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第三章 【王国史】
3-61 チュリー
しおりを挟む湧水を貯めている井戸が、ポッドの家の近くということでステイビルたちは案内してもらうことにした。
チュリ―はすっかりハルナたちを気に入ったようで、移動するときも手を離さない。
「ここが、水が湧き出る井戸です。昔はいつも満たされて居ていましたが、この現象が起きてから底に溜まっているくらいです。何日置いてもこれ以上増えることはなく、汲みだすとこの量までは戻るので数日に一度水を汲み上げて貯めている状況です」
井戸の中を覗き込むと、底は岩が積み重なっている状態だった。
どうやら水はその岩の隙間からにじみ出ていると判断した。
この井戸を流れる水脈の勢いが少なくなり、以前の量が保てなくなったのだとステイビルは推測した。
「少し試させてもらいたいことがあるのだが……水はそのまま、いや。少し増えることになるかもな」
「――?」
ポッドは不思議な顔をして、提案してきたステイビルの顔を見る。
その不安にこたえるために、ステイビルはチュリ―と遊んでいるエレーナを呼んだ。
「エレーナ、すまないがこの井戸に水を足してくれないか?半分くらいでも……いや、いっぱいにしてくれ」
「え?」
ポッドは驚いた、”水を足すことが普通の少女にできることなのか?”と。
エレーナはヴィーネを呼び出して、二人で井戸のなかに水を注ぎ始めた。
「こ……これは!?」
「あ、これは井戸の中の水がどのくらい漏れているのかを確認しようと思い、まずはこの中の……」
「い、いやそういうことではない!なぜ何もないところから水が!?」
「エレーナは”水”の精霊使いなんですよ?私は”風”ですけど」
ポッドは目の前の現象に、目を丸くする。
「やっぱりこうなりましたか……」
カイヤムが、ポツリと口にした。
「ど、どういうことだ?」
「ポッドの家が水を信仰していることはお話ししましたが、彼もまた水の精霊に対して厚い信仰を持っております。まして、このような僻地に精霊使いの方が訪れることは今までありませんでしたので、初めて見るとこういう反応になるのではと思っておりました」
カイヤムはいろいろな町を回っているため、精霊使いの存在は知っていた。
だが、この集落から出たことのない人物にとっては神の技のように映っていた。
「……はい、お終い。これくらいでいいですか?」
「あぁ、充分だ。……ポッドさん。この水は普通に使ってくださっても構いません。ただ、自然に水が減っている量は観察していてください。あと、この場所から下に流れている水脈の土地に変化があればそれも教えてください」
「わ……わかりました。そ、それに精霊様も、有難うございます!!」
ポッドは、膝を付き土下座の形で頭を下げエレーナとヴィーネに感謝を伝える。
「ちょ……ちょっと、やめてください。そこまでしなくてもいいですよ……あ、良かったら生活で貯めている水があれば入れ物を持ってきてくだされば水足しますよ?」
「ほ、本当ですか!!」
その話しが集落に広まり、今エレーナの前に三十人程度の人が列を作り並んでいる。
その手には、それぞれの水を入れる容器を持っていた。
エレーナの横にいるチュリ―はずっと、エレーナの服を掴んで離さなかった。
その不思議な光景を、ずっとエレーナの横で黙った見ていた。
人が並ぶ列の横を一人の老人が、エレーナに向かって歩いてきた。
チュリ―はその人物を見て、エレーナの後ろに隠れる。
「これは、これは。初めまして、精霊様」
「え?はい。どなた様でしょうか?」
「じーじ、よ……」
チュリ―が小さな声で、エレーナに教える。
「え?ということは、ポッドさんのお父さんね……」
「この度は”私の”村を助けて下さり、感謝致します。しかし、さすが水の精霊様ですなぁ……私たちの願いを聞き届けてくれて助けに来ていただけるとは。やはりこの村に必要な精霊様は、”水”の精霊様ですな!」
「”カンヤ”……何を勝手なことを。今回この村を訪問した者に、たまたまいただけだろうが」
昨晩聞いたカイヤムの父親が、会話の中に入ってきた。
「見よ、”ブルペラ”。我らの水の精霊様のお力によって、村の者たちも喜んでおるではないか?それにお前が大切にしている風の精霊様はどうした?何かしてくれているのか?」
「――ん?呼んだ?」
呼ばれたと勘違いしたフウカが、姿を見せる。
「あ、あなたは?」
突然現れた登場人物に、警戒するカンヤとブルペラは警戒する。
「あ、この子は私と契約している”風”の精霊で、名前はフウカちゃんです」
その話しを聞いてカンヤの顔は青ざめ、ブルペラの顔はニヤッと微笑んだ。
「ふん。精霊様には、ちゃんと我々の声も届いておるわ!それに先ほどお前は、この風の精霊様をバカにしておったのぉ?」
その言葉にカヤンは、慌てて否定する。
「いや……その、決してそのようなことではなく……」
焦って言い訳をするカヤンを見て、ブルペラは意地の悪い笑みを浮かべている。
その様子を呆れたステイビルが割って入る。
「もういい。ここにこれたのは、確かに見えない力の働いたのかもしれん……この村に付いたのも偶然、カイヤム殿の薬草に助けしてもらったからなのだ。だが、ここでこうして困っている者たちと出会ったなら、我々は出来る限りの手助けをさせてもらいたいのだ」
その意見に、ハルナもエレーナも頷いて見せる。
その時から、二つの家の争いは一時的に収まったようだ。
そして水のお礼にと、村の中で食べ物を持ち寄りハルナたちの食料も補給してくれることになった。
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