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01:善良過ぎて不幸に

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「お前の家は、うちの伯爵家との共同事業があるから生活出来ているんだからな」

「お前の家は、うちの伯爵家に見捨てられたら没落するしか無いんだからな」

「お前が逆らったら、婚約破棄してやるからな!そしたらうちからの援助は無くなるからな!」

「貧乏伯爵家のくせに、生意気に嫉妬なんかするな!俺が誰と出掛けようと、お前には関係無い!」

「俺と婚約出来ているだけでどれだけ幸運だと思っている!役立たずの穀潰し貴族のクセに」


 これが、タイテーニアが婚約してからずっと、婚約者であるニーズに言われていた言葉である。
 同じ伯爵家という立場ではあるが、タイテーニアの実家であるシャイクス家は貧乏だった。
 領民には慕われている善良な領主であるが、貴族にしては正直過ぎた。


 冷夏による飢饉が領地を襲った時、タイテーニアの両親は、持っていた備蓄を全て領民に分け与えた。
 翌年納める分の税金となるはずだった糧まで、領民の命には代えられないと全て放出してしまったのだ。

 国には素直に報告し、国への借金という形にして毎年少しずつ返済する事になった。
 事が事だけに、分割納付だが分割手数料や延滞金は掛からない事になったのが、せめてもの救いだろうか。
 そしてここから貧乏伯爵家としての生活が始まった。


 国からは、飢饉による死者が一人も出なかった領地として、褒められ、税金の分割も許された。
 そしてその後、隣の領主であるボトン家と共同で事業を起こす事が決まり、くだんの婚約者との政略結婚も決まった。


「政略結婚なんてしなくても、共同事業は成り立つのになぁ」
 タイテーニアの父であるタイターニが今日も溜め息をこぼす。
 実は備蓄の放出は、隣のボトン家領地へも行われた。
 それはボトン家がシャイクス家へ借金をする形になったのだが、婚約を結ぶ事により『催促無しの有る時払い、利息無し』とされてしまった。

「借金を返済するには、領民へ長期にわたり重税を掛けなければならない」
「一人も死者が出なかったシャイクス領と違い、自分の所は領民が減ったのだから大変だ」
 一瞬納得しそうな話だが、実はシャイクス家へ全負担を押し付けている。
 本当に返済する気があるのなら、シャイクス家と同じように国に借金すれば良いだけなのだから。

 しかし超が付くほど善良なシャイクス家は、ボトン家が返済する気が無いなどと一切疑っていなかった。
 共同事業と借金、両方を円滑にする為には親戚関係になった方が良いと、ボトン家に押し切られたシャイクス家。

 実はその共同事業も、ボトン家が業者と癒着し、借金はシャイクス家へ、利益はボトン家へと流れているなど知りもしなかった。



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善良というか、お馬鹿さんな気もしますが、それが無いとお話が始まらないので、全力スルーの方向でw
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