上 下
216 / 1,278
第三章  【王国史】

3-47 氷の中で眠る少女

しおりを挟む




「そ、それは……」


ハルナは、妖精が侵されているその現象に見覚えがあった。
それは、この世界で度々目にしていた現象だった。



「どうやらこの現象はな、自然界に近い生き物に起こるようなのだ」



「それは、何かに感染したのですか?」



「違う。これは自然の理を犯したものが背負う罪なのだ」



「理を……犯す?」



「そうだ。私の場合も、そうだった。たとえどんな理由があろうとも……だ」






ハルナは思い出す。
ディヴァイド山脈を越えるときに出会ったコボルトのことを。

あのコボルドも人を殺め、その罪を背負っていた。









「まさか、人を……」


「よく知っているな、人間にしては賢いな……その通りだ。どうだ、恐ろしいか?」






その質問に、ハルナは首を横に振る。
コボルトの時もそうだったが、犯した過ちにはきっと何らか理由があるに違いないと思ったから。




「私の知っているコボルトにも、同じような症状が起きていました。その過ちを犯してしまったことも、理由があったのです」





「そうか……もちろん私も理由があった。だが、人間は過ちを犯してもこの現象が起きない。なぜか、自然界に近い生き物だけに起こるのだ。この世界の仕組みを作った方は、我々にはお厳しいらしい」



「でも、このフーちゃんはその黒い物を消すことが出来るんです。だから安心し……」


「いや。私はもうダメだ、妖精にも寿命はある。お前たちが、気が遠くなるほどの時間を過ごしてきたのだ。この闇を消してしまえば、そう長くは持たないだろう。私はもうこの世界に、長く居過ぎたのだ……」




そういうとローブを整え、ハルナとアルベルトに背を向ける。





「付いてきてれ。見てほしいものがある」




妖精は自分の後ろに付いてくるように促し、洞窟の奥へと進んで行った。
二人は、妖精の後ろを黙ってに歩いてついて行く。

薄い暗闇の中進んで行き、一番奥の突き当たった場所に辿りつく。


妖精はろうそくに火を点け、周囲を照らす。




「こ、これは?」





そこには透明な気泡一つない氷の中に、随分と昔の服装の少女が眠っていた。





「あの、この方は?」


「私がこうなった原因の人間だ」









そこから妖精は、ゆっくりと今までの自分を振り返るかのように語り出した。























この精妖精はまだ王国ができる前の時代、ある精霊使いと契約をした。
何故か初めから、人型になることが出来ていた。


その精霊使いは、森の中に住む集落で生活していた。



当時は現代のように、精霊使いという職が体系的に管理されていなかった時代だった。
そのため精霊は世の中にあまり知られていなかったため、その存在を神格化している集団も多く見られた。
その時代の精霊使いは、日照りで水不足の時など精霊の力で生活を助ける助けることを主な役目としていた時代だった。



精霊は、ここでの生活に満足し集落の人々とも仲良くなった。





いつの時代でも争いは起きる。
豊かな村を狙い、他の部族が奪い取ろうと襲ってきていた。


争う術を知らなかった精霊使いは、今のような精霊の力の使い方を知らなかった。
そのため、精霊は自分の持つ全ての力を使い襲い掛かってくる他の部族を跳ね返していった。
そうして、精霊は別な力の使い方を覚えていく。



何度か追い返しているうちに、この集落は不思議な力で守られているという噂が立ち襲ってくることもなくなっていた。
そこから、契約者と安定した幸せな日々が続くと思っていた。






しかし、人の寿命は短かった。

それには、栄養不足や医学の未発達などの理由もある。
その精霊使いも例外ではなかった。




そしてその精霊使いは間際に、精霊の自由と幸せを願ってその短い生涯を終えた。





精霊は妖精となり、精霊使いのことを思いこの集落に残ることにした。

それにより、集落内で争いが起こった。


精霊使いはその人外的な能力により、この集落の中では崇められる存在となっていた。
その人物がいなくなると、”次は自分が”というものが複数現れ、妖精の確保を巡って争いが起きた。


人間との幸せな生活を夢見ていた妖精は絶望し、その集落を離れることを決意した。






妖精は新たな契約者を見つけようと、人型であることを利用し旅に出た。
だが、待っていたのは”一度契約した精霊は二度と人間と契約できない”という事実だった。





そのことを絶望的に感じ、妖精は今の洞窟の中に籠るようになってしまった。




その洞窟はとても居心地がよく、何百年の月日が流れていた。







その平穏もある日突然、終わりを告げる。








「ハァハァ……」




少女は、岩がゴロゴロとした川を必死になり、息を切らしながら上っていく。



その後ろでは、数人の男性がその少女のことを探しまわっていた。





「こっちに行った形跡があります!」




一人の男が、後ろに付いて回る男に向かって叫んだ。



「よし、追いかけろ!絶対に捕まえろ、”アレ”は高かったんだからな!?」





男の命令で他の五名の男たちは、川の上流を目指して移動を始めた。







「助けて……いや、誰か……お願い……、助けて」




少女も更なる上流を目指して、岩を乗り越えていく。
一つ一つ手探りで、進める場所を確かめながら。





少女はようやく上流の端までたどり着いた。
大量の水が流れ落ちる音は初めのようで、少女は戸惑う。

ゆっくりと滝つぼの周囲を回り、ようやく裏側に辿りついた。



少女は手探りで奥に進み、隠れる場所を探そうとした。



だが、誰もいないはずと思っていた場所から自分に向かって声が響いた。



「おい。勝手に入るな、お前は誰だ?」





妖精は突然訪れた訪問者に向かって、声を掛けた。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...