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16:黒猫は考える
しおりを挟む「さて、どうやって学園に潜り込もうか」
姿変えのネックレスを首に掛けた『リズ』は、朝の支度をしているシャーロットをベッドの上から眺めていた。
あの後、エリザベスの父親であるキャンピアン公爵も呼ばれ、今後の対策が練られた。
茜の口調にエリザベスに似た偽物だと疑っていた公爵は、「ここで公表しましょうか?」と茜がニッコリ笑って自分の頭を指差した途端、即座に信用した。
他の家族も知らない、エリザベスだけが知っている何かがあるようだ。
『リズ』は、夜だけ茜に戻る。
公爵家からエリザベス付きの侍女が二名呼ばれ、入浴や着替えなどの世話を行う。
夕方に来て、朝には部屋を整えて帰って行く侍女達。
使用人達は何かが有るのは解っていたが、説明されない事には触れない。
それが正しい使用人の姿だから。
勿論、使用人を統括する家令と執事だけは知っていたが。
「ドリーの動向も気になるのよね」
漫画のヒロインだったドリー。
本来なら、まだシャーロットとジョナタンの婚約は破棄されていない時期だ。
これから虐めが酷くなり、シャーロットが事ある毎に「たかが平民が」と罵倒していたら、実は伯爵家の庶子だと判明するのだ。
その為には、第二王子であるダニエルが健気なドリーに傾倒して、手助けをしなければいけない。
「え?あのイライザ大好きダニーが、性格に難有りなドリーに傾倒するの?」
見た目は可愛いと言えなくもない。
だがエリザベスとは系統が違い過ぎて、ダニエルがドリーに惚れるとは、どう考えても無理が有る。
まだシャーロットに惚れたという方が納得がいく。
「では、行きましょうか、リズ」
シャーロットがベッドの上の『リズ』へと声を掛ける。
「え?どこへ?」
『リズ』がベッドの上でお座りをすると、シャーロットは蓋付きの大きめのバスケットを見せる。
「学園に決まっているではないですか。これ以上は試験に影響が出てしまいますわ」
バスケットの中は、クッションが敷き詰められていた。
「第二王子殿下も、色々お話したいと思うのです。かといって、頻繁にウェントワース侯爵家に通っていたら、要らぬ誤解を生んでしまいます」
シャーロットの言葉に、『リズ』は成程、と頷いた。
婚約破棄されたシャーロットの家に、婚約者が表に出て来なくなった第二王子が通う。
恰好の噂の的だろう。
「あと、今日からティファニーが学園に行きますの」
視線を落とし、暗い声で告げるシャーロット。
あれ以来ティファニーとは顔を合わせていない。
朝食の席にも居なかったが、通学の馬車はさすがに一緒なのだろう。
「私達が授業中には、王族専用のサロンへ居て良いそうです。それとも、こっそりと授業をお聞きになります?」
シャーロットに問われて、『リズ』は悩む。
この先、ずっと黒猫『リズ』でいる訳にはいかないだろう。
エリザベスに戻った時に、何も知らないお馬鹿令嬢では第二王子の正妃にはなれない……事も無いが、立場が悪くなる。
「今日はこっそり授業を見学させてもらっても良いかな?」
一応茜としては、日本人として四年制大学を卒業している。
歴史以外では、問題無いのだと確認したいようだ。
「はい。では、授業見学の方法を考えましょう。さすがにここには入れませんよね」
シャーロットは制服の胸元を覗き込む。
どこまで本気なのだろう?と、『リズ』はシャーロットを天然認定した。
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