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05:そうは問屋が卸さない!

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 翌日、ティファニーは上手い事シャーロットを屋敷から追い出していた。
「私のお友達が何人か来る予定なのですけど、お姉様も参加なさいます?お茶会に」
 ティファニーにそう言われれば、シャーロットは「予定があるから結構よ」と言うのが『リズ』にも予想出来た。

〈こんな事にばかり頭が回るのね!〉
 『リズ』が忌々しげに吐き捨てるが、可愛い「にゃにゃぁ~ん」にしかなっていない。
 そしてそれを聞いているのは、シャーロットが外出するので『リズ』を抱えているウェントワース侯爵だ。
 シャーロットが出掛けると聞き、突如仕事を屋敷内で出来る物に変更したのだ。

〈大人としてはどうかと思うけど、それが許される世界だし、今回は好都合だわ〉
 侯爵の膝の上でくつろぎながらも、耳だけはそばだてている。
 来客を告げるベルが鳴った。
 執事が対応に出ている声が微かに聞こえてきた。

 猫の耳がよく聞こえるのも有るが、侯爵の執務室の扉は『リズ』の為に少し開けてあるからだった。
 「宝石商」「選ぶ」「パーティー用」そんな単語が聞こえてきた。
「待っていたわ!応接室へご案内して!」
 執事と宝石商の会話を遮るように、ティファニーの声が聞こえてきた。
 さも自分が呼んだように言うので、今までもバレなかったのだろう。


〈ジョフロワ公爵家からの依頼で来た、というのは本人にしか言わないのかしら?〉
 宝石商が最初からそう言っていれば、ティファニーの罠になど掛からないのに……そう『リズ』は考えて、首を横に振った。
〈ティファニーの後ろにはドリーが居るんだったわ〉
 ドリーなら、ティファニーに都合が良いように、ジョナタンへ入れ知恵するのは簡単だった。

 今までもティファニーは自分で行動しているつもりだったのだろうが、おそらくドリーの掌の上で踊らされていたに違いない。
 純真そうに「愛しのジョナタン様の色を婚約者は着れるのよね、羨ましい」とでも言ったのだろう。


〈許すまじ!〉
 一声鳴くと、『リズ』は侯爵の膝から飛び降りた。
 そして扉の前で振り返る。
「どうした?リズ。扉は開いているだろう?」
 侯爵が声を掛けてきたので、『リズ』は扉を前足で押して大きく開ける。
 そして「にゃ~ん」と侯爵を呼んだ。

「ん?どうした?一緒に散歩に行きたいのか?」
 侯爵がニコニコしながら席を立ち、扉の所に居る『リズ』へと近付く。
 すかさず『リズ』は走り出し、数メートル先で振り返り、また鳴いた。
「追い駆けっこかい?」
 侯爵が『リズ』へ近付くと、また走り出し、一定の距離で振り返り鳴く。
 それを繰り返し、ある部屋の前で『リズ』はピタリと止まった。

「にゃーーーん」
 まるで「開けて」とでも言うように、扉を前足でタシタシと叩き『リズ』が鳴く。
 実際には〈おいコラ!出て来いよ!ティファニー!〉だったのだが……。

「ここに入りたいのか?」
 侯爵がノックもせずに扉を開けた。
 それはそうだろう。
 今日はを使う予定は入っていない。
 扉を開けて室内へ入った侯爵は、今までのにこやかな顔を引っ込め、室内に居た二人を睨み付けた。


「誰の許可を得てここで商売をしている?」
 地を這うような侯爵の声に、宝石商はソファから飛び降りて床に平伏ひれふした。
「わ、わたくしはジョフロワ公爵家のジョナタン様から婚約者様へ贈り物をする為に遣わされた者です」
 宝石商が一気に話す。

「ほぅ?それならばなぜ、婚約者が居ないのに屋敷に上がり込み、赤い石などすすめている?」
 侯爵の声が一段低くなった。
 宝石商は「は?」と言いながら、侯爵の顔を見る。
 その表情は心底意味が解らない、と言葉以上に語っていた。


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