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第三章 【王国史】
3-92 ハルナの機転
しおりを挟む「な!?……本当に、こんなところにあるの?」
エレーナは恐る恐る、断崖絶壁の下を覗き込む。
もちろんハルナに袖はしっかりと握られ、ハルナも万が一のためにとその先の木の枝をしっかりと握っていた。
崖はほぼ垂直になっており、とても下っていけるような場所ではない。
時折、崖の下から吹き上げる風に身体が揺らされてしまう。
だが、付き添いのドワーフはつかつかと崖のふちまで歩き、その場所を指で示す。
「えぇ、ここの場所で間違いございません。ほらあそこに、わかりますか?」
エレーナは指を指された場所を目を細めてみるが、ただのゴツゴツとした岩があるだけにしか見えない。
それほど、うまくカモフラージュされているのだろう。
でなければ、容易に外敵から攻め込まれてしまう。
その辺りの精工なつくりは、やはりドワーフといったところだ。
ブンデルが、ヤレヤレといった感じで重要なことを告げる。
「で、そこには誰が行くんだ?」
「できれば場所がわかる者が行くのが適当だと思うが。……あなたは、この崖を降りることができるのですか?」
ステイビルの問いに、ここまで連れてきてくれたドワーフが目をつむり下を向き首を横に振る。
「かといって、場所がわからない我々が行っても……それに、降りるための道具も用意していないし」
――ビュオッッッ!!!
下から突発的に吹き上げる強風が、ここにいる全員の服をバタバタと強く揺らし、ハルナたちも飛ばされない様にその風に抗った。
エレーナは誤って落ちない様にハルナとアルベルトの身体を引っ張って崖から遠ざけた。
崖とこの突風。
防御としては、都合の良い場所であっただろう。
だが今は、それが大きな障害となっている。
「あのぉ……聞いてもいいですか?」
ハルナが、落ち込んでいるドワーフに話しかけた。
「え?あ、はい。なんでしょうか?」
「その扉……どんな仕組みですか?」
「はい、通路に岩がはめ込んでありましてそれを強く押し込むと外れる仕組みだったかと……」
「外から押し込んでも無理ですか?」
「それは無理ですね。外部からの侵入を防ぐ意味もあり、外に押し出す方法でしか開かない様になっています」
それでもハルナは、自分の案に問題ないといった表情のままだった。
「わかりました。それと、ブンデルさん。この前、助けてくれたあのロープ……作れないですか?」
「作れるけど、どうするのさ?」
「私にちょっとした考えがあるんです……」
「なんだ、ハルナ?その考えって」
ステイビルは、興味深くハルナに問う。
「私たちが降りれないなら、フーちゃんとヴィーネちゃんの力を借りましょう!!」
「あぁ!その手が……って、あの子たちにそんなことができるの?」
エレーナはハルナのアイデアに希望が湧き一瞬喜んだが、あの二人にそんなことができるのかと冷静に考えてみた。
だが、どう考えてもあの二人にはそういった力はなさそうに思える。
「精霊の力を利用して”押す”ことはできても”引く”ことはできないんじゃないのか?」
ステイビルも、精霊の力を考慮しその方法を導き出そうとするが、精霊がその近くに行けるということ以外は今の状況が変わるようには思えなかった。
クリエのように土の精霊ならば、岩を元素に変えることもできただろうが、今はキャスメルの方にいる。
中から押し出そうにも、ある程度の隙間がなければ精霊も移動できない。
精霊とはいえ、壁をすり抜けるようなことはできない。
「……それで、こういうのはどうかな?」
この場の全員の期待が、ハルナに向けられる。
ハルナは、注目されていることになれていないので一番話しやすいエレーナの視線に合わせて話し始めた。
「フーちゃんたちにパラシュートみたいなものを作って、その岩の蓋に取り付けてもらうの……」
そして吹き上げる風とフウカの風の力を使ってそのパラシュートを押し上げ、岩の蓋を引き抜く作戦だった。
もし、隙間が空いて入れるようだったら、ヴィーネにさらに水圧で仕込んでもらうようにお願いした。
「パラシュート……って、なにそれ?それにできるの……そんなこと?」
エレーナの疑問にハルナが答える。
自分が元いた世界の道具であることを説明し、空気の抵抗を利用して空を舞ったり減速装置に使用したりと説明した。
そんな説明をされても、エレーナはあまり理解していない様子だったが、風の力で引っ張ることは理解できた。
「いや、やるしかないんじゃないか。失敗しても誰も傷付くことはなさそうだ……それでいこう!」
「さすがハルナ様ですね、素晴らしい案です」
「それでは、早速準備に取り掛かろう」
「「はい!」」
ステイビルの号令により、皆は準備を開始する。
ハルナとエレーナは、身に付けているローブを脱いだ。
ブンデルが魔法で伸ばした蔦をロープ状にし、そのローブに結び付ける。
ローブは二枚並べ、なるべく空気の抵抗が強くなるようにした。
そしてローブを折り畳みフウカに持たせ、それに結びつけられたロープをヴィーネが持つ。
「それじゃよろしくね!」
「まっかせてー!」
フウカとヴィーネはドワーフの付き添いに指示されながら、岩の蓋の前までたどり着いた。
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