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黄金週間

第521話:楽しい地獄

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『お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぁ゛あ゛あ゛』
 どこかで聞いた事のある呻き声。
 あれだ!ホラー映画のゾンビが出す声なのか、音なのか、あれだ。
「ぎゃあぁぁぁあ!」
 そして、その合間に聞こえてくる絶叫。
 今【魔鬼連隊デモニックレギオン】の敵は【sechs(ゼクス)】ではなく、地獄の亡者だ。

「これは、有りなのか?」
 後ろでボソリとジルドが呟くのは、聞こえない振りをしておく。
「従魔の技の1つだと思えば。多分」
 咲樹が普通に話している。そこはリコンスを見習って、キャラを貫き通せよ。

 早々に鎧を脱いでしまったレイが俺の方へ歩いて来て、すぐ側にひざまずいた。
「ほら、もう硬くないですよ?誰か来ませんか?」
 俺の周りのモフモフ達に、両手を広げてアピールしている。
 諦めて無かったのか。


<服の中に入れてくれるにゃ?>
 ネルが可愛く見上げると、レイが綺羅作モコモコパーカーに着替え、もう一度両手を広げた。
 ネルは、怖くて動きたくないのか、力が入らず動けないのか、それとも別の意図があるのか、俺の顔を見上げてくる。

「隠れておいで」
 俺はネルをそっと抱き上げると、レイに渡した。
 レイは裾側からネルをパーカーに入れ、上手いこと服の中に納めた。
「ふわぁ、安心にゃ」
 ネル可愛い声が聞こえた。


 そして、俺の横で微動だにしないガルムは、相手の本拠地があるであろう辺りを見ている。
 どうやら眼前に広がる地獄絵図には、全く興味が無いらしい。

 岩山等の配置は変わっていないから、フィールドを地獄に変えたのかと思ったが、それなら亡者まで居るのはどうなのだろう。
 地獄を召喚しているのか?
 亡者に混じって犬や蛇が居る。
 赤黒いのは、そういう種別なのだろう。決して、血が乾いているのでは無いはず!!

 亡者が敵異界人プレイヤーを掴んだまま泥に沈んで行く。
 何か叫んでいるけど、遠くて聞こえない。
 これならば、咲樹の魔法で瞬殺される方が良いな。



〈【魔鬼連隊デモニックレギオン】の戦闘不能者が7割を超えたので、【sechs(ゼクス)】の勝利となります〉

 突然、アナウンスが対人戦闘PvPの終了を告げる。
 いつにも増して何もしなかったな、俺。
 いつも以上にモフモフに埋もれていただけだった。
 最近狂戦士バーサーカー気味のヨミですら、今回は俺と一緒に居たからな。

 これがリルとかムンドとかが暴走したのなら、おそらくヨミはキレまくるだろうけど、今回はガルムなのでその辺は心配していない。
 ヨミは、絶対にガルムにだけは逆らわない。
 小さい頃に非常食として捕えられたからだろうか。


「いやぁ、ちょっと予想外過ぎて……凄いね」
 オーべが俺の横に来て、まだ相手の陣地を睨み付けているガルムを見上げる。その顔色はちょっと悪い。
 いつもののほほん口調も封印されている。

 余談だが、皆から少し離れた所で、獣化したユズコとリルがじゃれあっていた。
 俺が狙われた時にレイは獣化を解いたけど、そのまま戦闘出来るユズコはまだ白虎のままである。
 リルはジルドにシズカを預けた後、獣化したユズコと遊んでいたようだ。

 この雰囲気の中、いつも通り過ごせるコイツ等凄いな。


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