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第二章  【西の王国】

2-73 洗礼

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宿を出てからおおよそ一時間程進んだ場所に、老婆に教わった通り馬車のターミナルがあった。
ハルナたちはそこから、馬車に乗って王都まで向かった。


ハルナの元の世界でいう、タクシーだった。
距離が長いため、固定料金で運行していた。


ちなみに東の国では、公共の馬車は全て無料だった。
公共サービス一環なのだろう。
東の外から来る商人も、ある一定の料金を支払えば公共サービスが受けられる手形がもらえた。



こういったところでも、東西の違う文化が見て取れる。






ハルナは馬車に揺られ、冬美が身に着けていた装飾品の入った箱を眺める。

宿を出てからある疑問が、ずっとハルナの頭の中を占めている。





――なぜ、二十年もの時間が空いているのか?





ハルナがこの世界に来てから、まだ一年も経っていない。
しかしあの事件の夜は、二人一緒にあの場所にいた。


よって、事の始まりは全く同時であると考える。
では、なぜこの世界に到着した際の時間さが生じたのか……
そもそも、何故この世界に飛ばされてきた理由も分らない。


こればかりはいくら考えてもハルナの知識では、結論付けや原因を想像することすらできなかった。



ハルナの頭の中はパンク寸前になり、頭を横に振って何も考えない様にした。





その様子を見たクリエが、心配してハルナに声を掛ける。




「ハルナさん……だいじょうぶですか?」



泣きそうな顔で、ハルナを見つめている。

その声で我に返り周りをみると、カルディも心配そうな顔でハルナのことを見ていた。



「そんなに思い詰めると、身体によろしくないですよ?ハルナ様。お知り合いの方が亡くなられてしまっていたのはショックだったでしょうけど……」


カルディも、ハルナのことをずっと心配していた。
ハルナは悩んだ姿を見せて心配をかけてしまったことを、申し訳なく思った。



「すみません……もう大丈夫です。ありがとうございます」



「何かあれば、遠慮なく言ってくださいね」




クリエはそう言って、ハルナを気遣った。
それを聞いて、よっぽど辛い顔をしてたんだと思いハルナは反省した。


ハルナは、その言葉に対してクリエに笑顔で返した。
その返しにクリエは顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに下にうつむいてしまった。







その後は何事もなく、普段の会話をしながら馬車は目的地に向かっていった。
走行する道も次第に整備された道へと変わっていき、振動も少なくなり心地も改善されていくのが座席の下から伝わってくる。

間もなく、西の王都の城壁が窓から見えてきた。
到着まで、もう少しのところまで来ているのがわかる。





馬車は速度を落とし、入り口前のターミナルに馬車を止めた。





ハルナたちはいつまでも扉が開かないため、降りれなかった。
が、そこで急かすように外からドアをノックする音が聞こえる。





「早く降りてくださいよ!終点ですよ!」





どうやら扉は、自分で開けなければならなかったようだ。
これでハルナは西の国のことを、また一つ覚えた。




カルディがドアを開けると、踏み台は用意されていた。
御者は降りる際に利用した礼を言っていたが、明らかに態度は悪かった。


ハルナは、降りる際に一応お詫びを言って降りた。
一番最後に降りた後ろのソフィーネは笑顔で応えが、御者は目をそらしなぜか震えていた。


そのまま踏み台を急いで仕舞って、急いでその場から離れていった。




「さて……っと。入り口は……」


「あ!あっちみたいですね。ハルナさん、いきましょう!」



クリエはいち早くその場所を見つけ、ハルナの手を取って誘導していった。
それは、落ち込んだハルナの気持ちを元気づけようとしているのが、つないだ手から伝わってくる。



クリエは入り口の前に到着する。
そこには警備兵が入口の左右に立っていた。
入り口は混んでおらず、話しかけるのに絶好なタイミングだった。




「こんにちは、ちょっとお尋ねしたいのですが?」



クリエが明るく門番に話しかける。
こういうの時は、第一印象が大切だ。

警戒されないためにも、クリエはなるべく不自然でない様に明るく振舞った。


しかし、その声かけに対して門番は顔も動かさずに目だけでクリエとハルナを見て次の言葉を待っている。




「こちらにボーキンさんという方はいらっしゃいますでしょうか?」



門番は顔色も変えずに、またしても目だけこちらを向けて応える。



「……その、”ボーキン”とやらに何の用事なのだ?」




――?


ハルナたちは疑問に感じた。


老婆から聞いた話では、ボーキンという人物はここの隊長であると。
しかし、この門番の反応はまるで、隊長らしき人物を知らないか、上司に対し敬意を持たない対応をしていた。


今までの経験から、問題が起きそうな嫌な空気の流れを感じる。




「あ、ご存じなければ結構です……」


今度はハルナが、そう告げてクリエの肩に手を置き振り返り距離を置こうとしたその時――



ザッ!




ハルナたちは一瞬にして、警備兵に囲まれてしまった。



(あぁ、やっぱり……)



ハルナは、心の中でため息をつく。
だが、この場面で焦りもしない胆力が身についていたことに、自分自身でも成長を感じていた。


しかし、相手にはその態度が、ハルナたちへの警戒心を高めていた。



囲まれた警備兵をかき分けて、一人の男が包囲の輪の中に入ってくる。




その男の風貌は、ハルナ達を囲う人物の中の誰よりも若く見えるが、堂々としたオーラは剣を交えなくとも実力を物語っている。



歩み寄ってくる男は腰に下げた剣が、ハルナたちに届く位置まで近寄る。
近眼なのか、目を細めてハルナの顔を見つめる。

そして、攻撃をするならば容赦しないと言わんばかりに、剣の柄に手を掛ける。





「お前たちは、何者だ?なぜボーキンという男を探している?」




男は、先ほどの門番が問い掛けた内容を、改めてハルナたちに確認してきた。






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