上 下
117 / 1,278
第二章  【西の王国】

2-86 ハイレインからの返答

しおりを挟む








翌朝――


今回は全員で、朝食の支度をする。

昨晩は何もできずにムズムズしていたニーナも、今朝は自分から率先して手伝いを行っている。
が、普段から行っていないためすぐに横で見ていたアーリスにその作業を取られてしまっていた。

結局、皿を並べたりするだけになった。


テーブルには質素だが、色鮮やかな食事が並べられている。
今朝もアーリスが用意したものばかりだった。



食事の用意が終わり、テーブルに全員が揃ったことを確認し、ドイルの号令で食事が開始された。




口にした者たちから”旨い”、”初めて食べた!”等々、料理に対し賞賛の声が聞こえてくる。
今回の警備隊は、先発隊の後食料の運搬や伝達などの兵士が数日ごとに入れ替わったり新しく配置されてきていた。

その者たちは今まで通り仕事だけをこなしに来ていたので、この食事の質の高さに驚いた。



アーリアスは西の警備隊の中で食事当番も行っていたが、味に関しては何の評価や感想すら貰えなかった。

だが、東の国の人々は喜んでくれている。
自分の食事を美味しいと褒めてくれる。
そのことがアーリスにとっては、嬉しくてたまらなかった。

なのでこの数日、アーリスは進んで調理を受け持っている。


そのことに対してドイルを初め、東の警備隊は申し訳なさそうにしているがアーリスに頼り切っていた。
貴重な食材も美味しくなるならそれに越したことはない、と。



エルメトは喜ぶアーリスの姿を見て、不思議とホッとした気持ちになった。






「ド……ドイル様ぁ、只今戻りました!」



使いに出ていた、連絡係の警備兵が息を切らして戻ってきた。



「おぉ、戻ってきたか!どうだ?食事は済んだのか?きょうの食事もとっても旨いぞ!」



上機嫌に答えるドイルの表情とは反対に連絡係の表情は固まっていた。



「――?」


ドイルはすぐに、その表所を読み取りハイレインからの返事を要求した。

恐る恐る連絡係は、腰に付けていたカバンの中から一通の書簡を取り出しドイルに手渡した。


ドイルは書簡に巻かれた紐を解き、封を開けて中身を取り出した。



――



ドイルは読み終えた書簡を再び折り畳み、エレーナに渡した。



「エレーナ様、これを」


「ふぁい?」



エレーナは一口サイズのサンドイッチを口の中に頬張ったまま、ナプキンで手を拭いて書簡を受け取る。


片手の飲み物で口の中のものを胃に流し込みながら、書簡の文字を追った。





――んぐっ!? ゴホッゴホッ!!




エレーナはその内容に驚き、食べ物が気管に入りむせた。


「ちょっとぉ!?エレーナ、大丈夫?」



ハルナはエレーナの背中を軽く叩き、楽になるように介助をする。

エレーナは、この世界の文字があまり読めないハルナに変わり、目の前の席に座るルーシーにその手紙を渡した。



「……え?」


その内容に、ルーシーも思わず声を出してしまった。



「ちょっと、どうしたの?どうなったの??」



ハルナはエレーナの背中をさすりながら、その内容が気になって仕方がなかった。



ルーシーの隣にいたクリエが、その書簡を読みハルナに伝えた。




「ハイレインさん……”西の国の動向には、一切関与しない”って」




その言葉を聞き、背中をさするハルナの手が止まった。
ニーナも、ハルナの顔を心配そうに見つめる。




「そ……そんなぁ」



アーリスも足の力が抜けて、地面に座り込んでしまった。




メイヤはその手紙を預かり、その内容を確認した。

ハイレインからの返答は次の通りだった。


 ・東の国として、西の国内の動向については関与しない
 ・西の国から協力の要請があった場合に考慮する
 ・山の警備に関しては、東側のルートに関しては行うが、魔物との共存については検討が必要







「そんなに簡単なことではなかったようですね」




アリルビートが感情を抑え、いま誰もが思っていることを言葉にした。


「これから……どうすれば」



エルメトはテーブルの上で手を組んみ、悔しそうな表情で悩んでいる。
ボーキンは冷静な表情で、愕然とするニーナのことを思いやっていた。



「とにかく……これからのことを話し合いましょう」



エレーナはそう告げて、一度仕切り直しすることを提案した。




朝食のテーブルを片付けて、全員がテーブルの周りに集まった。
しかし、誰一人この場に見合った言葉が見当たらなかった。


このままでは埒が明かないと、ドイルが重い口を開いた。


「ボーキンさん、西の国の方々はこれからどうするおつもりですか?」




「東の国の助力が得られなくなったことは誠に残念ですが、我々の当初の目的であるニーナ様を王にするという最終目標には変わりありません。また西に戻り、地道に仲間を増やしてまいります」



「あのぉ、ボーキンさん。お伺いしてもよろしいですか?」


「はい、何でしょう?」


「西の国の王選の活動は派閥の支持を増やすことが目的で、相手を傷つけないとお聞きしました。今回、ゴーフさんへの襲撃はルール違反なのではないですか?」




クリエは、ずっと不思議に思っていたことを質問した。
特に今回の場面では言う必要はないと、判断し黙っていたが東の国からの協力ができないとなったいま、伝えておいた方が良いと思い発言をした。


「そのご質問はもっともです。確かにお互いが傷付けてはならない人材は、”王国の運営に関与している者”だけなのです。今回は襲撃した人物は雇われたものだと思います。ですからそういう者が襲ったとしても、裏に王選の関係者が指示したという証拠がなければ、それはただの”事故”なのです」




「それで、今回はその”事故”に仕立てようとした可能性が高い……と?」



アルベルトが、ボーキンの発言を確認する。



「……その通りです」


だがその事実を確認しても、東の国としては何も助けられない。
このままでは、もう一人の王子に決定してしまう可能性も高い。そうなれば、東の国も決して安全ではなくなる可能性も出てくる。

できれば、この重要な分かれ道を何とかして協力していきたい。




「――あ」



ハルナがおもわず声を出した。
悲痛な沈黙の中での一声は、容易に響き渡りハルナに視線が集中する。



「どうしたの、何かいい案が浮かんだ?」



エレーナが、そのまま黙ってしまったハルナに話しかけた。




「ハイレインさんの返答で最初にあった”東の国として”っていう言葉がずっと気になってるんだけど、これ、どういう意味かな?」




「それは、その言葉ぁ……通りじゃ……ないの?」




語尾になるにつれ、自信がなくなっていくエレーナ。




二頭の馬が、人を乗せて近づいてくる。





「どうした。何か、困り事でもあったのか?」

「私にもお力になれることがありますか?ハルナさん、エレーナさん」






ハルナは、その声の方を向いてその名前を呼んだ。




「ス、ステイビル王子とキャスメル王子!どうしてここに!?」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...