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蛇足
悪役令嬢爆誕
しおりを挟む王家が無理矢理結んだ政略結婚の為の婚約であるのに、ロレンソは婚約者のフランシスカをなおざりにした。
ほとんど交流もせず、文さえ交わしていないようだった。
それならば、なぜ、婚約解消しないのか。
私のロレンソへの態度が冷たくなっても、誰も責められないと思う。
元々仲の良い異母兄弟ではなかったが、険悪と言っても過言では無い関係になっていた。
誰もロレンソが王太子、延いては王になるのに向いているとは思っていなかった。
それでもパディジャ公爵家の後ろ盾と、優秀な婚約者が居るお陰で、その立場を守っていたのだ。
私の方が相応しいと思っている貴族家も少なくない。いっその事パディジャ公爵を国王に、との声まであった。
このままでは、国が二分……いや、転覆するかもしれないと、私と王妃である母が懸念を抱いていた時に、全てを覆す事件が起きた。
「パディジャ公爵が面会にいらっしゃいました。婚約の件で話が有ると」
王太子の職務の一環で丁度王の執務室にいた私は、慌てた様子で部屋に飛び込んで来た使用人を見つめた。
ロレンソが学校を卒業するまでという条件で、私が王太子のするべき職務を引き受けていた。
理由は、学業と王太子の勉強の両立は難しいだろうとの事だった。
しかし、私が王の命令で王太子の職務を始めたのは、まだ学生の頃だったのだが……おそらく王も側妃も忘れているのだろう。
そしてそのまま補佐という名目で、全てを私に押し付けるつもりだったのだろうな。
パディジャ公爵は、完璧な婚約破棄の書類を用意していたようで、驚くほど迅速に手続きが終了した。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまでだとはさすがに思っていなかった。
ありがとう、ロレンソ。
私は生まれて始めて、異母弟に感謝した。
それから間も無く、いや、それなりに適切な期間を空けてはいたが、私とフランシスカの婚約が成立した。
天にも昇る気持ちだった。
婚約前に新年会で踊った時は、地に足がついていないのではないかと思うくらい、体が軽かった。
フランシスカも重さを感じないくらいに軽やかに踊り、「羽根のように軽い」と自然と口から言葉が出た。
これ程素晴らしく踊れるのに、フランシスカは親族としか踊っていなかった。ロレンソがダンスを拒否したからだ。
当時は怒りを覚えていたが、今は本当に感謝している。
「あの羽虫ったら、毒まで持ってましたのよ。第二王子殿下はどうでも良かったのですけれど、貴方にまで触手を伸ばすつもりでしたの」
婚約者候補としての交流会。
王城でのお茶会で、フランシスカがケーキを食べながら『悪役令嬢』の話をしてくれていた。
その男爵令嬢は、今頃貴族令嬢としては最悪の境遇に置かれている事だろう。
その先には、殺されるよりも酷い未来が待っている。
傷物にされ、王宮前の衆人環視の場に放置され、平民に戻され、平民に落とされたロレンソとの結婚が待っている。
ロレンソは毒虫の毒に侵され、堕ちたのか。
そう考えると、毒虫とは本当によく例えたものだ。
「私に狼藉を働いた方には、二度と暴力を振るえないようになっていただきました」
次のお茶会の時、フランシスカは『悪役令嬢』の続きを話してくれた。
騎士を目指していた男が二度と剣を握れなくなったのならば、かなり堪えた事だろう。
罪人落ちが確定している伯爵子息か。元騎士団長の息子でもあったな。
手続きに時間が掛かっているのは、学校で針の筵状態を味わわせる為だろう。
伯爵家を継いだ兄は、学校を休む事を許さないだろうしな。
しかし、剣が握れなくなったのならば、魔物討伐をするという罪の償い方は選べなくなった。
腕に自信のある罪人は、大抵この刑罰を選ぶ。刑期を終えた後、傭兵になったり、そのまま魔物討伐の仕事に就いたり出来る事が多いからだ。
腕を折られ、歪んだままに接いだのならば、殆どの力仕事は出来ないだろう。
しかし魔物討伐に参加する事は、手続きが始まった時点で決まっている。
普通の仕事と違い、怪我をしたから他の場所へ……とはならないだろう。
それならば、何も出来ない男が前線に送り込まれたら?
盾に使われて、すぐに死ねれば幸せだろう。
死と隣り合わせで興奮した男達の相手を出来る女性は少ない。
その為の男も居るらしい。
若くて体力のある、しかし利き腕の使えない罪人。
これほど都合が良い人物が居るだろうか?
フランシスカはここまでの予想はしていないだろう。
剣を握れなくする事で、騎士を目指していた男の矜持を完膚無きまでに粉々にした……程度の認識か。
しかし実際には、予定以上の報復になっている事だろう。
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新作も書いておりますので、続きは明日の夕方になります。
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