上 下
28 / 41

28:雇用面談

しおりを挟む



 応接室のソファに足を組んで偉そうに座り、マリアンヌは待っていた。
 メイドが呼びに行ったシモーヌの事を、である。

「来なかったら、シモーヌごとメイドを叩き出しましょう」
 デボラが腕まくりをする真似をする。
 チェンバーメイド服は腕まくりが出来ないように、袖部分が細くなっている為である。
 洗濯や皿洗いが専門のメイドは、また服のデザインが違うので、逆に袖をまくったら留められるようになっていたりする。

「来なかったら後が怖いって解ってるから、絶対に来るでしょうけどね」
 クロエが言うのとほぼ同時に、応接室の扉がノックされた。
 返事をせずに、モニクが扉を開ける。

「だ、大至急来いって……ハァ、言われたんだけど……ハァ」
 息も絶え絶えのシモーヌが、同じく息の荒いメイド三人と立っていた。



「なんかね、貴女の所の子達がね、うちに金を払えとか言うのよ」
 マリアンヌの説明に、シモーヌは自分のメイド三人を睨む。
 ソファに向かい合わせに座っているマリアンヌとシモーヌだが、その態度は全然違った。

 マリアンヌは深く座り、足を組んで背もたれに寄り掛かっている。
 対してシモーヌは浅く座り、背筋を伸ばして行儀良く座っていた。
 お互いのメイドが三人、ソファの後ろに立っているのは同じであるが、マリアンヌ側が猛獣だとすると、シモーヌ側は蛇に睨まれた蛙である。


「おかしいわよね。契約書も交わしてないのよ?」
「申し訳ありません」
 膝の上で手を握りしめ、シモーヌは俯いたまま謝る。
 今まで好き勝手してきたツケが回ってきていた。

 なあなあで払われてきたメイドの給金は、契約書が無いので止められてしまった。
 かといって新しく雇い入れてもらえるはずもなく、完全にシモーヌの私費で雇わなくてはならないのだ。

「でも、私も鬼では無いので、をあげます」
 マリアンヌの台詞にシモーヌが顔を上げると、とても良い笑顔のマリアンヌと目が合った。

「そちらのメイドが三人、そして主人の第二夫人。こちらのメイドも三人、そして主人の私。タイマン勝負よ!先に3勝した方が勝ち」
 拳を上に突き上げるマリアンヌに、後ろの三人は苦笑し、前の四人は困惑した。



「申し訳ありませんでした」
 今、マリアンヌの前には土下座している四人が居た。
 その四人とは勿論、シモーヌとそのチェンバーメイド三人だ。

 タイマン勝負の意味を説明し、武器の使用禁止の「ステゴロのタイマンだから大丈夫!」とマリアンヌが言ったところで、四人が入り口付近まで下がり、いきなり土下座したのだ。
「無理です。そこまでして雇っていただかなくて良いです」
 別邸まで来てわめいていたメイドが、絨毯に額を擦りつけている。

「え?でも、態々こちらの都合も無視して、別邸に押し掛けて来てまで雇って欲しいのでしょう?メイド長も執事も通さず、女主人に直談判するほどの覚悟なのよね?」
 そこまで言われてやっと、シモーヌと三人のメイドは自分達の行動の愚かさに気付いた。


 ゴセック子爵家には、それほど使用人もおらず、メイド長も日々の仕事の指示はするが、実質仕切っていたのは子爵夫人だった。
 お願いや交渉は、直接子爵夫人にするのが当り前だった。
 主人と使用人の距離が近かったのだ。

 ここは、侯爵家のタウンハウスである。
 下位貴族の屋敷に勤めていた時と同じ感覚で良いはずがなかった。
 愚かにもその事に今まで思い至らなかったのは、やはり何の教育も受けずにシモーヌが第二夫人になってしまったからだろう。


「これからは、身の程をわきまえなさい」
 大きく溜め息を吐き出してから、マリアンヌは告げた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船
恋愛
子爵令嬢であるアイーシャは、義母と義父、そして義妹によって子爵家で肩身の狭い毎日を送っていた。 辛い日々も、学園に入学するまで、婚約者のベルトルトと結婚するまで、と自分に言い聞かせていたある日。 義妹であるエリシャの部屋から楽しげに笑う自分の婚約者、ベルトルトの声が聞こえてきた。 【誤字報告を頂きありがとうございます!💦この場を借りてお礼申し上げます】

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

処理中です...