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第三章 【王国史】
3-42 次の目的地
しおりを挟む「うぇっ!何なの、この生き物!?」
「ナマズじゃない?これ?」
透明な水面の中に、一匹の大きな魚がこちらに向かってくるのが見える。
その後ろには、フウカとヴィーネの姿もあった。
「ハル姉ちゃん、勝った。勝ったよ!!」
フウカは、無意識にナマズの神経を逆なでしている。
「「――??」」
エレーナとハルナは何のことかわからなかったが、途中で大きな輪がゴボッゴボッっと浮いているのが遠くに見え何かが起きているのは感じていた。
近くまで、寄ってきたナマズはここにいる一同の顔を見渡した。
『お前さんたちが、この精霊の契約者じゃな?』
「わ!ナマズがしゃべった!?」
「う、気持ち悪い……」
そう話しかけられた、ハルナとエレーナが反応を示した。
『お前たち、精霊も契約者もそろって失礼な奴らだのぉ……』
そういいつつ、ナマズは池の際に寄ってきた。
「ところで、あなたは一体?」
ステイビルが、ナマズに向かって話しかけた。
『お前が一番まともそうだな……、話ができそうな人物がいて良かった……もしかして、お前が王子か?』
「はい、私が”ステイビル・エンテリア・ブランビート”です」
『おぉ、お前たちはローリエンたちの子供か!』
「……母上をご存じで?」
『もちろんじゃ。お主の母上はおしとやか……ではなかったがのぉ。でも、こ奴らよりはマシだった気がするわい!』
その言葉に、エレーナは不快感を示し地面をけってナマズに砂をかけた。
ナマズは、仕返しに水面を尾びれで波立てエレーナに向かって水を掛けた。
だが、範囲が広すぎて他の者たちにも水がかかり、濡れてしまった。
「もう一度お尋ねします。あなたは一体何者なのでしょうか?もしかして王選に関する役目が……」
ステイビルの言葉にナマズは正気を取り戻し、振り向いてその質問に答える。
『その通りじゃ、ワシはモイス様からこの池を守ることと王選の場合にはその資格があるものと判断した場合にモイス様の場所を伝える役目を授かっとる』
「そうなの?じゃ、教えてよ。大竜神様どこにいらっしゃるの?」
エレーナは、せかしながらモイスに仕えるというナマズに問い質した。
『ヤレヤレ……もういいわい。モイス様はな、あそこに見える”グラキース山”の中にいらっしゃる。ここの水も、あの山の雪解け水が地下を通りここまで流れ込んでいるのじゃよ』
ナマズが示した山は、ここからディバイド山脈よりもはるか先の山で、様々な山の間にかすかにその白い山頂付近が見えている。
その頂上は雲の中にあり、標高はかなり高いものであった。
「情報、ありがとうございます。それでその他の神々については、何か知っていることはないですか?」
『王子よ。いくらワシが親切だからと言って、何でも教えてもらえると思うなよ。そこはお前たちの使命であろうよ、もし知っていたとしても答えられんよ』
「わかりました。ありがとうございます、モイス様にお仕えする者よ」
『それでは、ワシは戻ってまた休むとするよ。……精霊の小娘よ、なかなか強かったぞ。これからも励めよ』
「うん、がんばるよ。ありがとう、またね!」
フウカの言葉に、ナマズは細い目でにっこりと笑いまた池の水底までゆっくりと戻っていった。
そして、静かな時間が戻りハルナはフウカに何があったのか聞いた。
フウカとヴィーネは、水の中で起きたことを順に話す。
相手の攻撃、こちらの攻撃、ヴィーネの中に入り込んだ精神的攻撃、その中にフウカが乗り込んだこと。
「……というわけなの」
「へー、よく頑張ったわね。フーちゃん!」
「でもさっきの魚、資格があるって言ってたわよね。フウカちゃんとヴィーネのこと試してたんだね」
「そうみたいだな。やはり、精霊自身もある程度の”実力”を持っていないとダメだということなのだろうな……」
「「ふーん……」」
そう言われ、フウカとヴィーネはいまいちピンと来ていない様子だった。
二人の精霊は、疲れた顔をして戻っていった。
「とりあえずこれで、次の目的地が決まったということですね」
アルベルトが、ほっとした表情で告げる。
「また忙しくなるな。明日から早速、情報集めと準備に取り掛かろう」
「「はい!」」
一同は、ヴェーランの屋敷まで戻っていった。
「どうやら、あの娘たち”グラキース山”に向かうみたいね」
「あそこに何かあるのかなぁ?」
「さぁ、どうかしら。この前の水の汚染も何故だか、綺麗になっているみたいだしあれ以来、何をしても無駄なのよね」
「ほんと、面白くないわね。なんか邪魔されてばっかり……」
「焦らないのよ、ヴェスティーユ。この前のモイスティアの時も、それで失敗してるんだから」
そのことを言われると、ヴェスティーユは口ごもってしまう。
自分自身も、そのことは今までの経歴の汚点として反省していたようだった。
落ち着いたヴェスティーユの様子に満足し、頭をなでながらこれから向かうことになるであろうグラキース山の山頂を見つめる。
「とにかく……あの女。一度泣かしてやらないと気が済まないわ」
ヴァスティーユはそうつぶやき、舌で下唇を濡らした。
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