵か味方か判断がつかなかった。





「だ……誰だお前は!?」





先ほどまで自分と話していた賊が、この場の新しい登場人物に対し警戒する態度を見せる。







(こいつらは……仲間じゃない?)





警備兵は初めて見る現象に驚く。
何もないところから氷の塊が浮かび上がり、こちらに向かって飛んできた。





「――しゃがめ!」




「――!!」




どこからか聞こえた男の声に反応し、警備兵は身をかがめる。





「ぐぅえ!!!」







警備兵の後ろの荷台の屋根の上に立っていた男は、腹部に受けた氷の塊に悶絶して転げ落ちた。







「いかなる時でも気を抜くな……だが、こんな状況でもあきらめずに必死に策を考えていたことはいいことだがな」






茂みの中からもう一人、別の人物が姿を見せる。

声からして、さっきしゃがむように指示をしてくれたのはこの男なのだろうと判断した。





「何なんだ、お前たちは!?……くそ、一斉にやっちまうぞ!」




男は剣を抜き、現れた二人の人物に対峙する。
そして、仲間があらわれ二人を取り囲むのを待った。



だが、待ってもいっこうに現れる気配がない。





「……なにしてやがる!さっさと出て来い!!」






男は、声を荒げて部下を呼ぶ。

が、目の前の二人は涼しい顔でその様子を見ていた。







「ま……まさか。お前たちが……」






「やっと気づいたのね。少し遅いくらいだけど……」


「それと、状況が変わったことに気付かないとは。それだから、お前たちは弱いんだ」







「なにぃっ!?」




その言葉に逆上し、顔を真っ赤にした。
が、その怒りはどこに吐き出すことも出来ないまま終わることになった。





「ほら、周りを見ろ。……とはいえ、もう遅いがな」




「!?」




男は振り返ると、先ほどまで馬車の上にいた男が真後ろに位置し、剣の柄が振り下ろされ頭部に強い衝撃を感じたのを最後に視界が真っ黒になった。










「こ、ここは?……うっ!?」



目が覚めると男は道端に放置されていたことに気付く。
男は手首を縛られ、両手の自由を奪われたことに気付いた。





「ち、ちくしょう!?あいつら、どこ行きやがった……!」





男は、辺りを見回し自分の他に誰かいないかを確認する。
男はそのまま、峡谷に向かって歩いて行く。




道は狭くなり、通った痕跡だけがわかるような獣道になっていった。

更に進んだところに、小さなボロボロの小屋が見える。




男は小屋には入らずに裏手に回り、井戸の蓋を開けた。
井戸の中には縄梯子が掛けられており、縛られた両手を上手く使い下に降りていった。







「誰かいないか!?助けてくれ!!」




降りた先は横穴が通っており、奥に向かい男は声を出して進んで行った。

薄暗い通路の中、洞窟の湿気で濡れている壁を手で伝いながら進んで行く。
何度か軽い曲がった場所を通り、奥に明りが照らされた空間の部屋がみえる。

その入り口には一つ、人影がこちらを見ていることが伺えた。

その影を見た男は、大声で助けを求める。




「おーい、助けてくれ!変な奴らに襲われたんだ!早くこの手を外してくれ、そして手を貸せ。あいつら……許しちゃおけねぇ!!!」






男はバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。




「ちっ。急ぎ過ぎたか……」






男は手を壁に付けて、立ち上がろうとした。






――ドサッ




男は起き上がろうとしたが、片足に力が入らずまた前のめりに倒れ込んだ。





「くそ……疲れてるのか?おい、そこのお前。黙ってみてないで、手を貸……ぶっ!?」




男は近寄ってきた人物に頭を踏みつけられ、顔面を強打した。



必死に顔をあげて、何とか声を出した。






「なんてことしやがる!?お前、お、俺が誰だかわかってんのか?許さねーぞ、あぁ!?」




「威勢がいいだけの馬鹿が……無様な姿をさらしてきて、その上あいつらまで連れてきてくれて」




頭を押さえつける力が徐々に増していき、男は強気の言葉すら出せなくなってしまっていた。



「まぁ、自分の片脚失っても気付いてないみたいだし。あんたはそれくらい馬鹿だったってことよね?」





男は、右側の脚の膝から下がなくなっていた。
男も言われて、右脚の痛みに気付き始める。

さっきから倒れたのは脚に力が入らないのではなく、力を入れる脚自体がなくなっていたのだった。




男は脚よりも、踏みつけられた頭の痛みの方がはるかに強烈だった。
身体の中から聞こえる音で、頭蓋骨がゴリゴリと砕けそうな音が聞こえる。




「や……やめ……たすけ……おねが……しま……!?」





男は涙を流しながら、命乞いをした。






「やっと自分の立場が分かったみたいだね……でも、もう遅いのよ。ほら、そろそろあいつらが着いちゃうから……ゆっくりおやすみなさい」







――ゴシャ







音と共に、男は頭部を無くし痛みを感じることもなくなった。







――ブォオオオオォオオ!!!!!




「ぐっ!?」




男を踏みつけた人物は、狭いトンネルのような洞窟の中に大量の風が流れ込んでピストンのように押し出される。





ソフィーネは立ち上がろうとする人物に向かって声を掛けた。







「またお会いしましたね”先輩”」









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