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19:チェンバーメイド

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「そういえば、後継者にまだ会っていなかったわね」
 湯浴みを済ませ、寝る準備を整えてもらっていたマリアンヌは、鏡の中のモニクへと声を掛ける。
 対してモニクは、マリアンヌの髪を丁寧に乾かしながら「そうですね~」と適当な返事を返す。
 これはマリアンヌをぞんざいに扱っているのでは無く、モニクにとって後継者よりマリアンヌの髪の方が大切なだけである。

「そういえば、チラリと聞いただけですが、第二夫人は純潔じゃなかったようですよ」
 ベッド脇でお香を焚いていたメイドが会話に参加する。
「私も聞きました。金髪碧眼は旦那様と同じらしいですが、金髪碧眼なんて貴族に1番多い容姿ですからね」
 ベッドの足元に湯たんぽを入れながら、別のメイドも話す。

 別邸が完成するまでの間、メイド二人は本邸で色々と動き回っていた。
 使用人達の仕事ぶりを見て、クビにする者と残す者を見極める為だ。
 女主人付きのチェンバーメイドは、クビが決定している。

 第二夫人のシモーヌは、実家からメイドを連れて来ていたので、ここで雇われているメイドは要らないからだ。


 マリアンヌは、モニク以外のチェンバーメイドに気を許していなかった。
 ケヴィンの部屋で気を失ったマリアンヌを部屋に運ぶのは、チェンバーメイドの仕事だった。
 裸でケヴィンの部屋のベッドにいるのだ。
 男性には見せられない。

 そのように意識消失した状態のマリアンヌを、ここのチェンバーメイド達は心配もせず、平気でベッドに放置してしていったのだ。

 三人がかりで運ばなければいけないのは、確かに女性には重労働だろう。
 しかも隣室ではなく、離れた場所にある部屋だった。

 温かい季節でなければ、確実に体調を崩していただろう。
 翌朝、モニクが発見して、泣きながら体を清めたのだった。
 それからモニクは、絶対に仕事を休まなかった。



「奥様付きのメイドですよ!?それなりの知識も技量もあります!」
 クビを言い渡されたメイドは、メイド長へと食って掛かった。
「そうですよ!あんな痩せてみっともない姿を、それなりに見えるようにしていたのは私達ですよ?」
「私達位になれば、他からも引く手数多あまたなんですからね!」

「あら、丁度良いじゃない。その引く手数多の所へ、どうぞ行ってくださいな」
 メイド長の執務室へ入って来たのは、後ろにモニクを含むメイド三人を従えたマリアンヌだった。

「貴女達、女主人が居ないからと、この一年半の間はまともに仕事をしていなかったらしいわね」
 興奮して赤かったチェンバーメイドの顔が、白く変化した。
「女主人の部屋の掃除は、第二夫人のメイド達がやっていたわよね?勿論、世話も全部。で、貴方達は何をしていたの?しっかりとチェンバーメイドの給金は受け取っていたのでしょう?」
 三人のチェンバーメイドは、お互いにチラチラと視線を合わせるが、誰も何も言わなかった。

「給金の返金は求めません。ただし、退職金と紹介状は出しません」
「そんな!紹介状が無いとチェンバーメイドで雇ってもらえません!」
 マリアンヌはメイドを見た。
「わかりました。事実をそのまま紹介状に書きましょう」
 その視線の冷たさに、メイドは自分がマリアンヌの逆鱗に触れた事に気付く。

「貴女達、昨日と一昨日は仕事のはずよね?なぜ今まで私と顔を合わせていないのかしら?」
 三人のチェンバーメイドは、どうせ仕事が無いからと勝手に休み、二泊三日の旅行へ行っていた。

「私、ベッドに放置された事、まだ覚えておりますわよ」
 それは、その事実も紹介状に書くという事だった。
「痩せてみっともない女主人でごめんなさいね」
 自信に満ち溢れた美しい姿で、マリアンヌは笑った。


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