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31:天使だよね!

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「ひっひっふ~」
「奥様!しっかり!」
「ひっひっふ~」
「代われるものなら代わりたい!」
「ひっひっふ~」
「男の子なら伯爵家の後継者ですね!」
「ひっひっふ~」
「女の子なら、お嫁に欲しいってこの前公爵夫人が言ってましたよ」
「ひっひっふ~」
「嫁にはやらん!」

「うるさぁ~い!関係無いヤツは出てけ!いててて」
「はい!奥様いきんで!」


 例の護衛は枕元でマリアンヌの手を握り、他は出産後のお湯やらタオルやら、赤子用の肌着を用意していた。
 勿論出産の為の医師も居る。
 本来命懸けの行為のはずなのだが、陣痛が始まってもドンと構えていたマリアンヌのせいで、「奥様なら大丈夫」という空気になっていた。

 マリアンヌにしてみれは、前世で何度も経験した事である。
 自然分娩であれば、医療技術の高さなど関係無いのだ。

「おぎゃあああぁぁぁぁぁ」
 医師が驚く程の安産で、元気な男児が生まれた。
 初めて見る我が子に、マリアンヌよりも父親である護衛がボロボロと泣き出してしまった。
「マリア、ありがとうマリア」
 泣きながら、我が子を抱くマリアンヌの額にくちづけをしてくる。

「シャル、皆に後継者が生まれたと伝えてきて。貴方の両親も来てるでしょう?」
 普段は呼ばない護衛の愛称をわざと使い、マリアンヌは護衛を部屋から追い出す。
「さて、後産頑張りますか」
 マリアンヌは気合を入れ直した。


 別室に居たマリアンヌの両親と兄夫婦、そしてその子供と、護衛の両親と兄夫婦は、男児の誕生を喜んだ。
「シャルルに似ても、マリアンヌに似ても、とても美しい子ね」
 マリアンヌの母親が喜ぶ。

「どんなに良い条件の婿入り話が来ても断っていると思ったら……突然「子供が生まれる」ですもの。吃驚したわ」
 こちらは護衛であるシャルル・トレムレの母親である。

「うちの実家、今年生まれた女の子が居たわね」
 マリアンヌの兄ファビアンの妻がポツリと零す。
「私の実家にも、去年生まれた女の子が居ますわ」
 シャルルの兄嫁まで、話に参戦する。

 普段は顔を半分隠すマスクをしているのだが、護衛二人はケヴィンが足元にも及ばない美丈夫だ。
 マリアンヌもシモーヌなど相手にならない美人である。
 その二人の子供なのである。
 皆の期待が高まるのは当然だった。



「皆様、お待たせいたしました」
 シャルルじゃない方の護衛が呼びに来た。
 余談だが、彼は女性医師と結婚をしている。
「マリアの負担にならないのか?」
 皆の前なのに取り繕うのも忘れ、シャルルは心配をする。
「先生も許可しているし、奥様も了承している」
 同僚の珍しい姿に苦笑しながら、護衛は皆を部屋に案内した。

 生まれた子供は、皆の期待以上にうるわしかった。
「可愛い!僕知ってる!天使だよね!!」
 ファビアンの子供が目をキラキラさせて、男児を見つめている。
 子供の素直な感想で、この言葉である。

「目が開いたら、今以上に可愛いのよね!?」
「瞳は何色かな?マリア似なら翠だし、シャルルなら青だな」
「うちの家系には、まれに金色も出ますのよ」

 生まれたばかりの我が子を見ながら盛り上がる家族を見て、マリアンヌはこっそり溜め息を吐く。
 モニクを手招きで呼び「絶対に目が開くまで居座るわよ」と、客室の用意をさせた。
 護衛任務に戻ったシャルルは、マリアンヌを幸せそうに見守っていた。


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