220 / 1,278
第三章 【王国史】
3-51 復讐
しおりを挟む「その話し……もう少し詳しく聞かせてもらえるか?」
誰も入ることのできない部屋に把握していた人数以外の声が聞こえ、男は驚き声の方向へ振り向いた。
そこには、この屋敷に侵入したとは考えられないくらい華奢な男の姿があった。
「な、なんだお前は?一体どこから入ってき……ぐが!?痛ってぇー!!」
妖精は、その男の顔を掌全体でギリギリと締め付けた。
その手を掴み引きはがそうとするが、きゃしゃな体からは信じられない力で締め付けているため解くことが出来なかった。
妖精はその男を軽々と持ち上げて、男の全ての体重が掴んだ箇所に全て乗るようにぶら下げた。
「おい、お前。スズナという名前に聞き覚えはあるか?」
男は痛みを堪えながら、首を横に振ろうとする。
が、手で押さえつけられて振ることが出来なかった。
その様子を見て、女性の手足を押さえつける役目をしていた一人が主人を助けるために要請に飛び掛かった。
――バリン!
ガラスの割れるような音が響き、男は飛び掛かることも叶わず目の前に倒れこんだ。
振り返ると自分の両脚が、元いた場所から動いていなかった。
両脚は氷漬けにされており、床に張り付いたままになっていた。
男のちぎれた大腿部からは、出血もなく痛みも感じていなかった。
切断された箇所は、凍ってしまっており神経や組織が既に機能していなかった。
そして、もう一人の男は既に全身を氷漬けにされてしまい絶命していた。
あえてこの男に恐怖を与えるために、別々な対応をしてみせた。
その様子を見た主人は、目の前の妖精に抵抗することを諦めた。
妖精は男の顔から手を離し、男はその場に倒れ込んだ。
「もう一度聞こう。お前はスズナという女性を知っているな?」
「は、はい。存じ上げております!?私が、貧困の家庭から少女を助け出してあげましてございます!ですが、今は逃げ出してしまいここにはおりません!!」
「やはり……お前か」
――ボン!
「きゃあぁぁぁっ!!!」
破裂音とともに、男の右膝が氷の塊がぶつかったことによって吹き飛んだ。
先ほどまで乱暴されていた女性は、その恐ろしい光景を見て気絶してしまう。
男は襲い掛かる激痛に対して、身構えて残された脚を抱えゴロゴロと床を転げまわる。
だが、いつまで経ってもその激痛は脳に到達しなかった。
「……あれ?痛く……ない……?」
男は、自分の膝から下を吹き飛ばされたにもかかわらず痛みを感じないことを不思議に思い、自分の脚を見つめる。
それは、そこから既に凍らされているため痛覚自体が機能していなかったのだ。
「お前には、スズナが受けた”恐怖”と同じ……いや、それ以上のものを受けてもらおうか。楽に死ねると思うなよ」
そういうと、妖精は人差し指を右肘に照準を合わせ、そこから先を同じように吹き飛ばして見せた。
次に左膝、左肘から先を順番に吹き飛ばして見せた。
男には、吹き飛んでいく衝撃を受けるがその痛みは全く感じていなかった。
自分の身に襲い掛かっている惨劇と、無痛のギャップに男の脳は処理を仕切れずパニック状態になる。
「あ……!?……え……あ?」
男は既に、四つん這いの状態になることも難しい身体となっていた。
男の顔が、徐々に恐怖の色に染まっていく。
次第に自分の状況が、脳内で理解し始めていた。
「ぐわっあああぁぁああぁ!た、助けてくれー!そうだ、お前に何でもやろう。金目の物も……あ。集落の一つはどうでしょうか?きれいな女がいっぱいるところをやるぞ!!!頼む……お願いだ、命だけは!命だけは!!」
妖精は上から、地面を転がり命を懇願する男の姿を見下ろした。
「お前は、そうやって誰から同じように願いを聞いて助けてあげたことはあるのか?……今はその氷で痛みを止めているのだが、それを外すとどうなると思う?」
「え?やめ……それだけは、止めろ!いえ、やめてください!それだけは!?」
男は痛みに対して安心していたが、再びその恐怖が脳内を埋め尽くしていく。
尋常じゃない汗が、額から流れ落ちていくのがわかる。
「もう十分生きただろ?お前が消えてもスズナは戻らぬが、せめてその無念さを腫らさしてもらおう」
「や……やめ……て……おねがい……しま……」
妖精は指をパチンと鳴らし、その合図を男にもわかるようにしてみせた。
「――ぅぎゃああアあああ!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!痛ぇー!!」
男のちぎれた四肢から、一斉に血が噴き出ていく。
既に男の顔には、恐怖を通り越した狂気の表情になっていた。
流れ出る血は、辺り一面の床を塗りつぶしていく。
男の顔は、見る見るうちに青白く変わっていく。
全身を巡る血液が流れ出てしまっているため、全身に酸素が届いて行かなくなっていた。
そして、息苦しさを訴えるように喉元を掻き毟ろうとするが、既にその”手”はなかった。
「おま……え……は……一体……ス……ズナの……」
そう言い残して、男は絶命した。
「終わったよ……スズナ」
妖精は空間に向かって、愛しい家族だった者の名を呼んだ。
残された女性を抱き抱え、妖精は血の匂いが充満する部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる