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26:画策する者達

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「やっと実家にされたそうです」
 フィロスティー・レイトス大公のもとに、諜報員が報告に訪れた。

 シセアス公爵家に、しつこく婚約を迫っていたシリー伯爵家。
 タバッサの実家である。
 何度断っても諦めず、とうとうタバッサは行儀見習いと称して、直接シセアス公爵家に乗り込んで来たのだ。

 見習い侍女として、公爵家に貴族の令嬢が来る事は間々ままある。
 しかしタバッサは、侍女になるには教養が足りな過ぎた。
 それでも諦めず、今度は行儀見習いメイドとして来たのだ。


 本来行儀見習いメイドは、貴族との婚姻より手に職を得たい下位貴族の令嬢がなるものだった。
 公爵家からの紹介状を持って、少しでも条件の良い職場に行く為だ。
 本気で仕事に来ている令嬢の中で、当たり前だがタバッサは浮いていた。

 他の行儀見習いメイドが下位貴族なのを良い事に、仕事は押し付けるし、朝夕の自分の世話さえさせていた。
 ある日頬を赤くした令嬢が居たため、メイド長が話を聞いて発覚したのだ。

『メイドには向かず、他の者の仕事の妨げになる』

 メイド長の訴えを聞き、シリー伯爵家にタバッサを迎えに来るように連絡をしたが、伯爵家は迷惑を掛けたメイド達に慰謝料を払うと言い出した。
 行儀見習いメイド達は、同年代の令嬢の居る伯爵家に睨まれたく無いので、それを了承した。


「まったく、姑息で卑怯な事が得意な家だ」
 当時の怒りが再燃したのか、レイトス大公が吐き捨てる。
「下手に追い返して、あの娘達が逆恨みされても可哀想で不承不承ふしょうぶしょう受け入れましたが、今度は思いっ切りやれますね」
 フフッとたのしげに笑ったレイトス大公へ、諜報員は水を差す。

「申し訳ございません。シセアス公爵から「手出し無用」と言伝ことづかっております」
 ガッカリしたレイトス大公は、諜報員に「返品令嬢って悪評流しておいて」と命令した。
「それくらいなら良いよね?」とちょっとねながら。



 シセアス公爵家の執務室で、シャイクス家の紅茶を飲みながら、オベロニスはクスクスと笑う。
「フィロス従叔父おじ様は、過保護だな」
「元々シリー伯爵家を嫌っておりますので、余計でしょう」
 スチュアートが応える。

「本当はあの時に、食堂にあの女が居た時点でおかしいのだが、本人が気付いた様子は?」
 あの時とは、オベロニスが「妻」の存在を初めて口にした時の事だ。
「いえ、全然気付いておりません。坊っちゃまの側に行けると浮かれておりました」

「セバス」
 名前を呼ばれたセバスチャンは、ニコリと微笑む。
「申し訳ございません。明るく健康的なオベロニス様を見たらつい」
 子供の頃からの付き合いである執事に、オベロニスは苦笑を返した。


「他に辞職願いを出した侍女やメイドは居ませんか?」
 スチュアートがトーマスへ問う。
「侍女はおりませんが、メイドは二名。領地へ帰り結婚すると申した者がおりました」
「ほう」
「タイテーニア奥様には、本当に感謝しかございませんね」
 スチュアートの珍しい満面の笑みに、皆は少し背筋が寒くなった。



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従叔父は、本当は「じゅうしゅくふ」と読みます。従甥側から見た呼び方で、父母より年下です。(上だと従伯父じゅうはくふ
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