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第三章  【王国史】

3-51 復讐

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「その話し……もう少し詳しく聞かせてもらえるか?」






誰も入ることのできない部屋に把握していた人数以外の声が聞こえ、男は驚き声の方向へ振り向いた。

そこには、この屋敷に侵入したとは考えられないくらい華奢な男の姿があった。







「な、なんだお前は?一体どこから入ってき……ぐが!?痛ってぇー!!」







妖精は、その男の顔を掌全体でギリギリと締め付けた。
その手を掴み引きはがそうとするが、きゃしゃな体からは信じられない力で締め付けているため解くことが出来なかった。

妖精はその男を軽々と持ち上げて、男の全ての体重が掴んだ箇所に全て乗るようにぶら下げた。







「おい、お前。スズナという名前に聞き覚えはあるか?」







男は痛みを堪えながら、首を横に振ろうとする。
が、手で押さえつけられて振ることが出来なかった。


その様子を見て、女性の手足を押さえつける役目をしていた一人が主人を助けるために要請に飛び掛かった。






――バリン!





ガラスの割れるような音が響き、男は飛び掛かることも叶わず目の前に倒れこんだ。



振り返ると自分の両脚が、元いた場所から動いていなかった。
両脚は氷漬けにされており、床に張り付いたままになっていた。


男のちぎれた大腿部からは、出血もなく痛みも感じていなかった。
切断された箇所は、凍ってしまっており神経や組織が既に機能していなかった。




そして、もう一人の男は既に全身を氷漬けにされてしまい絶命していた。
あえてこの男に恐怖を与えるために、別々な対応をしてみせた。




その様子を見た主人は、目の前の妖精に抵抗することを諦めた。



妖精は男の顔から手を離し、男はその場に倒れ込んだ。





「もう一度聞こう。お前はスズナという女性を知っているな?」


「は、はい。存じ上げております!?私が、貧困の家庭から少女を助け出してあげましてございます!ですが、今は逃げ出してしまいここにはおりません!!」








「やはり……お前か」





――ボン!



「きゃあぁぁぁっ!!!」








破裂音とともに、男の右膝が氷の塊がぶつかったことによって吹き飛んだ。
先ほどまで乱暴されていた女性は、その恐ろしい光景を見て気絶してしまう。



男は襲い掛かる激痛に対して、身構えて残された脚を抱えゴロゴロと床を転げまわる。
だが、いつまで経ってもその激痛は脳に到達しなかった。






「……あれ?痛く……ない……?」







男は、自分の膝から下を吹き飛ばされたにもかかわらず痛みを感じないことを不思議に思い、自分の脚を見つめる。
それは、そこから既に凍らされているため痛覚自体が機能していなかったのだ。







「お前には、スズナが受けた”恐怖”と同じ……いや、それ以上のものを受けてもらおうか。楽に死ねると思うなよ」






そういうと、妖精は人差し指を右肘に照準を合わせ、そこから先を同じように吹き飛ばして見せた。
次に左膝、左肘から先を順番に吹き飛ばして見せた。


男には、吹き飛んでいく衝撃を受けるがその痛みは全く感じていなかった。
自分の身に襲い掛かっている惨劇と、無痛のギャップに男の脳は処理を仕切れずパニック状態になる。







「あ……!?……え……あ?」






男は既に、四つん這いの状態になることも難しい身体となっていた。


男の顔が、徐々に恐怖の色に染まっていく。
次第に自分の状況が、脳内で理解し始めていた。





「ぐわっあああぁぁああぁ!た、助けてくれー!そうだ、お前に何でもやろう。金目の物も……あ。集落の一つはどうでしょうか?きれいな女がいっぱいるところをやるぞ!!!頼む……お願いだ、命だけは!命だけは!!」




妖精は上から、地面を転がり命を懇願する男の姿を見下ろした。




「お前は、そうやって誰から同じように願いを聞いて助けてあげたことはあるのか?……今はその氷で痛みを止めているのだが、それを外すとどうなると思う?」




「え?やめ……それだけは、止めろ!いえ、やめてください!それだけは!?」




男は痛みに対して安心していたが、再びその恐怖が脳内を埋め尽くしていく。
尋常じゃない汗が、額から流れ落ちていくのがわかる。





「もう十分生きただろ?お前が消えてもスズナは戻らぬが、せめてその無念さを腫らさしてもらおう」





「や……やめ……て……おねがい……しま……」




妖精は指をパチンと鳴らし、その合図を男にもわかるようにしてみせた。





「――ぅぎゃああアあああ!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!痛ぇー!!」





男のちぎれた四肢から、一斉に血が噴き出ていく。
既に男の顔には、恐怖を通り越した狂気の表情になっていた。



流れ出る血は、辺り一面の床を塗りつぶしていく。




男の顔は、見る見るうちに青白く変わっていく。
全身を巡る血液が流れ出てしまっているため、全身に酸素が届いて行かなくなっていた。
そして、息苦しさを訴えるように喉元を掻き毟ろうとするが、既にその”手”はなかった。





「おま……え……は……一体……ス……ズナの……」






そう言い残して、男は絶命した。




「終わったよ……スズナ」





妖精は空間に向かって、愛しい家族だった者の名を呼んだ。



残された女性を抱き抱え、妖精は血の匂いが充満する部屋を後にした。








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