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51:王太子と三人の……

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「お、お洋服が」
 タイテーニアが王太子に向かって言った「真っ黒」発言を誤魔化そうとそう言うと、王太子が笑う。
「今日の服は水色が主だけど?」
 その笑顔を見て、もう「笑顔が」で良いんじゃない?とタイテーニアが思った時、オベロニスが王太子から隠すようにタイテーニアを抱きしめた。

「殿下」
 オベロニスの冷たい声が部屋に響く。
 護衛と侍従がソファの前に回ろうとするのを、王太子は手で制した。
 オベロニスに庇われているタイテーニアが、その腕の中で「ヒッ」と小さい悲鳴をあげた。
 その様子に覚えがあるオベロニスは驚く。
 勿論、顔に出す愚行はしない。

「ティア、誰だか確認して貰えるか?」
 タイテーニアの耳元で、向かいに居る四人には聞こえないように、オベロニスはそっと囁く。
 コクンと頷いてから、タイテーニアはゆっくりと視線を四人に向けた。


 タイテーニアの目には、侍従からオベロニスへ向かう青黒いモヤがハッキリと見えた。
 そして、何と王太子に向かって護衛の一人から黒いモヤが伸びていた。

「え?何で!?」
 タイテーニアの様子が変わったのに気が付いた王太子は、護衛二人を部屋から出す。
「廊下で待機してくれ。厳つい男に睨まれていたら、公爵夫人も落ち着かないだろう?」
 そんな理由で良いのか?とタイテーニアはちょっと思っていた。

 そしてもう一人残っていた侍従には「メイドに紅茶を変えるよう頼んで来てくれないか。今度は、スッキリしたのが良いね。それと、女性が喜ぶスイーツも忘れずにね」
 と、やはり無理矢理な感じで追い出していた。


「それで、何か判ったのかな?」
 王太子がタイテーニアに声を掛ける。
 まだオベロニスの膝の上に居るタイテーニアは、不安そうな瞳でオベロニスを見る。
「ティアの事は、悪意に対する勘が鋭いとしか説明してないよ」
 力の事はバラしていないと、オベロニスは暗に言っていた。

「でも、今の方達が一緒に来たのには、意味が有るのですよね?」
 タイテーニアの問いに、オベロニスだけでなく、王太子も苦笑した。



 あの三人が選ばれた理由は、オベロニスが体調不良になる確率が高い事と、家系的に王族と因縁がある事だった。

「詳しくは話せませんが、侍従の方はオーベン……旦那様を酷く妬んでいるようです。恨みもあるかもしれません」
「侍従?では護衛は……」
 王太子の問いに、戸惑いながらもタイテーニアは頷く。
「はい。あの……護衛の背の高い方は、王太子殿下を恨んでいらっしゃる……ような、気がしなくもないです」

「そう……か」
 王太子はショックを受けた様子は無く、むしろ納得した表情で頷いた。
「それで、何が真っ黒なのかな?」
 王太子がタイテーニアをまっすぐ見つめて、笑った。


 まだ終わってなかったのかよ!!と心の中でツッコミを入れつつ、タイテーニアは笑顔を向ける。
「実は、王太子殿下から見えない肩口に汚れが付いておりますの。払ってもよろしいでしょうか?」
 普通に考えたらとんでもない申し出なのだが、真っ黒いモヤが気になっているタイテーニアは、気が付いていない。

 王太子に視線で問われたオベロニスは、無言で頷いた。
 やらせて大丈夫、むしろやってもらえ!という気持ちを込めて、オベロニスは頷いていた。


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