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17:美味しいに貴賎無し
しおりを挟む「オベロニス様!グラタンを作ってみましたのでご試食ください」
四阿に大きなトレーを持って来たのは、公爵家の料理人二人だ。
トレーの中には、3口くらいで食べ切れそうな小さな深皿が沢山並べられている。
「こちらがエビ、こちらは茸、これが鶏、ポテト、南瓜、茄子のミートソースグラタンです」
どれだけ作ったのか。小さいけど全種類食べたらお腹いっぱいになりそうである。
「本当は鮭とか帆立とか、ほうれん草とかも作りたかったのですが、具材が無くて」
伯爵家の料理人が苦笑する。
食材は毎日買いに行き、安くて良い物を買うのだ。
今日はレシピを習いに来ると聞いていたので、これでもいつもより多く仕入れていた。
「大丈夫です!また来ますから!次はカレーを教えてください」
料理人同士で、次の約束が出来ているようだった。
「え?カレーですか?」
驚いた顔をしたのはタイテーニアだ。
「何か問題があるのか?」
オベロニスが問い掛けると、戸惑ったように視線をウロウロさせる。
「えぇと、オーベン様は、カレーをご存知でしょうか?」
「他国から入ってきた香辛料の多い料理だろう?」
頷きながらも苦笑したのは、タイテーニアだけではない。
伯爵家の料理人もだ。
「おそらくオーベン様の知っているカレーは、高級なものだと思います。うちのカレーは『庶民カレー』で、何日も煮込まないし、具材も安い物で、しかもご飯に直接掛けて食べます」
バゲットに1口分載せて、上品に食べる貴族の高級カレーとは違うと言いたいようだった。
「え?でも美味しかったですよ?」
なぁ、と隣の料理人と頷き合っているのは、公爵家の料理人だ。
どうやら今日の伯爵家の夕食は、カレーのようだ。
何日も煮込みはしないが、朝に作って昼に温め、また夕方から煮込むのが伯爵家の定番の作り方だ。
今日は公爵家の料理人にレシピを教える為、夕食を作り置き出来るカレーにしたようだ。
「辛さも控えめで、私は庶民カレーの方が好きなくらいです。例えオベロニス様にお出し出来なくても、使用人の賄いとして覚えたいです」
え?それは本人の前で言って良いの?と皆が思ったが、カレーに思いを馳せる料理人は気付かない。
「私にも食べさせてくれよ」
苦笑しながら、それでもオベロニスは許可を出した。
その後は護衛と庭師も加わり、沢山のグラタンを試食した。
公爵家側の人間に、ほんの少しだけではあるがカレーが出された。
「本当は、もう2時間ほど煮込んで完成です。今食べても問題は無いですから、その点はご安心を」
そう言ってから振る舞われたカレーは、公爵家料理人の言う通り充分に美味しかった。
皆で楽しい時間を過ごし、幸せな気持ちで伯爵家を後にした。
その帰りの馬車の中。
伯爵家が見えなくなった瞬間に、空気が変わった。
「ご報告いたします」
オベロニスと一緒に馬車に乗り込んだ護衛が口を開く。
「何があった?」
タイテーニアは気付いていなかったが、オベロニスはトラブルがあった事に気付いていた。
「実は……」
護衛は、伯爵家の護衛兵から伝えられた事を、そのまま一語一句変えずに伝えた。
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