上 下
141 / 1,278
第二章  【西の王国】

2-110 正体

しおりを挟む





「……あなたは一体、何者なの?」



ステイビルは、ここで嘘をついてせっかくの面会できるチャンスを逃してしまうことは避けたいという思いと、フェルノールという人物が答えられるものについては正直に答えてくれたことに対して、こちらも正直に応えなければならないと応じた。




「私は東の国の王子で、名はステイビルという」




その情報を聞き、フェルノールの目が一瞬見開き言葉が漏れる。





「どうりで……ね」


「それでどうなんだ?カステオのところには連れて行ってもらえるのか?」




フェルノールはしばし考え込んで、結論を出した。




「いいわ。連れてってあげましょう。ただし……」


「ただし?」


「ステイビル王子、あなただけという条件ならいいわ」


「な、なりませんステイビル様!そんなの罠です、罠に決まっています!」




興奮するエルメトを横に、ステイビルはその提案について考えを巡らす。

わざわざ一人だけを指定するということは、何か思惑があってのことだろう。
幸い警備兵の装備として剣は一つ所持している。二人同時の相手となると辛いが、フェルノールは剣術を扱うようには見えなかった。

それに、この人数でも一人で堂々とこの部屋にいるということは、それなりの実力を持っている人物だろう。
故に、いまこうして攻撃しないということは、敵対したいわけでもなさそうだという判断に至った。




「わかった、私一人で行こう」


「「ステイビル様!!」」




シュクルスとエルメトは、ステイビルの決断に驚く。
だが、そんな条件を恐れて断るステイビルの姿など見たくなかったという思いもあるが、個人的なステイビルの理想像を押し付けて危険な目に会わせるほど愚かな二人ではなかった。




「流石は、東の国の次期王様ね。その決断力は見事だわ」

「……褒め言葉として受け取っておこう」



その言葉を聞き、フェルノールは背中で抑えてきた扉から少し距離を置き、振り返ってドアノブに手を掛けた。




「それでは時間も勿体ないので、さっそく参りましょうか。ご案内いたします……」


フェルノールはドアを開け、ステイビルに部屋を出るように促した。
ステイビルが部屋を出たあと、続けてフェルノールも部屋を出てドアは閉められた。

エルメトはステイビルの背中を心配そうに眺めていたが、その人物が振り返ることはなかった。









王宮内を進んで行き、フェルノールはある扉の前で立ち止まる。
その扉は、ニーナの部屋よりも立派な装飾が施されていた。

フェルノールはその扉を開き中に入り、ステイビルにも中へ入るように指示した。
ニーナの部屋は入るとすぐに、自身の部屋の様子がうかがえたが、この部屋はどうやら来賓者を迎える応接室のようになっていた。


「では、そちらでお掛けになってお待ちください」


ステイビルは来賓者用のソファーに腰を掛け、部屋の中を見回した。
武器などが飾られているが、部屋の雰囲気を損ねない丁度良い感じで飾られていた。



フェルノールは一度お辞儀をして、部屋の奥の扉に向かっていった。

カステオを待つ間、従者がステイビルにお茶を差し出した。
そのお茶を一口含んで、口の中に残った香りを鼻の奥で楽しみ、その余韻が切れる頃に奥の扉が開いた。



「お待たせした、あなたが私に会いたいという奇特な方か?」


そう言われ、ステイビルはソファーから立ち上がりその男の言葉に返した。



「突然お邪魔して申し訳ない、ご無礼をお許しいただきたい」




そして、男はステイビルにもう一度腰かけるように促し、自身も前のソファーに腰かけた。




「いえ、構いませんよ。ただ、わが国は王選の最中でして、少しピリピリとした空気が流れております。そんな中でお寛ぎ頂けるかわかりませんが、ゆっくりしていってください。東の国の王子よ」


「お心遣い、感謝致します。カステオ殿」


「ところで、今回のご訪問はどのような内容でしたか?」




先程フェルノールが部屋に入って取り次いだ際に内容を聞いているはずだが、カステオは改めてステイビルの口から聞き出そうとしていた。





「この度いろいろとあり、私の国の者たちがこの国の王選に協力し欲しいと要請があった。もう一人の候補者の側からだ」




フェルノールもいつの間にか、カステオの傍に立ち話しを聞いている。
カステオも何も言わずステイビルの顔を見つめ、話しの続きを待っている。





「その間に様々な問題ごとが発生し、誰が何の目的で襲ってくるのか判らなかった。しかし、今回はもう一人の候補者もターゲットになり最初に考えていたことよりも思惑が外れてしまっている」


「それで疑わしい私に、直接聞きに来られたと?」




ステイビルは一つ頷いたが、話しを続ける。




「それ以外に、相手の候補者のこともよく分からないまま敵対するのはどうかと思ってな。こうして話しをしてみたいと思ったのだ」





ステイビルは相手に揺さぶりをかけるために、相手の立場より上の立場からの言葉遣いで話す。
しかし、カステオもフェルノールも、ステイビルの挑発には乗ってこなかった。






「……それで、如何でした?私のことはお気に召されましたか?」




カステオも嫌味たっぷりに、下手に出て対応する。




「うむ、正直なところまだわかっていない。だが、一つだけ分かったことがある」


「ほぉ、それは一体?」





興味深い表情で、カステオはステイビルに返した。





「カステオ殿……お主は一体なぜ、魔物と手を組んでいるのだ?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...