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学園編
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しおりを挟む学園の門の前で、カミラ・リンデル伯爵令嬢は王太子の馬車を待っていた。
1番最初に出て来るのは王家の馬車と決まっている。
今日からは第二王子も学園に通うらしいので、今までみたいに馬車が来たからと駆け寄ってはいけない。王太子にはそう注意をされていた。
「あ、馬車」
遠くから馬車が走って来るのが見えたが、王太子の言葉を思い出して馬車通から少し離れて待つ。
いつもなら減速する馬車が、そのまま目の前を通り過ぎて行った。
「あれが第二王子の馬車かぁ」
確かに重厚感があって高そうだけど、王太子の白い馬車の方が好きだな、と見送る。
実際にはヘルストランド侯爵家の馬車なのだが、それをカミラが知るわけも無い。
次に来た馬車は、門の近くで減速し、カミラの前で停まった。
いつものように護衛が後ろから降り、馬車の扉を開ける。
護衛が手を貸す前に、カミラは車内へと乗り込んだ。
「モンス様、お勉強お疲れ様でしたぁ」
カミラが声を掛けるが、王太子は「あぁ」と短く返事をしたきりだ。
いつもなら「ありがとう」と笑顔が返ってきてこの後の予定を話し合うのだが、今日は重苦しい空気で会話が続かない。
「何かあったの?」
カミラが俯き加減の王太子の顔を下から覗き込む。
貴族令嬢らしからぬ行動に、いつもなら嬉しそうに笑うのに、王太子は嫌悪の表情を浮かべた。
「カミラ、伯爵令嬢に相応しい行動をしろ」
王太子に冷たく言い放たれ、カミラは目を見開く。そして、瞳を涙で濡らし始めた。
「心配してあげたのに……」
その上から目線の物言いに、王太子の機嫌が更に悪くなる。
「クラウディアなら、こんな事無かったのに」
王太子の口から出た女の名前に、カミラの表情が変わった。
「クラウディアって、誰?」
カミラが低い声で問うと、王太子はあからさまに呆れた顔をする。
「正妃になる女だと説明しただろうが」
そんな事も覚えてないのか? と王太子は馬鹿にしたように笑うが、カミラには言われた記憶が無い。
婚約者がいる、正妃になる女がいる。
出会った当初から王太子はカミラにそう言っていた。
父親である伯爵に婚約の件をせっつかれたカミラは、王太子に言われた事をそのまま伝えた。
「何を言ってるんだ。王太子殿下に婚約者はいない。確かに昔はいたらしいが、母親が事件を起こして白紙になったんだ」
父親にそう説明されたカミラは、今度はそれを王太子にぶつけた。
カミラから婚約者の話を聞いた王太子の言動は、どこかおかしかった。だが、カミラはそれ以上は追求しなかった。
だから、クラウディアなんて女の話は聞いていないのだ。
「聞いてないもん」
不貞腐れた態度のカミラ。
昔は可愛いと思ったが、子供が生まれても正妃なっても態度が変わらず、公の場では何度も恥を掻かされ……そこまで考えた王太子は、緩く首を振った。
これは、前回の記憶だ。
今はまだ学生だし、カミラとは結婚していない。
そもそもクラウディアとも結婚していない。
クラウディア。
クラウディア・アッペルマン公爵令嬢。
完璧な淑女であり、優秀な王太子妃。
どれだけ虐げられようと、王太子への愛の為に、健気に尽くす哀れな女。
いつでも表情が乏しく、貼り付けたような笑顔で……あんな風に異性を見つめる女では無いはずだ。
「俺以外の男に馴れ馴れしくしやがって、王太子妃としての自覚が無いのか」
先程のクラウディアの態度を思い出し、王太子はギリリと奥歯を噛み締めた。
「アタシ、王太子妃になっても良いよ」
呑気なカミラの声が隣から響く。
カミラには、王太子妃は無理だった。それは既に証明されている。
王太子は、カミラを見つめて考える。この女に表舞台は似合わないし、実際に無理だった、と。
カミラが王太子の母という事を盾に表に出たせいで、王制では無く、社会主義になってしまったのだと、王太子は……いや、当時の国王は思っていた。
贅沢に金を使う事ばかりをしていた王族の象徴が、王太子の側妃だったカミラだ。
実際には王太子の母親も含めた元王妃や姉達も、勿論王太子本人も金を使うばかりで、増やす事も稼ぐ事もしなかった。
民の為に金を使う事などするはずも無く、国の事業全ては、クラウディア亡き後中止となった。
誰も何も知らず、継続する事が出来なかったのだ。
そして公表されたクラウディアの遺書。
いつしか国は王制では無くなり、社会主義へと方向転換したのだ。
真に平等な社会を目指す、と言っていたのは誰だったか。
表に出さないのならば、妃にする必要は無い。
「カミラ、王宮へ行ってみたいと言ってだろう? 今日は俺の部屋へ来るか?」
王太子はカミラを部屋へ誘う。
王族へ嫁ぐ為の条件は、カミラには必要無いだろう、と。
「え? 良いの? 行きたぁい」
何も知らない、貴族らしい常識も無いカミラ。
それは11才で王太子と出会ったのがきっかけでは有るのだが、勉強全てを放棄したのは本人の意思であり、自業自得である。
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