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27:最悪な事実

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「あのディーエヌエー鑑定というもので、新たな事実が判った」
 ウェントワース侯爵家を訪れたダニエルが酷く疲れた様子で報告してきた。
 項垂れたようにソファに座り、視線は下を向いたままである。
 ダニエルの横には、最近見慣れた魔術師長が同じような表情で座っている。
 そしてエリザベスの父親であるキャンピアン公爵も、ダニエルに呼ばれて来ていた。

 そしてシャーロットと、その隣には当たり前のようにセザールが座っている。
 『リズ』はシャーロットの膝の上に居た。
 何となく嫌な話の気がしたので、シャーロットの体温を感じていたかったのだ。

「あの凶悪な魔法陣は、発動するのに血が必要だった。そしてその血を鑑定したのだが……」
 ダニエルが言葉を切り、大きく深呼吸した。
 そして視線を皆の方へ向ける。
「兄上……第一王子の血液だった」

 ヒュッと息を吸ったのは誰だったか。

「それは、エリザベスが邪魔だったと?」
 震える声で質問したのは、エリザベスの父であるキャンピアン公爵だ。
 婚約者の居ない第一王子。
 筆頭公爵家の令嬢が婚約者の第二王子。
 仮に隣国の王女が第一王子の婚約者になったとしても、余程の大国でない限りは第二王子の後ろ盾の方が大きいだろう。


 第一王子と第二王子は、母親が違う。
 ちなみに第二王子と第三王子は同じである。
 正妃である第一王子の母親は隣国の王女だったが、国力のそれほど無い国である。
 対する第二、第三王子の母親である側妃は、ウェントワース侯爵家とは別の侯爵家の令嬢だった。

 ただしこの話には続きが有り、側妃の母、つまり第二、第三王子の祖母は、正妃とは別の国の王女だった。
 しかもかなりの大国の。
 血筋も後ろ盾も、第一王子より第二王子の方が上なのである。


「あれだけ王位に興味は無いと伝えていたのに、なぜ信じてくれなかった」
 ダニエルが絞り出すように声を出す。
「王位継承権を手放さなかったからでしょうな」
 ウェントワース侯爵が冷静に告げる。
「それは、祖母の国への配慮で、私自身はいつでも放棄したのに」
 イライザと過ごせるなら、辺境でもどこでも行ったのに……と、言う呟きは、虚しく空気を震わせるだけだった。

 シャーロットの膝の上から降りた『リズ』は、ダニエルの膝に乗った。
 エリザベスの記憶でも、『リズ』になってからでも、第一王子とは異母兄弟だが仲が悪いとは聞いた事が無かった。
 ダニエルはとても優秀だが、王位には全くと言っていい程興味が無かったからだ。

 第一王子もそれを知っていたはずなのに、なぜ。



「第一王子の婚約者候補だった王女を覚えておりますか?」
 魔術師長が突然話題を変えた。
「第一王子の母親の従兄弟の娘だったよね?」
 セザールが答える。
「その者の従者が魔法陣の製作者です」
 ダニエルの体がピクリと反応したのを、膝の上に居る『リズ』だけが気が付いた。

「それって確か、王女の不貞相手で婚約に至らなかった原因の魔術師?」
 セザールの問いに、魔術師長が頷く。
「魔法陣製作者を調べていて、偶然残っていた魔術師の体液が反応したのです。王女と所構わずさかっていてくれたようです。アカネ様から聞いていた通りでした」
 魔術師長の言葉に、焦ったのは『リズ』だ。

「聞いていた?」
「はい。精え……」
 ダニエルの問いに答えようとした魔術師長の顔に、『リズ』の猫パンチが飛んだ。





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