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第三章 【王国史】
3-2 王宮精霊使いへの道
しおりを挟む翌日、再びハルナたちは訓練を行っていた。
クリエはもう、諦めかけた表情をする。
その様子を見たシエラが、喝を入れる。
「あら、もう音を上げるの?はんっ、こんな実力じゃあ、全ての加護を受けるなんて絶対に無理ね。あなたの腕では全滅よ、もちろん王子もただじゃすまないわね……なにが『鉄壁の少女』よ、大したことないじゃない」
その言葉を聞いて、クリエの周りの元素が暴走し始める。
「ちょっと、その呼び名で呼ばないでって!!!」
空中には無数の岩石が浮かび上がり、シエラに標的を合わせている。
シエラも身の危険を感じ、防御の準備をする。
回転を始めた岩石が、シエラめがけて降り注いだ。
シエラは無数に降りぐ岩石の回転と反対方向の回転を加えた小さな竜巻を起こし、ものすごい速さで岩石を弾いていく。
弾き飛ばされた岩石は、元々クリエと訓練をしていた精霊使いにも跳ね返っていくが、速度と威力が落ちた岩石ならば楽々と防いでいた。
「はぁ……はぁ……」
クリエは逆上して一気に力を集中させたせいか、その場に両手を付いて倒れこんだ。
クリエの精霊”エルデア”も、心配そうに、クリエの周りをまわっている。
「こんなに力を持っているなら、初めから出しなさい。ここでは手加減なんてしている暇はないわよ。それに、防御はいいかもしれないけど攻撃方法は今の力任せだけじゃダメよ。効率的に、攻撃手段を選びなさい」
そういって、シエラはクリエを少し休憩させてから訓練を再開するように告げて部屋を出ていった。
そして、シエラはルーシーの部屋に入った。
驚くことに、ルーシーのスコアは昨日よりも格段に上がっていた。
いくら練習相手の精霊使いがまだ入団したてとはいえ、王宮精霊使いとしての実力を持つ人材である。
そのような人物が、たった一日しか持たなかったとは予想外だった。
シエラは満足して、エレーナの部屋に向かった。
「もう一回……もう一回お願いします!」
「ま、またぁ。ちょっと休憩しな……」
「あと、少しなんです。ようやく見えてきたのでその感じを忘れたくないんです、お願いします!」
相手は、嫌々ながら後ろの柱をまた準備を始める。
「ここは、中々よさそうね。さすがはアーテリア様の娘だわ……さてと」
エレーナ隣の部屋で行っているハルナの様子を伺う。
どうやら、ハルナは既にコツをつかんだようで他のものと同じ術者では相手にならないため、もうひとつ上の術者に変えている。
ハルナには何も告げないままに……
だが、相手はハルナの相手にはならなかった。
ハルナが生み出す円盤は、何故か自動的に追尾するような動きを見せていた。
それは一つ一つの風の元素が、自分の意思を持っているかのようだった。
始めの頃は、面白半分にフウカがその元素を操作して、二人がかりで挑んでいた。
今ではハルナが意識をするだけで、勝手に動いている。
それは暴走しているわけではなく、ハルナが意識をすればハルナがコントロール可能でもあった。
シエラはその様子を見て、明日にはハルナの難易度を上げようと決めた。
そして一週間が過ぎた頃、それぞれの技術は当初とは比べ物にならないくらい上達していた。
同属性/異属性の対応、ペアでの戦い方、攻守入れ替わり、合わせ技のようなものも行った。
選ばれた四人は王宮精霊使いの中でも、上級に届くような実力を見せていた。
ハルナたちは、またシエラの部屋に呼ばれていた。
部屋の中には、訓練を付き合ってくれた精霊使いがハルナたちを囲むように部屋の周りに立っていた。
「な……なんですか?私たち、何かしました?」
クリエがその異様な光景に驚き、自分たちはこれからまた無理なことをさせられたり怒られたりするのではないかと怯えていた。
――カチャ
目の前の扉が開き、シエラが入室してきた。
その後ろには、ハイレインも姿を見せた。
部屋の中の精霊使い達は、一斉に敬礼する。
ハルナたちも訓練期間中ずっと、訓練前に同じ所作をするように練習させられていたので自然と身体が動く。
シエラが自席に座り、ハイレインもその隣に用意された椅子に腰掛けた。
部屋の主が片手を挙げると同時に、全員の敬礼が一斉に解ける。
「エレーナ・フリーマス、ハルナ・コノハナ、ルーシー・セイラム、クリエ・ポートフ、オリーブ・フレグラント、カルディ・ロースト、ソルベティ・マイトレーヤ……」
「「はい!」」
名前を呼ばれ、ハルナたちは席を立つ。
シエラは、並んだ精霊使い達の成長した姿を見渡した。
「お前たちは、よく頑張った。これより”王宮精霊使い”の一員であることを認める。……異議を唱える者はいるか?」
その発言から数秒間、部屋の中に無音の時間が流れる。
「では、これによりこの者たちは我々の仲間になった。ともに協力し合い、助け合っていこうではないか!」
部屋の中から一斉に、祝福の拍手がわき起こる。
クリエは最初の辛かったことを思い出し、泣きそうに……我慢できずに頬から涙が零れ落ちた。
そんな姿を見て、ハイレインは自分の采配に満足する。
だが、それよりも無理を言ってこの場に送り込んだにもかかわらず、見事に成長しこの王宮内で自分たちの信頼を勝ち得ることができた目の前の者たちにハイレインは自然と祝福の拍手を送っていた。
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