上 下
211 / 1,278
第三章  【王国史】

3-42 次の目的地

しおりを挟む







「うぇっ!何なの、この生き物!?」



「ナマズじゃない?これ?」




透明な水面の中に、一匹の大きな魚がこちらに向かってくるのが見える。


その後ろには、フウカとヴィーネの姿もあった。




「ハル姉ちゃん、勝った。勝ったよ!!」






フウカは、無意識にナマズの神経を逆なでしている。





「「――??」」







エレーナとハルナは何のことかわからなかったが、途中で大きな輪がゴボッゴボッっと浮いているのが遠くに見え何かが起きているのは感じていた。


近くまで、寄ってきたナマズはここにいる一同の顔を見渡した。





『お前さんたちが、この精霊の契約者じゃな?』


「わ!ナマズがしゃべった!?」


「う、気持ち悪い……」







そう話しかけられた、ハルナとエレーナが反応を示した。






『お前たち、精霊も契約者もそろって失礼な奴らだのぉ……』







そういいつつ、ナマズは池の際に寄ってきた。





「ところで、あなたは一体?」






ステイビルが、ナマズに向かって話しかけた。






『お前が一番まともそうだな……、話ができそうな人物がいて良かった……もしかして、お前が王子か?』


「はい、私が”ステイビル・エンテリア・ブランビート”です」


『おぉ、お前たちはローリエンたちの子供か!』


「……母上をご存じで?」


『もちろんじゃ。お主の母上はおしとやか……ではなかったがのぉ。でも、こ奴らよりはマシだった気がするわい!』







その言葉に、エレーナは不快感を示し地面をけってナマズに砂をかけた。

ナマズは、仕返しに水面を尾びれで波立てエレーナに向かって水を掛けた。
だが、範囲が広すぎて他の者たちにも水がかかり、濡れてしまった。






「もう一度お尋ねします。あなたは一体何者なのでしょうか?もしかして王選に関する役目が……」






ステイビルの言葉にナマズは正気を取り戻し、振り向いてその質問に答える。






『その通りじゃ、ワシはモイス様からこの池を守ることと王選の場合にはその資格があるものと判断した場合にモイス様の場所を伝える役目を授かっとる』


「そうなの?じゃ、教えてよ。大竜神様どこにいらっしゃるの?」





エレーナは、せかしながらモイスに仕えるというナマズに問い質した。





『ヤレヤレ……もういいわい。モイス様はな、あそこに見える”グラキース山”の中にいらっしゃる。ここの水も、あの山の雪解け水が地下を通りここまで流れ込んでいるのじゃよ』






ナマズが示した山は、ここからディバイド山脈よりもはるか先の山で、様々な山の間にかすかにその白い山頂付近が見えている。
その頂上は雲の中にあり、標高はかなり高いものであった。





「情報、ありがとうございます。それでその他の神々については、何か知っていることはないですか?」


『王子よ。いくらワシが親切だからと言って、何でも教えてもらえると思うなよ。そこはお前たちの使命であろうよ、もし知っていたとしても答えられんよ』


「わかりました。ありがとうございます、モイス様にお仕えする者よ」


『それでは、ワシは戻ってまた休むとするよ。……精霊の小娘よ、なかなか強かったぞ。これからも励めよ』


「うん、がんばるよ。ありがとう、またね!」






フウカの言葉に、ナマズは細い目でにっこりと笑いまた池の水底までゆっくりと戻っていった。









そして、静かな時間が戻りハルナはフウカに何があったのか聞いた。


フウカとヴィーネは、水の中で起きたことを順に話す。
相手の攻撃、こちらの攻撃、ヴィーネの中に入り込んだ精神的攻撃、その中にフウカが乗り込んだこと。






「……というわけなの」


「へー、よく頑張ったわね。フーちゃん!」


「でもさっきの魚、資格があるって言ってたわよね。フウカちゃんとヴィーネのこと試してたんだね」


「そうみたいだな。やはり、精霊自身もある程度の”実力”を持っていないとダメだということなのだろうな……」



「「ふーん……」」






そう言われ、フウカとヴィーネはいまいちピンと来ていない様子だった。



二人の精霊は、疲れた顔をして戻っていった。






「とりあえずこれで、次の目的地が決まったということですね」




アルベルトが、ほっとした表情で告げる。



「また忙しくなるな。明日から早速、情報集めと準備に取り掛かろう」



「「はい!」」




一同は、ヴェーランの屋敷まで戻っていった。

















「どうやら、あの娘たち”グラキース山”に向かうみたいね」


「あそこに何かあるのかなぁ?」


「さぁ、どうかしら。この前の水の汚染も何故だか、綺麗になっているみたいだしあれ以来、何をしても無駄なのよね」


「ほんと、面白くないわね。なんか邪魔されてばっかり……」


「焦らないのよ、ヴェスティーユ。この前のモイスティアの時も、それで失敗してるんだから」



そのことを言われると、ヴェスティーユは口ごもってしまう。
自分自身も、そのことは今までの経歴の汚点として反省していたようだった。



落ち着いたヴェスティーユの様子に満足し、頭をなでながらこれから向かうことになるであろうグラキース山の山頂を見つめる。




「とにかく……あの女。一度泣かしてやらないと気が済まないわ」



ヴァスティーユはそうつぶやき、舌で下唇を濡らした。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...