上 下
146 / 1,278
第二章  【西の王国】

2-115 ボーキンの息子2

しおりを挟む






月日は過ぎて、赤子は順調に育っていく。ボーキンは、セイムが自慢の息子となった。
勉強もよくできボーキンから教わった剣術や体術も、若くしてその辺りの警備兵には敵わないくらいの腕前となっていた。



ある日、セイムは王宮警備兵になりたいとボーキンに告げる。
そのことにボーキンは猛反対した。
ボーキンは、危険で競争の激しい警備兵にはなって欲しくなかった。
学者や商人になって、自分とは別の道を歩いて欲しかった。




同じ時期にマギーの家に、ちょうど女性が住み込みで働いていることを聞いた。
その者と一緒になって、兄がやっていた宿屋を継いではどうかと持ち掛けた。
セイムはもじもじしていたが、案外悪い反応を見せなかった。

ボーキンはマギーと話しを進めていたが、相手の女性が記憶がないことと自分の身体が弱いことを理由に断ってきたとのことで、セイムと会うこともなく話はなくなってしまった。



セイムは女性にもてないことを密かに悩んでいた。
容姿はそんなに悪いわけではないが、硬すぎる性格のためか親しい間柄になる女性には巡り合えたことがなかった。
今回の件で、余計に自分には警備兵の道しかないと思い込むようになってしまった。
ボーキンも自分から進めてしまった手前、その傷を癒すことはできなかった。




見事にその年の入隊試験に主席で合格し、翌年には警備兵として働くことになった。
そして、さらに一年が過ぎて――




「お父様、聞いてください!今度、王宮警備兵の試験を受けることになりました!」




久々に家に帰り、嬉しそうに話すセイム。

警備兵になり業務の忙しさから、家を出て寮での生活を送っていた。
しかし、月に一、二回ある非番の日には必ずと言っていいほど、家に帰って両親に顔を見せに来ていた。




セイムが警備兵になって2年が経過し、業績や昇格試験にも合格し王宮警備兵へを受験する資格を手にしたのだった。
ボーキン自身も通例に比べて最短で王宮警備兵への昇格試験を受けたものだが、セイムはそれをさらに上回っていた。
しかも、ゴーフの下にセイムを預けているため、その報告は逐一ボーキンの耳にも入っていた。


なので、その優秀さは誰よりも理解はしているが、素直に喜ぶことができなかった。
ボーキンとスィレンは、いまもセイムには穏やかな生活を送って欲しいと願っている。




セイムもボーキンたちの思いが判らなくもなく、なるべく心配を掛けない様にしているつもりではある。
それはボーキンたちにも、セイムの言動から伝わってきていた。



だが今夜は小言を止め、ただただセイムの優秀さを祝うことにした。







「……そしてセイムは、王宮警備兵に昇格したが、王子の無謀な依頼によって命を落とし……いや、殺されたのだ!」






ボーキンは息子のことを語り、王子に殺されたのだといった。





「では、その恨みが今回の犯行につながったと?」


「そうだ、一年前にこの真実を知ってな。そこから王選のこの時期を狙って計画を立ててきた。お前たちが来たことで、少し計画がずれたところもあったが、これで王家に対してセイムの敵を討つことができるのだ!」



ボーキンの短刀を握る手に力が入るのが、剣を当てられた首から伝わってくる。
ニーナはそれに怯えることもなく、ただ自分の運命を受け入れるように目をつぶりその時を待つ。





――バターン!!




勢いよくドアが開き、時が一瞬止まった。





「待て、ボーキン!」


「カステオ……王子!?」


カステオが遅れて到着し、フェルノールと一緒に部屋に入ってきた。




「お前がそんなに私や王家のことを嫌っているとは思わなかった。いや、当然だな……今まですまなかった、特にセイムのことは……申し訳ないことをした」



「な……何をいまさら!?”お前”がセイムを殺したのだ……お前が命令をしなければ」




ボーキンはカステオに向かって叫ぶ、今までの恨みを今ここで晴らすために。




「そうだな……私がもう少ししっかりしていれば」


「ボーキンさん……あなた黒い悪魔と契約しているわね?」


「「えぇ?」」





ハルナとエレーナハ同時の驚く。
二人が同時に思い出したのは、アイリスの変わり果てた姿だった。
あの時は無理やカルローナに言われヴェスティーユに無理やり契約させられたのだった。


それと、ハルナはもう一つフェルノールをみて驚いたことがある。



(冬美さん!?)



最初にフェルノールの姿を見た際に、冬美と見間違えるくらい雰囲気が似ていたのだった。

だが、今はそんなことを気にしている時間はない。
ニーナのために、ボーキンの説得が必要だった。




ボーキンは、フェルノールの言葉に反応し袖をまくる。
その腕には、見覚えのある黒い痣が浮かび上がっていた。




「ボーキンさん、早く治療をしないと!?」



ハルナがボーキンに声を掛け、フウカを呼び出した。



「やめろ!……もういいんだ、私は罪を犯してしまったのだ。あの従者の首をはね、黒い魔物を植え込んだのは私だ」





「やはり……」


ステイビルは、そう口にした。
全ての推理の答え合わせは、上手くいっているようだった。




「ならば、私も本当のことを話そう。その後で、お前がどうするか決めるといい……ボーキン」




カステオはステイビルの視線に気付いたが、構わずに話を続けた。



「セイムが王宮警備兵となり、私の警備を担当することになったのは知っているな?これから話すことは、誓って真実だ。その時のことから、順に話していこう……」









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...