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第二章  【西の王国】

2-23 罅割れ

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「コルセイル様……申し訳ございません。今回の件では、ステイビル王子によって失敗してしまいました」



男は暗い部屋の中で、恐る恐る依頼主に結果を告げる。


――バキッ



コルセイルは手にしていた羽ペンを、怒りに任せて折ってしまった。




「そう……分かったわ。また次の指示まで待ちなさい」



「はっ」



そういって報告を終えた男は、頭を下げたまま後ろに下がり退室する。



「次の予定は……謁見式ね」




――カコン



折れたペンをゴミ箱に入れる。
部屋のドアの前に立つ人物に向かって告げる。



「リリィの準備はどうなの?」



「はい、もう大丈夫です」



その横にいた従者が答える。



「では、次の手に移りましょうか……エストリオ大臣に連絡を」



「かしこまりました」




従者がお辞儀をして、命令に従うために退室した。
コルセイルは再び机の上の書類に目を向けて、机の中から新しいペンを取り出して今まで行っていた作業に戻っていった。







「……という出来事があったのよ」



エレーナは、部屋に集まった残り二人の候補者に先日起きた出来事を話して聞かせた。




「どこからか漏れていたのかしら……」



ルーシーは、そうつぶやく。



「とにかく、慎重に動いた方が良さそうな気がします」


クリエは、自分の意見を述べた。



「それで、こちらの屋敷を管理されているハイレイン様のご協力は頂けるのでしょうか?」


クリエ後ろに立つ、カルディがエレーナに問う。




「それについては……」



エレーナがハイレインに相談に行こうとすると、なぜか取り次いでもらえない状況が続いている。
それがわざとなのか、ただタイミングが悪いだけなのかもはっきりしていない。

多忙であるのは理解できるが、全てのタイミングで取次ぎが叶わないのは他の理由があるのではないかと疑ってしまうほどだった。



それに付け加えて、”何もするな”というメッセージが入っていたことをディグドのことは伏せたまま伝えた。



それを聞いたルーシーたちは警戒する。
そのことは本当のことなのか?
自分たちは騙されてはいないか……と。




(もしかして、エレーナ達は……)


よからぬ思いがルーシーの頭をよぎる。




「……わかりました。とにかく今は様子を見ることにしましょう。クリエ様もそういうことでよろしいかしら?」



その言葉にクリエはカルディを一度見て、了承を取ってから頷いた。



「それでは、とにかく様子を見てみましょう。それから、何か起きた場合はまたそれぞれ情報を交換し合って対応していきましょう」



残りの三人は、ルーシーの言葉に頷いた。








それぞれの候補者はハルナの部屋を出て、自室の部屋に戻っていった。


「ソルベティ。あなたには悪いけど、あの二人は何かを隠している。私はあの方たちを……」




ルーシーは、背後についてくるソルベティに告げる。
その表情はとても硬い。




「ルーシー様は、ご自身のお心のまま行動されてください。私はルーシー様に従います」




ソルベティもその意思を汲み取り、今は誰に協力しているかの意思をはっきりと示した。





「……アナタの恩人であることは理解しているわ。その腰の剣がその証拠よね。ただ、王選についてはそれだけではダメなの。そのことは良く分かってくれていると思っているけど、そのためにも裏切られるわけにはいかないのよ」


「……承知しております、ルーシー様」


ソルベティがそう返して、二人の会話はそこで終わった。



廊下には、不規則で無機質な二人分の足音が鳴り響いた。












その数日後に、候補者は城に招集されることになった。
その間、ハルナ達は挨拶や普通の会話をすることはあったが、王選に関する話をすることはなかった。


その空気はとてもよそよそしく、嫌な空気が見にまとわりつき不快だった。




候補者が、城に集まる当日となる。

入城には各町の代表を示すため、それぞれ専用の馬車が用意された。

施設のエントランスにはハイレインを始め、従者が並んで四人を見送る。
それぞれは馬車に乗り込み、出発を待つ。
その先頭には、ハイレインが乗り込んだ馬車が先導していく。



ハルナの隣には、メイヤが座っている。



「お城……初めてなんです。大丈夫でしょうか?」


「ハルナ様、心配いりません。ハルナ様は招待された方なのです、ただいつも通りに振舞って頂ければいいのですよ」


「でも……」


「それに、あの”ソフィーネ”も城にいたことがあるのですからそんなに大したところではございませんよ」


「ちょっ……メイヤ様。それは酷いです……まぁ、確かに最初のころは礼儀作法を厳しく”ご指導”頂きましたけどね!」



ハルナの表情は堪えきれず、笑みがこぼれた。


メイヤとソフィーネが、カチカチに緊張しているハルナに気を使ってくれたのだ。
その親切は、不安な気持ちにとても響いた。



そして、先頭の馬車が出発する。
その後にはルーシー、エレーナ、ハルナ、最後にクリエの馬車が続いていく。


実はこの王選のイベントは、王都全体でその開催を祝っていた。
馬車から見た道路の脇には人が並び、各町の紋章が描かれた旗を振っている。

その風景に圧倒されているハルナ。



「沿道の方々に、手を振られてはいかがですか?」


メイヤがハルナに、優しく声を掛ける。



ハルナは小さな窓に片手をあげ、通り過ぎる人々に向かって手を振る。




――ワー!!


歓声があがる。


ハルナは驚いた。
自分が手を振っただけで、喜んでくれているのだ。

この世界に来る前も後にも、経験したことのない出来事だった。


何故だか嬉しくなり、振った手を胸に当ててその余韻に浸った。





「ハルナ様、そろそろお城に入ります」


いつまでも余韻に浸っていられなかった。
これから、王選が始まるのだから。



(いま、エレーナはどんな気持ちなんだろう……)



そんなことも、頭の中に浮かんでくる。
先程の出来事で、少し落ち着けたようだ。



五台の馬車は、降ろされたつり橋を渡り、城の中に並んで入っていった。


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