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幕間
エレーナとアルベルト、ときどきハルナ5
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こちらにも仕事があるため、何か起きた際に手助けする手筈になった。
その際に重要になるのが、連絡手段だった。
これは、ギガスベアの能力を知ることになる。
ギガスベアの聴覚は発達しており、ある特定の周波数の音を遠くからでも聞き分けることが出来た。
彼らは各群れで、それぞれの波形や発音
パターンを決めているため、それによりどの群れが発したのか区別可能とのこと。
それは人の耳では聴くことが出来ないため、対象の人間に遭遇しても気付かれずに仲間に異変を知らせることが可能だ。
長がまとめている群れの中で、成体の個数は二十頭。
この群れの縄張りは、ほぼ今回の調査対象の全領域と重なっている。その中を数頭に分けて、見回りしてもらう。その中には必ず、知能の高い一頭を入れて見回ってもらう様にお願いした。
本能的に襲いかかり、問題を大きくしないために抑制してもらうためだ。
そして、ハルナ達には長に同行してもらった。
問題となる人間を見つけた場合は、近くを警戒しているギガスベアと合流し、背中に乗せてもらって移動することになった。森の中の移動なら、ギガスベアの方が速いためとなるべくなら人が介入していることに気付かれない方が良い。
人同士となると、所属や思惑など厄介なものが絡んで来る可能性が高く、ギガスベアが追い払ったということにした方がまずは良いという判断だ。
その後から、その身元を調べていくことにした。
捜索を開始して、二時間が過ぎる。
その間、別な場所で旅をしている人間を見かけたが、ギガスベアを警戒しているのか、大きな鈴の音を意図的に鳴らしギガスベアに居場所を教えているかのように進んでいるため、捜査対象の人間ではないと判断した。
ハルナ達の仕事も、順調に進行している。
その様子を見る長は、ハルナ達の行っていることに関心を示していた。
地図を作成し、記録として保存する行為は獣としてはない発想だったのだろう。エサ場などは、記憶してあるので必要ないのではあるが、残存するエサの量の把握などには使えそうだと判断した。
群れの長はハルナ達にお願いする。自然の恵みをこの森で生きるもの達にも、残してほしい……と。
確かに、人間にとっても必要なものであればこの森に生きるもの達も必要である可能性がある。
森は人間だけのものではない。
つい忘れてしまいがちになるが、こういうことからも自然について気付かされるのは助かる。
――!
長の身体が硬直する
仲間から連絡があったようだ。
送られる音は危険信号のパターンのため、内容はわからない。
この信号をキャッチした、長の周囲で捜索していた数頭が集まってきた。
『……行きましょう、そちらのものに乗ってください。我が先頭を行きます!』
ハルナ達は集まったギガスベアの背に跨る。
毛はゴワゴワしており、座り心地は良いものではない。
走っている間は揺れるため、毛はしっかり掴んでも問題はないとのこと。
その言葉に甘えて、しっかりと毛を握りしめた。
『(クンクン)……近づいてきましたな。そろそろ到着します』
そういうと、長はスピードを落としてなるべく音をたてないように静かに近付いていく。
そこには三頭のギガスベアの姿が見えた。
『どうした??』
『オサヨ……アヤシイニンゲン、ミツケマシタ』
言葉は話せるが少したどたどしいのは、知能の差であろう。
遠くを見ると、火を点けた松明を持つ人間が二名、その後ろにロングシールドを構える者一名、ロングボウを持つ者、ミドルソードとラウンドシールドを持つ者が一名ずついる。
その先には、ギガスベアの住処の一つである広場がある。
どうやらこの一同はギガスベアを狙っている者たちのようだ。
松明の火は、ギガスベアが火を嫌う本能を利用して追い詰める作戦のようだ。
(どうしようかしら……)
エレーナはギガスベアの背中で、腕を組んで考える。
『我が行って、やつらを蹴散らしましょうか?』
その提案はすぐに却下される。
一頭で行ったならば、簡単に捕獲されてしまうだろう。
ここにいる四頭でも、作戦によっては全滅させられる可能性もある。
特に相手はギガスベアに対する準備は十分に行っていると考えられるからだ。
「ねぇ、エレン。蹴散らすだけなら、予想外のことをしてみるのはどう?」
「「……?」」
アルベルトの説明はこうだ。
まず、長だけが横から姿を見せる。そこで、長には雄叫びを上げてもらい威嚇する。
その時に隠れているエレーナが水を使って松明を消してしまう。これは雄叫びの効果によって起きたと見せかける。
そこからさらに、雄叫びを聞きつけた残りの三頭が、姿を見せ威嚇する。
それで攻撃されてきたら、ハルナがギガスベアをサポートする。
ギガスベアたちは念のため、相手の戦闘力を奪うことに専念し、それでも抵抗するならアルベルトが出て行って間を取り持つという作戦を告げた。
「いいわ、それでいきましょ」
『――うむ、了解した』
一行は辺りを探索している。
どこかにギガスベア(獲物)が隠れていないか……
――グルルルルルゥ
唸り声が聞こえる。
慎重に進んでいた一行に、緊張が走る。
……ガサッ……ガサッ
相手を見定めるようなゆったりした態度で、四つ足歩行でゆっくりと相手にその姿を見せる。
――ガルルルルルゥ
口元から牙を見せつけ、先ほどよりも力の籠った唸り声をあげる。
「お、おい。出てきたぞ。……いいか?作戦通りいくぞ!」
その声を長はフウカの力を借りて聞き取り、答えを返す。
『愚かなる者たちよ……我に殺意を向けるとは。覚悟はできておろうな?』
――!!!
一同は驚く。
野獣が言葉を話した。
「こ……これは殺すよりも生け捕りにして、見世物小屋にでも売った方がいいんじゃねーか!?」
弓を構えた一人が、そう告げる。
『――舐めるな、ニンゲンドモ!!!!』
長は両脚で立ち上り両手を広げて、空に向かって雄叫びを上げる。
その胸元に球状の水が二つ現れる。
雄叫びを終えて、松明に目を向けるとその水の球は飛び出した。
――ジュッ!
一瞬にして、火は消し去られた。
(へー。長も結構役者ね)
エレーナは笑いをこらえる。
火を消された二人は腰に下げてあったダガーを抜き、盾役のロングシールドを構える人物の後ろに下がった。
そして追い打ちをかけるように、長の後方から三頭のギガスベアがさらに姿を見せる。
「ち……畜生!どうするよリーダー!?」
盾役の男が叫ぶ。
(チッ……なんで俺の時だけ、こういう目に遭うんだよ……!?)
徐々に近寄ってくる三体の野獣。
最早彼らにとってそれは、獲物ではなく脅威となっていた。
(――どうする?どうする?どうする? 依頼者に怒られるが……ここで死ぬのだけはゴメンだ)
リーダー役の男が構える矢先は、力なく下がっていく。
そして、腰に下げていた粉が入っている袋を取り出す。
「――お前ら撤退だ!」
そういうと同時に、袋を近寄る三頭に向けて投げつけた。
煙が立ち上がり、ギガスベアの目の前の視界が遮られる。
丁寧に、鼻を利かなくするために香料と香辛料を混ぜていたようだった。
ギャウ、ギャウ!!
三頭は悲痛な声をあげた。
その隙に、人間たちの走って逃げる音は遠ざかっていった。
「――えい」
ハルナは風を起こし、煙を吹き飛ばす。
徐々に視界は開け、その場所には誰もいなくなった。
「三頭の皆さん、こちらへ」
エレーナが三頭の顔に水をかけて粉を洗い流した。
『タスカリマシタ ミズノセイレイツカイサマ……』
少し痛そうだが、次第に嗅覚は戻ることだろう。
それくらいの被害で済んで、よかったと長は思った。
「とにかく、作戦通りに進んでよかったですね。一旦テントに戻りましょう」
アルベルトがそう告げて、一同はテントへと戻っていった。
その際に重要になるのが、連絡手段だった。
これは、ギガスベアの能力を知ることになる。
ギガスベアの聴覚は発達しており、ある特定の周波数の音を遠くからでも聞き分けることが出来た。
彼らは各群れで、それぞれの波形や発音
パターンを決めているため、それによりどの群れが発したのか区別可能とのこと。
それは人の耳では聴くことが出来ないため、対象の人間に遭遇しても気付かれずに仲間に異変を知らせることが可能だ。
長がまとめている群れの中で、成体の個数は二十頭。
この群れの縄張りは、ほぼ今回の調査対象の全領域と重なっている。その中を数頭に分けて、見回りしてもらう。その中には必ず、知能の高い一頭を入れて見回ってもらう様にお願いした。
本能的に襲いかかり、問題を大きくしないために抑制してもらうためだ。
そして、ハルナ達には長に同行してもらった。
問題となる人間を見つけた場合は、近くを警戒しているギガスベアと合流し、背中に乗せてもらって移動することになった。森の中の移動なら、ギガスベアの方が速いためとなるべくなら人が介入していることに気付かれない方が良い。
人同士となると、所属や思惑など厄介なものが絡んで来る可能性が高く、ギガスベアが追い払ったということにした方がまずは良いという判断だ。
その後から、その身元を調べていくことにした。
捜索を開始して、二時間が過ぎる。
その間、別な場所で旅をしている人間を見かけたが、ギガスベアを警戒しているのか、大きな鈴の音を意図的に鳴らしギガスベアに居場所を教えているかのように進んでいるため、捜査対象の人間ではないと判断した。
ハルナ達の仕事も、順調に進行している。
その様子を見る長は、ハルナ達の行っていることに関心を示していた。
地図を作成し、記録として保存する行為は獣としてはない発想だったのだろう。エサ場などは、記憶してあるので必要ないのではあるが、残存するエサの量の把握などには使えそうだと判断した。
群れの長はハルナ達にお願いする。自然の恵みをこの森で生きるもの達にも、残してほしい……と。
確かに、人間にとっても必要なものであればこの森に生きるもの達も必要である可能性がある。
森は人間だけのものではない。
つい忘れてしまいがちになるが、こういうことからも自然について気付かされるのは助かる。
――!
長の身体が硬直する
仲間から連絡があったようだ。
送られる音は危険信号のパターンのため、内容はわからない。
この信号をキャッチした、長の周囲で捜索していた数頭が集まってきた。
『……行きましょう、そちらのものに乗ってください。我が先頭を行きます!』
ハルナ達は集まったギガスベアの背に跨る。
毛はゴワゴワしており、座り心地は良いものではない。
走っている間は揺れるため、毛はしっかり掴んでも問題はないとのこと。
その言葉に甘えて、しっかりと毛を握りしめた。
『(クンクン)……近づいてきましたな。そろそろ到着します』
そういうと、長はスピードを落としてなるべく音をたてないように静かに近付いていく。
そこには三頭のギガスベアの姿が見えた。
『どうした??』
『オサヨ……アヤシイニンゲン、ミツケマシタ』
言葉は話せるが少したどたどしいのは、知能の差であろう。
遠くを見ると、火を点けた松明を持つ人間が二名、その後ろにロングシールドを構える者一名、ロングボウを持つ者、ミドルソードとラウンドシールドを持つ者が一名ずついる。
その先には、ギガスベアの住処の一つである広場がある。
どうやらこの一同はギガスベアを狙っている者たちのようだ。
松明の火は、ギガスベアが火を嫌う本能を利用して追い詰める作戦のようだ。
(どうしようかしら……)
エレーナはギガスベアの背中で、腕を組んで考える。
『我が行って、やつらを蹴散らしましょうか?』
その提案はすぐに却下される。
一頭で行ったならば、簡単に捕獲されてしまうだろう。
ここにいる四頭でも、作戦によっては全滅させられる可能性もある。
特に相手はギガスベアに対する準備は十分に行っていると考えられるからだ。
「ねぇ、エレン。蹴散らすだけなら、予想外のことをしてみるのはどう?」
「「……?」」
アルベルトの説明はこうだ。
まず、長だけが横から姿を見せる。そこで、長には雄叫びを上げてもらい威嚇する。
その時に隠れているエレーナが水を使って松明を消してしまう。これは雄叫びの効果によって起きたと見せかける。
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それで攻撃されてきたら、ハルナがギガスベアをサポートする。
ギガスベアたちは念のため、相手の戦闘力を奪うことに専念し、それでも抵抗するならアルベルトが出て行って間を取り持つという作戦を告げた。
「いいわ、それでいきましょ」
『――うむ、了解した』
一行は辺りを探索している。
どこかにギガスベア(獲物)が隠れていないか……
――グルルルルルゥ
唸り声が聞こえる。
慎重に進んでいた一行に、緊張が走る。
……ガサッ……ガサッ
相手を見定めるようなゆったりした態度で、四つ足歩行でゆっくりと相手にその姿を見せる。
――ガルルルルルゥ
口元から牙を見せつけ、先ほどよりも力の籠った唸り声をあげる。
「お、おい。出てきたぞ。……いいか?作戦通りいくぞ!」
その声を長はフウカの力を借りて聞き取り、答えを返す。
『愚かなる者たちよ……我に殺意を向けるとは。覚悟はできておろうな?』
――!!!
一同は驚く。
野獣が言葉を話した。
「こ……これは殺すよりも生け捕りにして、見世物小屋にでも売った方がいいんじゃねーか!?」
弓を構えた一人が、そう告げる。
『――舐めるな、ニンゲンドモ!!!!』
長は両脚で立ち上り両手を広げて、空に向かって雄叫びを上げる。
その胸元に球状の水が二つ現れる。
雄叫びを終えて、松明に目を向けるとその水の球は飛び出した。
――ジュッ!
一瞬にして、火は消し去られた。
(へー。長も結構役者ね)
エレーナは笑いをこらえる。
火を消された二人は腰に下げてあったダガーを抜き、盾役のロングシールドを構える人物の後ろに下がった。
そして追い打ちをかけるように、長の後方から三頭のギガスベアがさらに姿を見せる。
「ち……畜生!どうするよリーダー!?」
盾役の男が叫ぶ。
(チッ……なんで俺の時だけ、こういう目に遭うんだよ……!?)
徐々に近寄ってくる三体の野獣。
最早彼らにとってそれは、獲物ではなく脅威となっていた。
(――どうする?どうする?どうする? 依頼者に怒られるが……ここで死ぬのだけはゴメンだ)
リーダー役の男が構える矢先は、力なく下がっていく。
そして、腰に下げていた粉が入っている袋を取り出す。
「――お前ら撤退だ!」
そういうと同時に、袋を近寄る三頭に向けて投げつけた。
煙が立ち上がり、ギガスベアの目の前の視界が遮られる。
丁寧に、鼻を利かなくするために香料と香辛料を混ぜていたようだった。
ギャウ、ギャウ!!
三頭は悲痛な声をあげた。
その隙に、人間たちの走って逃げる音は遠ざかっていった。
「――えい」
ハルナは風を起こし、煙を吹き飛ばす。
徐々に視界は開け、その場所には誰もいなくなった。
「三頭の皆さん、こちらへ」
エレーナが三頭の顔に水をかけて粉を洗い流した。
『タスカリマシタ ミズノセイレイツカイサマ……』
少し痛そうだが、次第に嗅覚は戻ることだろう。
それくらいの被害で済んで、よかったと長は思った。
「とにかく、作戦通りに進んでよかったですね。一旦テントに戻りましょう」
アルベルトがそう告げて、一同はテントへと戻っていった。
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